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下山後にまぶたが腫れたり、四肢に浮腫が認められることがある。 医学生から、「高山病が原因の浮腫ならば下山すれば治るはずだ。しかし下山してから現れる浮腫はどのように説明できるか?」と質問を受けたことがある。
不思議な山後の浮腫の一つの考え方:下山行動による筋肉疲労=筋肉障害に由来する炎症性の反応の兆候だろう。下山行動では、「伸張性収縮」という筋肉の使い方のために、paradoxicalな筋肉収縮で大腿四頭筋肉が体重を支える。伸張性収縮」は筋細胞レベルで考えると、筋肉全体の長さは伸張しながら、筋肉を構成している一つ一つの筋肉細胞は収縮して力を発揮している状態である。柔軟に筋肉細胞がずれれば細胞障害は発生しない。しかし、筋肉細胞同しがきちんと繋がったままで滑りが悪い状態で引き伸されれば、筋肉細は引きちぎられる。「引きちぎられ」=破壊された筋肉細胞から逸脱する筋肉特異的酵素クラチニンキナーゼ(CK)が血中で上昇することが知られている。破壊された筋肉細胞は、炎症を惹起して毛細血管の透過性を高める原因になるだろう。炎症反応が起これば、局所の血管透過性が高まる。血管透過性が高まれば、血管内から血漿が組織へ漏れ出て浮腫として観察できる。
このような下山行動で負荷のかかりやすい下腿の筋肉で発生が予想される炎症反応は毛細血管の透過性を高めて、血漿が組織内に移行するので、循環血液量は減少する。下肢が浮腫んでいるからといって利尿剤を使うと、循環血液量をさらに減少させて、脱水症状が悪化する危険性がある。高山病で起こる下肢の浮腫を解消するために利尿剤(フロセミドなど)を使うことは隠れている脱水症状を悪化させたり、K血症を誘発する危険性がある。高山病予防や治療でアセタゾラミドが使われる理由は、決して利尿効果ではない。アセタゾラミドは炭酸脱水酵素を阻害する、水素イオンの尿中排泄を阻害し、尿をアルカリ性に傾かせ、反対に血液pHは下げて、代謝性アシドーシスを引き起こす。アシドーシスに傾くことで中枢性の呼吸刺激を誘発させて、睡眠時無呼吸を改善させることを主目的として投与されているのである。フロセミドには代謝性アシドーシスを引き起こす能力がまったくないので、決して混同しないように注意したい。
私の結論:以上のメカニズムを考えると下山後の「浮腫」を予防するためには、筋肉の柔軟性を高めることが最も重要だろう。循環血液量を維持するために、スポーツドリンク類で水と電解質だけを摂取するのではなく、タンパク質摂取に努めるとことが重要になるだろう。たとえば牛乳成分は迅速に血管に取り込まれて、浸透圧を維持して循環血液量を長時間維持するおとが知られれている。下山後に牛乳を飲むことは、下山後の浮腫を防ぐ有効な予防薬となるように思う。
2016年1月14日
三浦裕(みうらゆたか)
Yutaka Miura, M.D., Ph.D.
Associate Professor at Molecular Neurosciences
Department of Molecular Neurobiology
Graduate School of Medical Sciences
Nagoya City University
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授
所属山岳会:愛知県山岳連盟 チーム猫屋敷
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(Last modification January 14, 2016)