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<メンバー>
Yamaguchi(CL)), Ikeda(装備), Shibata(装備), Iwata(食料), Mano、, Miura(SL)
<山域>木曽駒ヶ岳:山頂標高2,956 m
<山行の目的>雪山訓練
<行程>
4月14日(金)名古屋=菅野台バスセンター駐車場
4月15日(土)駐車場=(バス・ロープウェイ)=千畳敷(1:00) 乗り越し(0:05) B.C. 天狗荘の東側B.C.
4月16日(日)B.C.(0:40)千畳敷=(バス・ロープウェイ)=バスセンター=名古屋
プロローグ:最悪の気象条件で雪訓をすれば、本番で最悪の気象条件に遭遇しても慌てずに済む。悪天候は望むところだ。それにしても天気が悪かった。菅の台バスセンターでは小雨が降っていたのが、千畳敷カールでは霙〜雪に変わった。カールの中の行動中は風も弱く、分な休憩時間も取れたので、精神的にも肉体的にも余裕はあった。稜線に出てからの強風は尋常ではなかった。テント設営作業を終えて、テントの中に入ってから私は周囲のメンバーが指摘するほど無口だった。私がガタガタ震えていたので、テント内で隣に座ったIwata君が「ダウンを着たらどうですか?」と助言してくれた。私はダウンジャケットを着ることすら思いつかなかった。なかなか体の震えが止まらなかった。どれだけ時間がかかったのか覚えていないが、ある時に震えが止まって体が急に暖かくなるのを覚えている。その時に、ようやく肌着が完全に乾ききったような気がする。
目次
千畳敷カール周囲の地形図:赤色破線, 実際のルート; 青色破線, 歩いたつもりのルート; 緑色破線先端の?マーク, 宝剣岳側の岩稜に突き当たった場合の位置. 赤色X印、伊那前岳側のの岩稜に突き当たった位置(実際の位置);赤中抜け丸印, 乗越し浄土(2856m);三角印,ベースキャンプ(B.C,).
ロープウエーの千畳敷駅の外は、霙混じりの吹雪のために視界は5〜10 m以下だった。Yamaguchiさんが先頭を歩き、私は6人パーティの最後尾について進んだ。先頭の姿やっと識別できたが、その先は上も下も真っ白なホワイトアウトの世界で、周囲の景色は何も見えない。コンパスを頼りに、磁北線に沿って進んだ。地図上に示した青色破線のルートを登るつもりだった。目標物がまったく見えないまま雪原を登りながら「あまり左に寄りすぎると宝剣の岩稜に出て登れなくなる。右側に寄りすぎても、登れないことはないだろう」という予想で右方向に進路を変えた。しかし、斜面が急になって岩稜に突き当たって行き詰まった。この時点でルートがかなり間違っていることに気がついた。もし宝剣岳側の岩稜帯ならば、左に寄りすぎている(緑色破線ルート)。勒銘石側の岩稜帯ならば、赤色のルートを辿ったことになる。どちらの岩稜帯に到達したのだろうか?上の方に見えている岩稜帯の間のルンゼの方向が、磁北方向であることが確認できたので、自分たちは、赤のX印の地点に到達していると推定できた。急な斜面をトラバースして左側にもどれば、大きなカールの中央に出られる。ルート修正をして、結果的に赤色破線のルート辿って、目的地に到達できた。(注意1)ホワイトアウトの状態では、極めて慎重に出発点で正確な進路方向を確定し、つねに進行方角を厳密にたもちつつ進む必要がある。
Shibataさんが千畳敷カールの途中斜面でザックを降ろして、谷側を向いたまま座った。その次の瞬間に彼はザックに乗ったまま谷にずり落ち始めた。それを見た私は「滑落停止!」と叫んだ。Yamaguchiさんが異変に気がついて、Shibataさんの下に走りけ寄って、その滑りを止めた。かつて登山用品店(ステラアルピーナ)の店長Nさんが、涸沢カールで同じように休憩中に滑りはじめて、200 m下までも滑落して足を骨折した事件を思いだした。滑り始めたら直ぐに止めないと、なかなか滑落は停止できない。(注意2)そもそも絶対に滑り出さないように、ザックを降ろす前に、バケツを掘って(雪面を削って)滑り止め対策をしてから休憩するべきだった。(注意3)それに関連して、斜面で作業をする場合は、必ず山側を向いて、山の上から何か落ちて来ないか観察しながら、作業をする。アイゼンの脱着作業をする場合にも、必ず山側に向いて作業する習慣をつける。
伊那前岳側の岩稜帯(赤色×印の位置)でザックを下ろして休憩した。私はテルモス(魔法瓶)と取り出して紅茶を飲もうとした。何気なく雨蓋からテルモスを取り出して、ザックの上に置いたのが悪かった。ザックからテルモスがポロっと雪の上に落ちた。テルモスはそのまま雪の斜面を橇のように、滑り落ち始め、音もなくあっという間に視野から消えてしまった。私は気を取り直して2本めのテルモスのお湯を飲もうと思った。ところがプッシュボタンで開く蓋が完全に開いた状態で、雨蓋にお湯はすべて漏れ出て、雨蓋の中が水浸しになっていた。幸い、雨蓋の収納した他の装備は防水袋に入れてあったので濡れるのは避けられた。しかし私は自分が飲める水分を失ってしまった心理的ショックは大きかった。(注意4)水筒は円形だから転がりやすい。転がらないように雪に埋めるか、紐をつけて絶対に転がり落ちないように配慮するべきだ。
カナダのモントリオール市街を襲って鉄塔を折り曲げ、送電線も切断して都市ライフラインを奪ったFrozen Rain現象を思い出した。降ってくる霙は体のあらゆる場所に付着して、氷で包んでいった。困ったのはメガネに付着して凍っていくことだ。メガネのレンズをこすって氷を落としても、すぐに氷が付着して視野を塞いだ。足元がほとんど見えないので、メガネをはずした。裸眼になると、瞬きするたびに目が痛い。まつ毛にも氷柱が下がって、目を開け閉めするたびに目を刺激していたのだ。吹雪の中では、目の保護を真剣に考えた方がよい。メガネはほとんど役立たないから、コンタクトレンズに切り替えた方がよいだろう。ただし、私は遠近両用コンタクトレンズを作らなければならない。(注意5)当面はゴーグルを装着して目を保護するべきだ。
凄まじい強風の中で、エスパース・マキシムナノ(6〜7人用)を設営した。テントは足で踏んで飛ばないようにしながら、大きく広げる前に中に3個のザックをテント内部に入れて出入り口を塞いで重石にした。ポールを挿入して形ができたところで3名が中に入って、他の3名でテントの張綱を固定した。ただしあまりの強風でレインフライを張るのは諦めた。緊急避難的に登山靴は履いたまま、全身雪まみれのままテントの中に入った。テントは風圧でたわみ、ものすごい音を立てている。テントの中で全身の雪と、ザックの雪を落とした。テントの中に落とされた雪を集めて団子にして出入り口から外にポイっと捨てた。テントの中で登山靴もヤッケも着たまま休憩した。とても寒くて震えが出てきた。暖をとろうとして、SOTO製のガソリンストーブに点火した。いつもなら、すぐにテントの中が温まるのだが、この1台だけではテント内部がなかなか暖まらなかった。そこで、2台目のMSRのガソリンストーブも点火することにした。しかし不思議なことに点火用のライターの火が付かない。6人全員のライターすべて点火しないのに驚いた。燃えているSOTOの炎もいつもより弱々しい印象だ。最後の手段でMSRのガソリンを少量だけ噴出させて、そのガソリンに引火させて余熱の種火にした。余熱を十分にしてメインコックを開いた。ところが、MSRシスパーライトからはメラメラと赤い炎が出るだけでいっこうに青い炎にならない。明らかに不完全燃焼状態だ。この状態でSOTO製のガソリンストーブは青い炎で燃えていたが、炎に元気がない。どうやらテントの中が極度の酸欠状態に陥っているらしい。出入り口の吹流しを開くと、凄まじいい吹雪が入り込んできたが、それとともに酸素が入って、ライターも点火できるようになった。なぜ急激に酸欠状態に陥ったのだろう?私たちの解釈は、ジャンボエスパースの布池に霙が張り付いて、氷の膜を作って密閉状態になったと考えられる。水分子には、電気的極性がある。電気的極性のある二酸化炭素などをよく溶かして、拡散させる性質がある。しかし酸素分子のように極性がない物質はほとんど溶かさない。水に酸素分子は溶け込まないので、水に覆われてしまったテントは、酸素の通気性が急激に落ちる。このままではテント内部な酸欠状態が進んで危ない。Yamaguchiさんは強風にもかかわらず、外に出てレインフライを6本のスノーバーで固定してくれた。レインフライを張った後も強風は収まらず、バタバタと大きな音を立ててテントが揺れていた。そのおかげで、布地に付着していた氷がすっかり落ちてしまったらしい。レインフライ装着後、通気性が高まって、見事に2台のガソリンストーブが青い炎で燃え始めた。(注意6)春や秋に、雨になるか雪なるかの微妙な季節には、レインフライを積極的に活用した方がよい。雪山と考えてレインフライを付けないと、湿雪または雨で雨漏りが激しい。氷になれば換気障害で内部が酸欠になって危険だ。
テント内で濡れた手袋などを天井の紐に下げて、ストーブの上で干す。強風でテントが揺れると細引きロープに引っ掛けただけだと、上から炎の中に落ちて危ない。網袋に入れてカラビナなどで確実に固定する工夫が必要だ。私はインナー手袋を、手にはめたままガソリンストーブの炎にかざしてて乾かした。炎に近つけ過ぎると毛糸がチリチリと茶色に燃える。やがて湯気を出しながら、どんどん乾いていくのが見えた。その時に湯気が出ているのに、手はあまり暖かいとは感じなかった。気化熱を奪いながら乾燥していくからだろう。完全に乾して手袋の色が全体に変化すると、劇的に手がポカポカと暖かくなるのを実感した。私よりやや厚手のインナー手袋を用意したManoさんは、結局最後まで乾燥させることができずに諦めていた。断熱効果を考えると、乾燥している限り厚手の方が暖かいことは確かだが、濡れた場合に厚手ほど乾燥させることが難しくなる。厚手の毛袋は必要だが、インナー手袋は、薄ければ薄いほど乾燥させやすいメリットがあるので有利かもしれない。ただし、羊毛100%は破れやすい。補修しながら使い続けることになる。
(反省)オーバーミトンとヤッケの袖口の重ね方は重要だ。完私はオーバーミトンの口の処理が甘かったために、内側の厚手毛糸手袋の周囲に雪が付着させてそこで、氷が成長した。しっかり手袋をはめた状態では、氷は指先までは入り込まないので問題なかった。ところが休憩中に厚手の手袋をはずして、再装着する際に手袋の入り口で成長していた氷のかけらが指先の中に落ち込んだらしい。一本の指が猛烈に冷たくなった。そのまま我慢していたら凍傷になりそうだったので、指先に入り込んだ氷は、毛糸に絡まってななかか出てこなかった。徹底的に中から氷の塊を払い出して、事なきを得た。ヤッケの袖口の処理は完璧にしておくべきだと痛感した。
斜面にテントを設営されている場所は緩やかな斜面である。しかし表面は凍結して滑りやすい。トイレで外に出る際に、安易にテントシューズで出ると滑落する危険性がある。トイレで外に出るにも登山靴を装着するべきで、もし遠い場所に大便に行くなら、アイゼンを装着してピッケルを持って外出する。絶対に滑落しないように配慮する必要がある。それにしても、強風の中でヤッケを脱いで大便、小便を排泄することは非常に難しい。
三浦裕(みうらゆたか)
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(Last modification April 19, 2017)