横須賀北部共済病院 抄読会 平成16年夏
Stroke prevention with the oral direct thrombin inhibitor ximelagatran compared with warfarin in patients with non-valvular atrial fibrillation (SPORTIF III)Lancet 362 p1691
NVAF(非弁膜症性心房細動)の高齢者へのワーファリンによる抗凝固療法は有効性が広く認められてい るが,1)ワーファリンの用量設定がむづかしい 2)毎月の採血が必要 3)薬物相互 作用や食物の影響をうける 4)出血の危険がある,などなどの理由で使用が普及 しない.
ビタミンKを介さない抗トロンビン作用を直接持つメラガトランが開発され, 内服が可能になったpro drug のザイメラガトランがアストラゼネカによって開 発され,ワーファリンとの比較検討が行われた.その一つがSPORTIF IIIで一部 日本から参加があった.
機序についてはアルガトロバン(スロンノンなど)とおなじであるが、バイオアベイラビリティー(生物学的利用能)を高め、経口剤として使用可能にした物である。
3410名のAf(心房細動)とそれ以外に1つの危険因子をもった18才以上の患者にオープンラ ベル試験をおこなった.ザイメラガトランは36mg2xで一定量内服させた.
平均17.4ヶ月の観察期間中,総数で96例(ワーファリン群56例[2.6%/yr] vs ザイメラガトラン40例[1.6%/yr] , p=0.10)の1次エンドポイントの脳硬塞その ほかの塞栓が観察された.死亡は同数で,心筋梗塞はザイメラガトランの方が, 大出血はワーファリンの方が,多い傾向を示したが有意差はなかった.内服の中 止が必要だった小出血も含めるとザイメラガトランが有利であった(ワーファリ ン群 547例[29.8%/yr] vs ザイメラガトラン478例[125.8%/yr] , p=0.006)
特にアスピリン併用では(ワーファリン群 52.1% vs ザイメラガトラン35.5%) では出血が顕著であった.アスピリンを使用していない群ではあまり差はなかっ た(ワーファリン群 26.3% vs ザイメラガトラン23.7%)
肝機能異常がザイメラガトランで多く観察されたが中止により回復した。
チクロピジンやワーファリンの様な古典的な薬で済めば良いがモニタリングの必要や薬物相互作用に難があり使いにくいので、チクロピジンであればPlavix®[clopidogrel pdf]やCS-747[prasugrel] 、ワーファリンであればEXANTA ®[ximelagatran]を使いたいのは人情である。
しかし、米国の当局は新薬の申請を未承認としている。
欧州でも人工関節手術後の深部静脈血栓症の予防には認めているが、SPORTIF IIIで目指した、より市場の大きな心房細動患者への投与は保留中で更なる試験を求められている。
COX-2にまつわる騒動のあとでは有意差が無い物の心筋梗塞の多い傾向を見過ごすのは困難で、非劣化試験ではなく圧倒的な優位性を主張しないといけないのであろう。また、PLAVIXが一概に優れている訳ではない事が判ってきたので[CHARISMA試験]、より慎重な治験が必要とされるのだろう。