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上司の鈴木さんの薦めで全国ビルクリーニング技能コンクールに出場することになった。始めてのコンクールにエントリーしたら、第二位になった。さらに努力を重ねて、翌年には見事に最年少で日本第一位に輝いた。嬉しくて嬉しくて、鈴木さんに優勝を報告したら「分かっていました。あなたは日本一の清掃員です。」と褒められた。上司に自分の努力が認められたことが何よりも嬉しくて感激の涙を流したそうだ。新津さんは今では「自分の清掃は、たんなる清掃でなく、清掃を超えた職人の仕事です。」と語る。
新津さんは羽田空港を清掃し続けて20年。汚れやすい場所を知り尽くして、どんなに難しい汚れも工夫してきれいに落とす技術を身につけた。掃除道具箱の中には、酸性試薬、アルカリ性試薬、界面活性剤など何十種類もの試薬が用意されている。掃除中に、空港利用客の邪魔にならないように人の流れに注意して仕事を進める気配りも素晴らしい。イギリスに拠点を置く世界最大の航空リサーチ・コンサルティング会社Skytraxが世界395の主要空港を対象として、空港利用者1200万人にアンケート調査を行った結果を集計した結果、羽田空港は2013年・2014年連続で「世界で最も清潔な空港(World's Best Airport Cleanliness)」部門で1位を獲得したそうである。
以下に、私の職場の清掃の現状を反省する。
かつて丁寧にトイレ清掃をしてくださっておた清掃員の女性がいた。私は顔を会わせると「いつもお掃除ありがとう」と笑顔で挨拶を交わした。しかし、いつのまにかその女性の姿が消え、次々と清掃員が代わるようになった。新しい清掃員たちのトイレ掃除とは名ばかりで、トイレットペーパを充填して便器に水をかけるだけだ。その結果トイレは汚れ放題になった。現場の作業員に「これでは掃除になっていないのでは?」と苦情を言えば、「上からの作業指示ですので、苦情があれば上に言って下さい」と開き直るばかりである。以前、丁寧にトイレ掃除をしていた女性は、現場監督から「作業時間が長過ぎる!」と叱責されて解雇されたらしい。困ったことに、最近は廊下の床の汚れも目立つようになった。清掃業者とは1年に1回の床にワックスを掛けも実施する契約をしている。ワックス掛けは実施されるが、古いワックスを剥離する作業は省略されて、汚れたままの古いワックスの上に新しくワックスを1回上塗りするだけの作業が行われているのは困る。「このような汚い状態で清掃のプロと言えるのか?」と清掃業者の責任者を呼んで正した。大学を担当している現場責任者の上にはさらに会社で統括指示する上司がいるらしい。その上司から、これ以上現場に作業員を回してもらえない事情があるらしい。可哀想に「自分が責任をもって剥離作業をやります。」と約束した。ワックス掛けの当日に、作業員に混じって現場責任者もワックス掛けに加わって働いた。彼の努力のおかげで、私の職場のビル(7階建て)の玄関から3階までは、約束通り剥離作業が実施されてピカピカの床に仕上がった。しかし、「4〜7階の床は剥離作業を実施する時間が無くなったので、汚れたままワックスを掛けてしまった。年度を越すけれども剥離作業は必ずやります。」と彼は約束した。結局この2014年3月の約束は果たされず、2015年3月に会社と大学が交わした3年契約が終るギリギリになって3回目の上塗りだけのワックス掛けが行われた。その結果、私たちの6階の研究室の入り口前の床は以下の写真のような状態になっている。
これほどまで劣悪な清掃状況に陥っているのは、現場の清掃担当者の責任というよりも、大学側の清掃作業に対する評価の低さと、請け負った清掃会社の悪徳体質に由来するように思う。現場の清掃担当者は無知な被害者で、おそらく劣悪な給与条件下で、ただ命ぜられるままに単純労働を強いられているだけだろう。このような労働者と比較すると、世界一の清潔な羽田空港の清掃作業員は、「ビルクリーニング技能士」の国家資格を取得して仕事に誇りを持っている。社会的評価の有無は、働く人間の勤労意欲に大きな影響を与え、その成果を激変させる力があるように思う。
2015年5月2日
三浦裕(みうらゆたか)
Yutaka Miura, M.D., Ph.D.
Associate Professor at Molecular Neurosciences
Department of Molecular Neurobiology
Graduate School of Medical Sciences
Nagoya City University
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授
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(Last modification June 2, 2015)