肥満と糖尿病 丹水社 vol.3 no.3 2004年5-6月号
糖尿病性腎症は5つの病期に分類される[図:zu.pdf(160kb)]。
まず腎生検で、びまん性肥厚が糸球体に観察される。この時期を第1期腎症前期と呼ぶ。
尿糖などで通常よりも腎臓が働き過ぎになる過剰濾過を起こすことがある。クレアチニンクリアランス(CCr)が150ml/分からそれ以上になり、腎臓が代償性に肥大する。しかし、全例と言うわけではない。
通常の生化学検査などでは診断できず、腎生検を施行しないと確定できない。「よい検査結果」に惑わされずに、腎臓が疲弊しないように、血糖コントロールと血圧コントロールを行い、長い療養生活に備えて「腎を休ませてあげる」配慮を必要とする。
高血圧に関するガイドラインでは、糖尿病者には130/85mmHgと厳密な降圧目標を設定している。その理由の一つは、第1期のように腎症が密かに始まっているからでもある。
次は第2期早期腎症である。尿テープではまだ陰性の時期であるが微量アルブミン尿が観察される。随時尿ではクレアチニンで補正した値で30~300mg/g Cre、時間尿20~200μg/分か24時間蓄尿30~300mg/日を基準とする。保険の縛りがあるので[a]3か月に1回以上間をあけて検討し、[b]早期糖尿病性腎症の病名をつけ、検査する。この時期は可逆性があり糖尿病性腎症を診る上で重要と言える時期と言える。血圧と血糖コントロールを行えば微量アルブミン尿も陰性化する可能性が高い。糖尿病特異的な結節性病変が腎生検で糸球体に観察されはじめる。
正常血圧でもACE阻害薬やA-II受容体拮抗薬に尿蛋白・微量アルブミン尿を減量させる効果があり、日本でもI型糖尿病に伴う糖尿病性腎症に限りタナトリルへ適応が認められている。治験を行っていないので同じイミダプリルであるノバロックには適応が認められていない。
次が第3期顕性腎症となる。蛋白尿が持続し、進行を止めることが困難になる。この時期以降は、微量アルブミン尿の測定は保険で認められない。通常の尿蛋白定量・定性検査を行う。
糖尿病以外の腎炎の鑑別を行う。糖尿病性腎症であれば、糸球体の結節性変化が目立つようになる。蓄尿を行い、CCrも検討する。後期と呼ばれる第3B期はCCr<60ml/分以下か蛋白尿1g/日を目安とする。より厳密な血圧と血糖コントロールが求められる。日本高血圧学会ガイドラインJSH2000では蛋白尿が1g/日以上では血圧125/75mmHgを目標にすると記載されている。この時期からは蛋白制限食に取り組み、異化を防止するため糖質と脂質を増やす。カロリー摂取は理想体重あたり30~35kcal/kgと多くする。血糖が上昇した分はインスリンを含む薬物療法を強化して対応する。運動療法も強度の強いものは控える。
血清クレアチニン(S-Cre)が上昇すると第4期腎不全期となる。1/Creプロットを行い、透析時期の検討をする。
厳密な蛋白制限の他に電解質の異常によってはカリウム・リンの食事制限を開始する。カルシウムやアシドーシスも必要があれば補正する。緩下剤のマグネシウムや胃散のアルミニウムの使用についても配慮が必要な時期となる。尿毒症の進展を防ぐためにクレメジンの使用を、腎性貧血があればエリスロポエチンの使用を、考慮する。
透析が開始されると第5期となる。透析はS-Creだけではなくて、尿毒症症状の愁訴・溢水や代謝性アシドーシスなどを加味して導入が検討される。
随時尿:糖尿があると膀胱炎を来しやすく炎症で蛋白尿や血尿を過大評価することがある。早期腎症の指標の一つの尿中IV型コラーゲンは早朝尿(<7.26/μg Cre)が望ましい。
蓄尿:不完全だとCCrの値が過小評価される。その場合尿中クレアチニンやナトリウムで判断する。Creは約1g/日、Na(mEq/日)は17で割ると食塩摂取量(g/日)も判明する。
膵移植での検討から厳密な血糖血圧コントロールで荒廃した糸球体からも改善が皆無でないと示されたが、多大な努力の結晶であり、万人に可能な治療法でもない。
早期発見・早期治療にて糖尿病や糖尿病性腎症にならないことが肝腎と思われる。平成9年度糖尿病実態調査では、未加療糖尿病者の10.7%に腎症が報告されている。糖尿病者の700万人余の内5万人は維持透析で、糖尿病のない維持透析15万人に比べ、格段に高頻度である