第2回P-drugワークショップに参加して
[日本病院薬剤師会雑誌 2000; 36(10): 11-2より]

埼玉医科大学総合医療センター薬剤部・楠美里子

  P-drugという言葉を全く聞いたこともなかった私がこのワークショップに参加することを決めたのは、たまたま開いていた 雑誌の頁に「医薬品の適正使用」「薬物療法の質」「WHO」等の言葉と共に開催広告が掲載されているのを目にしたからである。

 常々、病院薬剤師として業務をこなしていく中で、果たしてこの医薬品がこの疾病の治療に必要なのだろうか、また、薬事委員会で 医薬品の新規採用を審議するにあたり、採用品目と比較検討しながら、なぜこの医薬品が必要なのだろうかと疑問に思うことは少なくない。 その都度、「医薬品の適正使用とは?」と頭を悩ませ、更には「適正使用とはどういうことなのだろう?」と考えることが昨今多かったのである。 この「医薬品の適正使用」についてのワークショップは、まさに私が疑問に感じていることを解決してくれそうな予感がしたのである。

 このワークショップは対象者を「大学、病院、企業関係などで医薬品の適正使用について教える方、今後教える予定のある方、 薬物療法の質をあげたい方など」とし、Prof. Kumud Kumar Kafle (TU Teaching Hospital, Nepal)を講師に迎え、平成11年8月27日(金) 〜29日(日)、大津市で開催された。薬剤師がこの対象者に該当するかどうか、また講義が英語で行われるという点で参加を躊躇したものの、 思い切って参加したところ得るものの多い充実した3日間であった。

 講義が英語で行なわれたため、内容の全てを把握できたとは言えないが、先ずワークショップの概略を述べたいと思う。

 P-drugとはpersonal drug (或いはpriority drug)のことで「自分の手持ちの薬」とネーミングされている。臨床医(途上国ではprescriberが 医師でない場合も多いが)が患者を治療するにあたり、薬物治療が必要であれば、自分が日常よく診る疾患群についてそれぞれの疾患毎に 予めP-drugを選択しておくことで合理的に治療を進めることができる、というものである。そして、このP-drugを選択するにあたっては、 他の人々(先輩医師、根拠に乏しい製薬企業の情報など)が考え、実行していることを盲目的に真似るのではなく、自分自身でエビデンスに 基づき、医薬品を選択しなくてはならないとしている。

 具体的にその手順を下記に示す。

P-drug選択のステップ Steps in choosing a P-drug
  Step@  診断を定義する  Define the diagnosis
  StepA  治療目標を特定する   Specify the therapeutic objective
  StepB  有効な薬物群の目録を作成する
        Make an inventory of effective groups of drugs
  StepC  クライテリアに従って有効な薬物群を選択する
        Choose one effective group according to criteria
  StepD  P-drugを選択する  Choose a P-drug

 ワークショップでは講義の後、小グループに分かれ、それまでの講義内容を実践するグループアクティビティが行われた。

 課題は「Each group will develop P-drug for a 45-year-old man with essential hypertension. His Blood Pressure is 145/100mm of Hg」である。

 実行委員会によって準備された種々の書籍を両手に抱え、それぞれグループ毎に前述のステップに則りP-drugを選択していくわけである。 私のグループは医学部臨床薬理学助教授、臨床医3人と薬剤師である私の5人であった。 P-drugを選択しなさいということであるから薬物 療法をすることが前提となっているが、果たしてこの患者に薬物療法が必要なのだろうか? 患者情報は甚だ希薄であるが、ワークショップで 常に言い続けられていたことはエビデンスに基づいて治療法を決定していくというものであるので、あえてそこからスタートしてみた。

 そこで、COCHRANE HYPERTENSION GROUP、 Abstracts of Cochrane Reviewsを見ると、 ゛Dieting to reduce body weight for controlling hypertension in adults"が検討されており、レビューの結果が以下のように結論 付けられていた。゛Weight-reducing diets in overweight hypertensive persons can affect modest weight loss in the range of 3-9% of body weight and are probably associated with modest blood pressure decreases of roughly 3 mm Hg systolic and diastolic. Weight-reducing diets may decrease dosage requirements of persons taking antihypertensive medications."

 もちろん、全ての人がこれに当てはまるわけではないが、P-drugを選択していく過程には多くの臨床試験の総合評価を有効利用する作業が 必要となり、この結果から我々はこのケースに薬物療法が必要であると納得して次のステップに進んだ。

 治療目標を血圧を下げることに特定し、有効な薬物群の目録作成にとりかかる。先ず、降圧薬を薬効群に分けてリストアップしてみると 約10分類になる。それぞれの薬効群を有効性、安全性、適合性そして費用の項目でスコア化していくが、これにも本来ならばエビデンスが 必要となる。我々は、ここでは資料も少なく時間も限られているとして有効性に関しては最も避けなければならない医師の経験を基にスコア 化せざるを得なかった。それに続き安全性、適合性そして費用評価を行い、総合点を出すことにより、我々のグループはACE阻害薬を有効な 薬物群と選択し、さらに個々のACE阻害薬に同様の評価を適用してP-drugをイミダプリルと決定した。

 各グループが結果を持ち寄り、ディスカッションが行われたが、それぞれのグループによりP-drugが利尿薬であったり、 ACE阻害薬であったり、 Ca拮抗薬であったりして、様々な結果が発表された。また、これらの結論を出すにいたるまでのスコア化の方法、評価項目の荷重が必要か どうか、など意見がかわされ、まだまだこの方法論も確立したものではなく、今後詳細な検討が必要と感じた。

 この後、先の患者に「喘息の既往がある」という情報が付加され、各々のグループが選んだP-drugをそのままこの患者に適用してもよいか どうかが検討された。グループによっては選択された P-drug が禁忌などの理由で使用できない場合も出てくるが、 P-drug選択にあたり これだけ詳細に情報を評価し、自分なりの結論を出し得たわけであるから、代替薬選択も容易であろう。

 さらに、各グループ毎に医師、患者、オブザーバー、記録係となってロールプレイングを行った。医師役は患者役の訴えを聞いてP-drugを 処方し、患者役に情報を提供するという日常の診療を、ワークショップで学んだことを応用しながら10分以内に行うというもので、薬剤師の私 にとっては医師の業務を体験する貴重な時間を持つことができた。

 このワークショップに参加して、私はわれわれ薬剤師の専門性を活かす一つの手段を学ぶことができた、と痛感している。それは、医薬品を 公正に評価する方法やツールを会得し、それを最大限に活用して医師に適切な情報提供を行う、そしてそれが医師の処方や、あるいは 薬剤師による服薬指導を介して患者さんに還元される、この一連の作業が医薬品の適正使用に繋がるのであろう、ということである。

 これらを実践するにはまだまだ学ぶべきことが多い。今後、このワークショップ参加での大きな収穫であった同じ目的を持つ薬剤師を含め、 ドクターやメーカーの方々と情報交換ができれば幸いである。そして、現在の日本の医療の中では理想的とも思えるこのP-drug の選択法が、 個々のP-drug のみではなく病院での医薬品採用などにも応用され、広まっていくことを願う。

 第1回P-drugワークショップは平成10年11月7日に浜松で、第2回P-drugワークショップは平成11年8月27〜29日に比叡山で開催された。 第3回P-drugワークショップは本年8月に2泊3日で開催する予定である。また、P-drugネットワークのホームページのURLは http://www1.sphere.ne.jp/p-drug/である。


P-drug事務局注:P-drugのURLは平成12年7月よりhttp://p-drug.umin.ac.jp/に移行いたしました。


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