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真柳誠「宗田文庫披露式報告」『日本医史学雑誌』44巻4号573頁、1998年12月

宗田文庫披露式報告

  本学会の常任理事にあられた故・宗田一先生のご蔵書が、京都の文部省大学共同利用機関・国際日本文化研究センターに一括して寄贈され、その宗田文庫披露式が同センターにて一九九八年九月二十五日に行われた。
  宗田先生は一九八九年から同センターの共同研究員として九六年七月に亡くなられるまで研究活動を続けられ、生前より将来は蔵書を同センターに寄贈して広く公開利用されることを希望されていた。その遺志により、ご遺族が自宅にあった蔵書類の寄贈を申し出、受け取った同センターは松田清客員教授(京都大学教授)を中心に蔵書の調査を開始し、本年九月に同センター編刊の『宗田文庫仮目録』五八五頁を完成させた。

  寄贈されたのは書籍一万三千百七冊、画像資料・古地図など三百六十六点など。室町期の古医書写本から明治期の洋装本、また各種文書・一枚刷・雑誌類などがある。分野も漢方・蘭学・洋学ほか、およそ日本の医薬を中心とした医事文化の全分野におよび、宗田先生の学問の深さと広さを反映していた。

  当日の披露式には同センター関係者のほか、本学会や洋学史学会など各界からの出席者があった。ご遺族から寄贈目録が河合隼雄同センター所長に手渡され、ご遺族の挨拶と各代表の祝辞の後、同文庫の調査整理にあたられた松田清教授より「宗田文庫について」と題した記念講演がなされた。

  当講演では寄贈の経緯および文庫の概要が説明され、同文庫の特色を次の三点に要約している。

1  広い意味での薬を中心とした、十五世紀から現代まで五百年にわたる日本医療文化史の一大宝庫。

2  一次資料を中心として、研究ノート・研究書・雑誌が同心円状に見事に構成されており、しかも一冊一冊、一点一点に先生の目が入っている。実証的な厳しい学風を自らに課した学者の蔵書として、まさに「文庫」として後世に伝えるに価する。

3  宗田資料(和本コピー・論文抜き刷り・ノート類)は研究資料として、後進の研究者に多大の利便を供する。

  当講演のあと宗田文庫貴重品の展示と解説、また同センター図書館に設置された宗田文庫の回覧などが行われた。なお同文庫の目録は仮目録のため印刷部数が少なく、当日の参加者に配布されたのみで、一般への販売・配布はされない。

  しかし宗田先生のご蔵書はこうして国有財産となったため、今後は同センターを訪れれば誰でも公開利用できるようになった。本学会にとっても一大慶事であり、学会各位が広く利用されるなら、宗田先生も地下でさぞや慶ばれることであろう。

(真柳  誠)