「哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明」
〜マウス受精卵、自身の細胞内たんぱく質を分解して栄養に〜



Tsukamoto, S., Kuma, A., Murakami, M., Kishi, C., Yamamoto, A., Mizushima, N.
Autophagy is essential for preimplantation development of mouse embryos.
Science 7月4日(2008)


オートファジーは細胞内の大規模なタンパク質分解(リサイクル)機構です。これまで知られているオートファジーの代表的役割として、(1)絶食などで栄養が不足した時に、細胞が自身の一部を分解することで栄養素を自給自足すること、(2)細胞内を少しずつ入れ替えることによって、有害なタンパク質などが蓄積しないよう浄化すること――などが挙げられます。

今回私たちは、(1)受精直後のマウスの胚でオートファジーが活発となること、(2)マウスの受精卵(胚)でオートファジーが機能しないと、4−8細胞期胚で発生が停止して致死となることを見いだしました。これらの結果は、卵細胞内に蓄えられていた母親由来のたんぱく質をオートファジーによって分解することが、初期胚の栄養獲得に重要であることを示しています。魚や鳥の卵と異なりほとんど栄養を持っていないようにみえる哺乳類の卵も、実は自身の細胞質を分解して栄養素を獲得していたと言えます。

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図1 未受精卵(左)と受精後0.5日目の胚(右)のオートファゴソーム

オートファゴソームが蛍光標識されるGFP-LC3マウスから採取した未受精卵と受精卵。受精後に生じる多数の小さな輝点ががオートファゴソームを示します。受精後にオートファジーが活性化され、受精卵のタンパク質が分解されている様子がわかります。

図2 今回の研究成果のまとめ

受精後2細胞期胚頃より母親由来のタンパク質の分解が始まり、徐々に胚ゲノムに由来するタンパク質に入れ替わります。それに先立ち、受精後4時間目頃よりオートファジーが活発化し、これが母性タンパク質の分解の重要な機構となります。卵特異的Atg5ノックアウトマウスを利用してこの時期のオートファジーを抑制すると、4-8細胞期胚の段階で発生が停止して致死となります(図中の†)。これは、胚性タンパク質の合成に必要なアミノ酸が、母性タンパク質の分解によって確保できないためと考えられます。


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