やさしい頭痛のはなし

温知会間中病院
間中信也

はじめに

頭痛がひどくて、学校や職場を休んでしまった、家事ができずに寝込んでしまった、このような方は、本当に頭痛を恨めしく思うことでしょう。頭痛は、正しい知識をもって立ち向かえば、なにも怖がることはないし、楽に過ごすことができるのです。これから皆さんと一緒に頭痛について勉強していきましょう。

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頭痛を仕分けする

■頭痛は大きく二つに分けられる

頭痛は大きく二つに分けられます。脳や体になんらかの原因や疾患があって起こる頭痛を「二次性頭痛」といいます。この場合の頭痛は、体や脳の異変を知らせる警報機といえます。したがって「ありがた迷惑」ならぬ「迷惑ありがたの頭痛」といえます。一方、とくに脳や体に病気がないのに頭痛が起こりることがあります。これを「頭痛もちの頭痛」あるいは「慢性頭痛」、医学的には「一次性頭痛」といいます。 [図2]

二次性頭痛とは 脳の病気があると、頭の内の痛みを感ずる組織が、刺激されたり、引っ張られたり、圧迫されて、頭痛が起きます。このように二次性頭痛には、くも膜下出血や脳腫瘍(のうしゅよう)など「命の危険がある」病気が潜んでいることがあるので、「悪玉頭痛」といえます。悪玉頭痛は、マヒやボケを伴うなど、ふだんの頭痛と様子が違います。とくに「突然の頭痛」は、くも膜下出血の可能性があります。すぐに脳神経外科にかかりましょう。
一次性頭痛とは 二次性頭痛に対して一次性頭痛は「善玉頭痛」といえます。片頭痛と緊張型頭痛、それに群発頭痛が「善玉頭痛三兄弟」です。北里大学・坂井教授らの全国調査によると、慢性頭痛は成人の4人にひとりが悩み、頭痛全体では3000万人、片頭痛だけでも840万人いると推定されます。このうち病院で治療を受けている方は数パーセントに過ぎず、多くの方は自己流治療で頭痛をやり過ごしておられます。

(Q&A)頭痛の分類の根拠はなんですか

新国際頭痛分類2004(ICHD-U)によって頭痛は分類されています。それぞれの頭痛分類は診断基準が決められており、これにより世界共通の頭痛分類と診断がなされます。ちなみに頭痛の診療は、2005年に公表された「慢性頭痛の診療ガイドライン」が指針となります。(日本頭痛学会のホームページ((http://www.jhsnet.org/)で閲覧可能です)

もっともインパクトの強い片頭痛

片頭痛は、頭の片側のこめかみのあたりが、ズキンズキンするひどい頭痛が特徴です。吐き気がして吐くこともあります。しかし片頭痛といっても、頭の両側が痛むことが4割もあります。片頭痛は「ズキンズキン」が特徴とされていますが、ひどくなると持続性の痛みとなりますし、ズキズキしないことも5割あります。片頭痛の頻度は、月に1〜2回が多いようですが、何カ月にもわたり連日続く慢性片頭痛のタイプも知られております。
診断基準を表に示します。[図6]
ひとによっては、ギザギサの閃光が拡大して眼が見えなくなる前兆(閃輝暗点)が20〜30分ほど先行してから、頭痛が起こります[図7]。このタイプの片頭痛を「前兆のある片頭痛」といいます。〔図6〕〔図7〕

 

(Q&A)なぜ片頭痛が起こるのですか

「三叉神経血管説」という説が有力です。ストレスなどのトリガーにより三叉神経(痛みを感ずる神経)から痛み物質(正確にはCGRPなど血管作動性物質)が放出されます。これが血管に作用して、頭の血管に拡張と炎症を招き、頭痛がひき起こされるのです。 [図8]

(Q&A)子どもにも片頭痛はありますか

小児が頭痛を訴えると、心の原因の頭痛のように思われがちですが、小児にも片頭痛は少なからず見られます(7.4%)。小児の片頭痛は下記の特徴があります。

治療については「慢性頭痛の診療ガイドライン市民版」を参照してください。

(Q&A)片頭痛は女性に多いような気がしますが・・・

女性の方が男性の4倍片頭痛が多いのです。子どものころは男女同数ですが、生理の始まるころから女性のほうに多くなります。そして30代〜40代に集中して起きます。閉経のころから片頭痛は減りますが、「女性に多い状態」はそのまま継続します。 [図9]

(Q&A)片頭痛って遺伝するの

片頭痛は遺伝的傾向があります。本人の体質(片頭痛発病の約75%が遺伝性)に、複数の誘因が結びついて発生します。親兄弟に片頭痛の方が存在すれば、片頭痛になる可能性はかなり高くなります。このような遺伝性の部分に、不規則な生活や不摂生、ストレスなどのトリガーが重なると片頭痛が起こります。頭痛が発生するのは、仕事中や運動中など緊張状態下ではなく、むしろ早朝や日曜日など、緊張状態から解放されたときに起きやすいようです。

片頭痛の回避術

片頭痛とうまくつきあうヒントを示しておきます。

■片頭痛回避のヒント

(1)食事の量 頭痛は空腹時に起こることが多いものです。血糖値が低下すると頭痛が起こります。朝食を抜くと頭痛の原因となります。忙しい朝でもきちんと食事をとりましょう。
(2)食品内容 片頭痛の誘因となる食品(付録表)は回避します。
(3)アルコール 血管拡張作用のあるアルコールは片頭痛を誘発します。その含有物も頭痛の原因となります。赤ワインがもっとも片頭痛を起こしやすく、蒸留酒は起こしにくいとされます。自分に合ったお酒の付き合い方をしましょう。
(4)寝過ぎ、寝不足 寝不足も寝すぎも片頭痛の原因となります。朝、頭痛で眼が覚める場合は、前日のカフェインのとりすぎ、前夜の飲酒、空腹、寝過ぎなどの因子が考えられます。
(5)月経周期 月経前や月経中などに片頭痛発作が集中して起こる場合は、この期間にあわせて予防薬(市販の鎮痛薬でよい)を服用するとよいでしょう。
(6)薬剤 血管を拡張させるような薬剤は片頭痛を誘発します。経口避妊薬やホルモン療法で頭痛が悪化する人もいます。その場合は医師と相談してください。
(7)外出、ショッピング 外出は、空腹、騒音、換気の悪さ、香水の匂い、暑さ、乾燥、日光等の影響から片頭痛が誘発されます。対策は混雑を避けて買い物をする、食事はきちんととる、換気の悪いところは避ける、要領のよい買い物計画を立てる、などです。
(8)サングラス 日光は片頭痛の原因となります。その場合は赤系のサングラスをかけるとよいでしょう。青系はかえって片頭痛を誘発します。
(9)旅行 旅行は種々の誘発因子が重なって片頭痛を誘発します。例えば、寝不足、緊張と不安、食事が不規則となる、車酔いなどのためです。体調を整えて出かけるように心がけましょう。場合によっては痛薬をあらかじめ飲んでおきます。
(10)入浴 温まると血管が拡張して片頭痛がおこる場合はシャワーですませましょう。

■片頭痛が起ってしまったら〜家庭内応急対策

  1. 暗い静かな部屋で横になる
  2. 痛むところを冷やす。:アイスノンや、熱冷却シートで冷却すると血管が収縮して多少とも頭痛が楽になります。
  3. 睡眠をとる:片頭痛はひとねむりで楽になります。
  4. コーヒー・緑茶の飲用:コーヒーを飲むと頭痛が軽減します。これらの飲料に含まれるカフェインの作用によります。
  5. 発作が軽いうちに鎮痛薬(バファリンなど)を服用する。
  6. 嘔吐がひどくて薬がのめなければ坐薬を使う(坐薬は病医院で処方してもらいます)。
  7. 頭痛ハチマキ:片頭痛の原因となる血管の拡張を押さえ込むことによって頭痛を減らします。

片頭痛の薬物治療

片頭痛の薬物治療にはつぎの二種類があります。

頓挫薬(とんざやく) 頭痛があるとき痛みを楽にする。
予防薬 頭痛を起こりにくくする。

あまり頻回に片頭痛が起る場合には、片頭痛の頻度・程度・持続を減らす予防薬を服用します。予防効果のある薬は、塩酸ロメリジン(市販名ミグシス・テラナス)など何種類も知られておりますが、これらは病医院でもらう薬です。予防薬を服用しても片頭痛が起ってしまったら、頓挫薬を服用します。この両者のバランスよい組合せが最良の治療効果をうみます。 [図10]

■頭痛頓挫薬の飲み方のこつ

頭痛薬を「クセになる」あるいは「体によくない」と服薬を嫌う方が少なくありません。片頭痛の初期(頭痛信号の段階)に頭痛薬を服用するのが、片頭痛を軽く済ませるポイントです。生あくびが出たり、目の前がチカチカしたり、前触れが現れたら頭痛薬を服用します。ですから片頭痛のかたは、いつでも薬をのめるように財布などに入れておきましょう。痛みが本格化した後は、血管の周囲に炎症が起り、やがて脳が痛みに敏感となり、頭痛薬を服用しても効果が薄れます。それに吐き気もして薬がのめなくなます。片頭痛は「早めに薬をのむ」、これが最大のポイントです。このことは後で説明するトリプタンについても同様です。 [図11]

■薬物乱用頭痛と慢性連日性頭痛

早めに服用するのがコツだからといって、頭痛が起こりそうになるたびに毎日のように薬をのむと、かえって頭痛が起こりやすくなります。「早く鎮痛薬を飲んだほうがよい、しかし飲みすぎてもだめ」というジレンマが片頭痛にはあります。目安としては月10回以上頭痛薬のお世話になる方は、医師のもとで薬の選択や服用方法の指導を受けたほうがよいでしょう。場合によっては片頭痛の予防的投薬をしてもらいます。鎮痛薬は毎日のようにのんだ結果、脳が痛みに敏感となり、頭痛がこじれた状態を「薬物乱用頭痛」といいます。最悪の場合、朝から晩まで毎日のように頭痛が続きます。このタイプの頭痛を「慢性連日性頭痛」といいます。 [図12]

■頭痛頓挫薬(とんざやく)

これまでは鎮痛薬とエルゴタミン製剤(カフェルゴット、クリアミンなど)が片頭痛治療の主役でしたが、現在はトリプタンという片頭痛の特異的作動薬が治療の主流です。現在、10種類の製剤があります。スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン(発売順)の5ブランド、10種類の製剤があります。錠剤はすべて、口腔錠(口の中で溶ける)がゾルミトリプタンとリザトリプタンの2種類、点鼻液と注射液がスマトリプタンの1種類です。スマトリプタンは在宅自己注射キットも上市されています。
これらはいずれも片頭痛にすぐれた効果が証明されていますが、相性がありますので、どの製剤を選ぶか主治医と相談していただくとよいでしょう。 [図13]

■トリプタンがなぜ効くか

トリプタンは片頭痛に関係するセロトニンの受容体の1Bと1Dに選択的に作用します。セロトニンの受容体の1Bに作用して過度に拡張した血管を収縮させ、セロトニンの受容体の1Dに作用して三叉神経から血管への痛み物質の放出を食い止めて、血管周囲の炎症と疼痛を抑制します。現在トリプタンは片頭痛の最適・最良の頭痛薬という評価がなされています。 [図14]

(Q&A)片頭痛にトリプタンを処方していただきましたが、思うように効きません。なぜですか?

トリプタンは片頭痛の特効薬的存在で、片頭痛がきれいに治ると信じられてきました。ところが片頭痛が始まってから2時間以上たってのむと、あまり効かないことがあります。トリプタンは片頭痛の発生機序に作用するわけですから、「効かないほうがおかしい」はずです。
時間が経つと効果があらわれにくくなる説明として「アロディニア」という概念が提唱されました。片頭痛が極期に達すると脳が痛みに過敏となり、せっかく血管の痛みがとれても、脳の痛みの過敏が残ってしまうのです。脳が痛みに敏感となる現象をアロディニアといいます。アロディニアになると、髪をとかしたり、眼鏡をかけたりするのもつらくなります。顔の表面がピリピリしたり、手がしびれるといった症状が現れることもあります。トリプタンは、アロディニアのでる前、すなわち片頭痛が始まって1時間以内に服用するのが良効を得るポイントです。 [図15]

緊張型頭痛

緊張型頭痛は頭痛の原因の半分を占めます。どちらかというと中高年に多い頭痛で、片頭痛は女性に圧倒的に多いのに対して、緊張型頭痛は女性に多めといった程度です。片頭痛が急に起こるのに対して、緊張型頭痛はいつとはなしに始まり、だらだらと続きます。後頭部から首筋にかけて重圧感や「鉢巻きをしているような」、「帽子をかぶっているような」と表現される圧迫感が特徴です。拍動感(ズキズキ感)は目立ちません。頭痛の強さは我慢できる程度で、寝込むほどことはありません。片頭痛の特徴である嘔吐や前兆(閃輝暗点など)はありません。片頭痛が頭の片方に起こりがちなのに対し、頭の両側に起ります。多くは肩コリも伴います。頭痛に伴い目が疲れたり、体のだるさや、ふわふわしためまいを伴います。 [図16]

(談話室)■孫悟空も緊張型頭痛に悩んでいた?

緊張型頭痛とは孫悟空の金輪みたいな頭痛です。この金輪は金箍(きんこ)といいます。「箍」とは桶を締めるタガのことです。三蔵法師が呪文(じゅもん)をとなえると、悪さをした悟空の頭を締め付けて頭痛を起こします。ストレスが三蔵法師、頭の周りの筋肉が金箍にあたります。ストレスにより「筋」箍が、頭を締め付ける結果、緊張型頭痛を起こすのです。

■緊張型頭痛の治療

緊張型頭痛の治療は鎮痛薬に頼るよりも、生活習慣の改善のほうが大切です。パソコン環境の見直し、悪い姿勢や枕を改善したり、生活に運動を取り入れます。坂井先生の提唱する頭痛・肩こり体操とは、正面を向き肩をゆっくり左右に振ります。この際、肩を上下させないことが大切です。これを数分実行するだけで頭痛・肩こりが楽になるから不思議です。片頭痛のときにはかえって頭痛がひどくなります。このような場合には運動をやめ頭痛薬を服用します。 [図17]
長時間の同一姿勢、前かがみやうつむき姿勢は頭痛の原因となるります。「文庫本療法」は、頭に文庫本を載せ、これが落ちないような姿勢を練習する方法です。これによって姿勢をチェックします。椅子と机の高さは、大腿が床と水平になり、前こごみにならい様にします。パソコン画面に照明が映りこまないよう、視線は水平から約20度下になるようにセットするとよいです。デスククワークで頭重・肩コリがしてきた場合の対策は、遠くを見つめ、頸部や肩をマッサージします。

群発頭痛

20〜30歳代の男性に多いタイプの頭痛です(男性の方が女性の5倍)。群発頭痛は群発地震のようにいったん起こると1〜2ヵ月間の間、毎日のように1〜2時間の短時間の頭痛がおこります。頭痛は片側の眼の奥、眉毛、こめかみの部分に、えぐられるような激しい頭痛が起こります。頭痛とともに、涙が出る、鼻がつまる、鼻汁が出るなどの症状があらわれることがあります。群発期は飲酒により発作が必発します。よってこの期間は禁酒します。群発頭痛の治療は専門的知識が必要ですので、ぜひ脳神経外科や神経内科など頭痛に詳しい先生のいるところに受診して治療を受けましょう。 [図18]

頭痛とうまく付き合う

■頭痛ダイアリーの勧め

頭痛と上手に付き合うには、まず頭痛の「法則性」を知ることが大事です。そして自分の片頭痛の特徴をつかみ、早めに服薬することが大切です。頭痛の状況を記録するのが「頭痛ダイアリー」です。痛みの強さや生活への影響、吐き気の有無、どんな薬を飲んだかなどを記録し、2〜3か月続けると、法則性が見えてきます。頭痛ダイアリーの記録用紙は、日本頭痛学会のホームページ(http://www.jhsnet.org/)からダウンロードできますが、手帳やカレンダーなどにつけていただていも結構です。 [図19]

■市販頭痛薬とうまく付き合う

市販の鎮痛薬で頭痛を和らげている方も多いと思います。月10回までの服用で、かつ有効であればどれを選んでもよいと思います。しかし複数の成分を含有する製剤は連用すると依存性ができやすいことを承知しておいてください。
カフェインはほとんどの鎮痛薬に含まれています。お薬のほかにもコーヒーやお茶、ドリンク剤、清涼飲料水などにも含有されています。ついついカフェインを取りすぎてしまいがちです。カフェインのとりすぎでも頭痛が起こります。頭痛の鎮痛薬としては、シンプルな組成の鎮痛薬が望ましいのです。具体的にはアスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェンの単味からなる鎮痛薬です。

頭痛克服のヒント

頭痛外来と頭痛情報の入手

■頭痛外来では

まず危険な頭痛がないかどうかを診察します。その上でどのタイプの頭痛かを診断し、適切なお薬を処方します。服用の仕方や頭痛の対処法を説明してくれます。つねにまちがった方向にいかないように、薬物乱用頭痛に陥らないように見守ってくれます。頭痛にお悩みの方・心配の方はぜひ受診してください。きっと頭痛が楽になります。

■頭痛の先生

頭痛専門医は日本頭痛学会のホームページに公開されています。
専門医でなくとも脳神経外科や神経内科の先生が頭痛にお詳しいです。
かかりつけの先生がおられれば、まずその先生に診ていただいてください。難しい頭痛の場合は、その先生からその地域の頭痛に詳しい先生に紹介していただくとよいです。

■頭痛の情報の入手方法

インターネットを検索すれば頭痛の情報が得られます。
たとえば頭痛大学(http://homepage2.nifty.com/uoh/)があります。
頭痛の書籍も数々ありますが、「日本頭痛学会編集:これで治す最先端の頭痛治療、保健同人社」をお勧めします。[図20]
一般の雑誌や新聞の頭痛記事や市民講座もウオッチしてください。
〔図20〕(Homepageリンクあり)


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