酒量消費量の伸びと沖縄の肝臓

2013-3-12

神戸大学の中澤先生に拠ると、沖縄の死因別損失余命の平均寿命の順位低下には肝疾病が効いていると言う。

minato_nakazawa
平成22年都道府県別生命表データにおいて,沖縄における損失余命が他都道府県よりも大きい死因が肝疾患,糖尿病,自殺である

沖縄の特徴は返還前から全国水準より少なかった肝疾患が1990年頃より反転し全国の2倍程度に21世紀に入り増大した点である。

肝疾患の死亡の増加
沖縄における肝疾患の細目2009年

本土では、ウイルス肝炎を予防接種などで負った世代が高齢化するに従って、逓減している肝疾病だが、沖縄県ではB型・C型肝炎の割合は少なかった。沖縄県立南部医療センター岸本先生に拠るとC型肝炎は人口ベースで「全国1%:沖縄県0.3%」肝癌患者を分母にして「HCV 抗体陽性率 全国67.7%: 沖縄3 施設17 ~ 36%」B型肝炎がやや多いがしかし、過半数が非B非C肝疾患で占められているという事になる。
どう違う?沖縄と全国の肝癌
~肝臓週間(7/23 ~ 7/29)に因んで~
一方、肝硬変などにアルコールの関与を示す統計は多い。衛環研ニュース21号や沖縄県衛生環境研究報44号に詳しい。
「結核対策としてツベルクリンやBCGを採用しなかった」「医師不足ゆえに医療機会が少なく、マイマイ医者に遭遇せずに済んだ」としたらそれは自虐的な話ではある。
猿島興津など、注射による感染拡大/場合に拠っては疫学調査に拠る二次拡大も含めての話である。

山梨で血清肝炎が同じく肝硬変を来す日本住血吸虫対応で多く見られ東日本で一番だったおりも、沖縄はグラフで最下位と他の西日本から隔たった結果を示している。
昭和50年代の山梨県の肝疾患
神奈川県立がんセンターではC型肝炎を背景とする肝ガンが7割、B型肝炎が2割、アルコール性・非アルコール性を含む脂肪肝を背景とする患者さんが1割である。脂肪肝を素因とした肝臓癌の患者さんでは、55%に糖尿病、78%にBMI25以上の肥満を認めている(NBNC型肝細胞癌の臨床的特徴、神奈川県がんセ、亀田亮ら、神奈川医学会雑誌39-1)。
もちろん、C型肝炎が大酒家肝炎と見なされていた過去から、新たな肝炎ウイルスが沖縄で見いだされる可能性も完全には否定出来ないが、あくまでも可能性である。

沖縄での肝疾患の増加にはアルコール消費量の増加が効いている様に思われる

泡盛の出荷数量は、昭和 51 年度の 8,762kℓから平成 22 年度には 22,766kℓ(2.6倍)に増加、
ビール類の出荷数量は昭和47 年度の 23,606kℓから平成 22 年度には 53,702kℓ(2.3 倍)に増加している。
なお、県外出荷比率についても22年度には泡盛は 15.2%、ビール類は 11.1%を占めるまでに至っている。 (沖縄県産酒類に係る酒税の軽減措置)
沖縄のアルコール飲料出荷額:沖縄振興開発金融公庫

復帰前の沖縄は輸入関税が無く、洋酒(ウィスキー)が好まれ2,200kℓだったが、その後漸減している泡盛業界の現状と課題~最近の泡盛・もろみ酢の動向を中心に。「昔は泡盛は隠れた存在だった」としても、泡盛の半分を占めていたウィスキーが、グラフで読み取り難いほど減少しても、アルコール摂取量としては著しい増加になる。返還直後の通関額でほとんどが洋酒を絞める飲料が12億円、観光戻し税制度で平成元年に掛けて46億円まで増加したが、平成5年までに24億円に減少し、昭和48年比では2.5倍、平成元年比34.2%減。平成元年比ではウィスキーの減少(33.8%減)が最も大きく、ブランデー、ぶどう酒、ビールも減少し(本土復帰後の貿易統計)、平成13年ウイスキー・ブランデーの戻し税は9800万円と減少、平成14年に同制度は廃止され、平成15年の沖縄の通関統計では飲料は独立した項目としては省かれている。

一方、本土では昭和50年から平成10年に掛けて、酒類の総出荷量は582万klから933万klに増えているが、390万klから710万まで増加した麦酒も雑酒と相殺で頭打ちであり、焼酎類が20万klから73万klに増えたとしても、清酒の減少135万klから78万klと相殺で頭打ちとなる。その後、平成10年から22年に掛けて、日本全部では896万klまで減じており消費は6割強しか増えていない。酒のしおり
当日有権者数は沖縄県第10回参議院議員通常選挙61万人から第20回105万人(7割増)、全国は7536万人から1億2059万人(6割増)であり、日本人全体はアルコール摂取量が減っているのに、沖縄は増えている事になる。

肥満はどれほど効いているのか

沖縄県民健康栄養調査報告書では、既に昭和63年の時点で、ほぼ半数がBMI25を超える過体重状態で、平成23年に至り7割方BMI25を超えている。
平成10年沖縄
平成23年沖縄
アルコールを日常的に摂らない場合も脂肪肝が関与するNASHによる肝臓疾患も想定はされる。
しかし、単因子に拠る物でもない。長年、健診データを見ると、ガンマGTPは中央値で概略、アルコールも肥満もない集団で20、肥満だけが40、毎日3合以上の飲酒で40、肥満かつ毎日3合以上の飲酒で100と、相加作用が観察される。

何れにしても軽減税率制度を維持しようとする沖縄県の動向は、健康を謳う観光の目玉を台無しにしかねない。
WHOアルコール課税効果を提唱している。政権交代しても「同じアルコール度数なら同じ税率にする」政策を目指すべきであろう。
肝細胞癌は悪性新生物に含まれ、沖縄では全国よりも少ない。 肝硬変などそれ以外の肝疾患の死亡が沖縄では多く、特に男性のアルコール性肝硬変は10万人当たり13.6件と全国の6件を大きく上回る。
ざっくり、25名は超過死亡があるとして、著しい無理は承知で、命の値段を計算してみよう。
酒税軽減額は泡盛が年間約20億円、ビールが10億円など総額で36億円に上る(08年度)。税額ベースの1億3千万円程度になっている。
産業規模として泡盛は300億円になるが、酒税を上げた分、酒造業が萎縮し、失業で自殺者がふえるなど、差し引きの計算も必要だろうが、過剰飲酒では3倍程度自殺者は増えるので、それは相殺されるのではなかろうか?もちろん、費用対効果に自殺者の減少を含めれば、さらに、分母が増えるだけ、人の命は軽くなる。
費用対効果として命を取り入れないのは合目的性でもあるのだろうか?ピンピンコロリ?乗数効果


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