むかしのことなので出てきた順番はもう忘れたけど、サイケデリック・サウンドとかアート・ロックなんて表現でくくられた分野があった。どうせコマーシャル目的で誰かがいい始めたのだろうけど、どちらのジャンルも確かにそれまでのプレスリーともビートルズとも違っていた。
ハイティーンだった当時は、アルコールぼけしていない鋭敏な神経が体のすみずみまで張りめぐらされていたのだろう。ベトナムにも安田砦にも三里塚にもズキズキしたけど、この手のレコードにはビリビリ感じた。
聴いて最初に効いたのはクリームのクロスロードとスプーンフルだったけど、最初に飛んだのはエレクトリック・レディーランドというジミー・ヘンドリックスのアルバムにあるブードゥー・チャイルドだったと思う。どうして録音したか当時わからなかったけど、ギターアンプがステージ全体を囲む円周上をぐるぐる右回りしているように聞こえる。一点で回転する音のレズリーやフェイズシフターとは迫力がぜんぜん違う。
ジミーのギターがステレオの左右スピーカーを結ぶ線を直径とした円周上を回りながら鳴り、近づき遠ざかる。ときにはシンバルなども速度や直径を変化させながら回るので、電気的に作った効果かも知れない。PAの左右ボリュームをある数式で変化させるとこの効果が可能と考え、そのとき大学受験生だったので三角関数を使い2時間ほどで数式を求めた。
いま考えるとレズリースピーカーで再生し、その左右にマイクを立てて録音すると、たぶんこの効果になるはずだ。でもこんな録音のほかのレコードはいまだに聞いたことがない。
ところで表題はジミヘン大師へのオチャラケ戒名。ガリガリ、ギャー…グゥイーン……∞。
多感な思春期に、絶大な影響を受けたものが人それぞれにあるのではなかろうか。私にとってはジャニス・ジョップリンのアルバム、“チープスリル”がそれだ。[温故作新]
今では当時のライブの様子をビデオで見ることができるが、当時はレコードと写真でしか窺い知ることができなかった。それでも、化粧をせず、髪はボサボサで、ファッションもあかぬけているとはいえず、けれど最高に美しくかっこいい人がそこに存在していた。
その頃はただすごい!と感じていただけだが、のちブルース・ゴスペル・R&B等を聴いてみると、彼女のバックボーンとなっているルーツ音楽がわかってきた。かつてビッグママ・ソートンを聴いて直感した。ジャニス・ジョップリンもこれを聴いていたんだ!!。彼女のすごいところは、それらを自分の中で統合し、さらに新しい独自の型を作りあげたことではないだろうか。
古いものにはすばらしいものがたくさんある。天才たちがそれらをもとに新しいスタイルを作りあげ、それがまた多くの人々に影響を与え続けていく。この歴史は感動的といっていい。ジミヘンしかり、ザディコのアコーディオニスト・クリフトンシュニエ、アルゼンチンのバンドネオン奏者・ピアソラ……。
日本でいえば、能や神楽や民族舞踊をルーツにした暗黒舞踏の創始者、土方巽を思いうかべる。
永い時の流れの中のこの時代、私たちが生きている偶然を祝福しよう。