国際保健と医系学生

 医系学生の間では、国際保健つまり海外医療援助への関心が高まっている。途上国での研修プログラムへ参加する学生も多い。僕には医学がいちばん人を救う学問とは思えないが、「貧困と病気に苦しむ世界の人々を救いたい」との純粋な動機、理念には賛同する。

 しかし、その理念が本来あるべき姿で成熟しつつあるとは言えない。今の国際保健は、ある特定の医療システム、社会構造を世界的に当てはめようとする押し付けがましい側面を持つ。国際保健を「異国で町医者をやること」程度に捉えて淡々と活動する人を私は心から尊敬するが、国際保健にそれ以上の意味を持たせるのは政治家のしごとだろう。

 ところで、日本の医系学生が途上国の保健医療を見る意義は何だろうか。人道主義からとは言いがたい。学生に、「君たちはヒューマニズムに基づいて国際保健の研修に行くのですか?」と尋ねてもいやな顔をされるだけだろう(はいそうです、と屈託もなく言う困り者もいるにはいるが)。おそらく、多くの学生にとって海外研修の意義は、<より悲惨な>医療事情を見ることで何らかのカルチャーショックを得ることにあるのだろう。

 ここで、カルチャーショックを受けるだけでは単なる海外旅行じゃないか、との批判が登場する。これに対する反論はいろいろあるものの、研修に「カルチャーショック」以上の意義を持たせるほどの意見は、正直言って今のところほとんど見当たらない。

 僕が思うに、国際保健研修は海外旅行の一種として位置付ければよいのだ。医療援助にヒューマニスティックなイメージを過剰に与え、その研修だからといって少しでも立派なこと、大切なことをやっているように錯覚するのはやめたほうがいい。

 僕たちが注意することがあるとすれば、それは研修からミーハー色を消そうと試みることではなく、逆に、研修での体験が自慢げな善意の宣伝や安易な社会構造改革論へと変質するのを警戒することではないだろうか?

 医系学生は、<美しい>理念を無条件で受け入れがちだけども、そのマイナスの側面にまでは気が回らないところがある。


 

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