「オートファジーによる神経細胞内浄化の意義の解明」
〜神経系特異的オートファジー欠損は神経変性疾患を誘導する〜




Hara, T., Nakamura, K., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakahara, Y., Suzuki-Migishima, R. Yokoyama, M., Mishima, K., Saito, I., Okano, H., Mizushima, N.
Suppression of basal autophagy in neural cells causes neurodegenerative disease in mice.
Nature 441, 885-889 (2006).


オートファジーは細胞内の大規模な分解機構です。 オートファジーの代表的役割としては、栄養が不足した時に細胞が自身の一部を分解することで栄養素を自給自足することが知られていました。今回は、オートファジーによる絶え間ない細胞内新陳代謝が、神経細胞内を常に新鮮な状態に保ち、その機能を保障していることを明らかにしました。

今回私たちは、神経系細胞のみでオートファジーの能力を欠如するマウスを作製して、解析しました。このマウスはほぼ正常に生まれてきますが、徐々に神経細胞内に異常タンパク質が蓄積し、神経細胞の一部は変性・脱落することが明らかになりました。生後4週目頃からは進行性の運動障害も観察されるようになりました。これらの研究結果は、オートファジーが実際に神経細胞内の掃除屋として極めて重要であり、それによって神経変性を日常的に防止していることをはじめて動物実験で示したものです。細胞内に異常タンパク質が蓄積するということは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの神経変性疾患に共通する特徴のひとつでもあります。今回の成果はこれらの疾患の病態形成や治療戦略に新たな視点を与えるものであると考えられます。

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今回の研究成果の概要とオートファジーによる細胞内浄化のモデル

正常な状態ではオートファジーは細胞内全体に存在する正常タンパク質や異常タンパク質を原則として非選択的に分解しています。異常タンパク質はユビキチン化され、通常は直ちにプロテアソームで分解されます。 しかし、オートファジーの活性が抑制されると、タンパク質の代謝が阻害されるために異常タンパク質が増加し、その一部は凝集体として細胞内に蓄積します。神経特異的にオートファジーの能力を欠いたマウスは、このような異常タンパク質が神経細胞内に蓄積するために神経変性を生じ、さまざまな行動異常を呈するようになります。


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