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真柳誠「病人の脈をとる医者」『日本医史学雑誌』49巻2号表1・204頁、2003年6月

病人の脈をとる医者

 長崎大学附属図書館には「幕末・明治期日本古写真コレクション」が所蔵されている。当コレクションは幕末から明治期にかけての外国人居留地や観光地を中心に、北海道から九州まで各地の風景・生活・風俗を写したもの。計5400点をこえ、多くは彩色されている。その全てがインターネット公開されており、写真タイトルや解説文から検索できる。「医者」で検索すると脈診を行う漢方医ないし針灸医の写真が4点、歯医者が1点あり、うち3点は明治5年に北海道開拓使にも雇用された写真師・スチルフリードの撮影だった。当時の外国人には脈診が奇異だったのだろう。

 表紙絵の写真(整理番号:50-2-0)は撮影者・場所・年代とも未詳とされるが、脈診をしているので外国人の撮影だろうか。中央の医者は僧形で、風呂敷に包んだ往診用薬味箪笥らしきものが手前にあり、漢方医と思われる。その前には刀が置かれ、帯刀禁止令が明治9年の公布につき、これ以前の撮影だろう。右側の若い娘が七輪で火をおこしているのは、処方された薬を煎じるためか。左側の苦しそうな患者は鉢巻をしており、当時の様子を如実に伝える貴重な写真といえる。2007,1,25付記:小曽戸洋氏のご教示によると、これは明治後期に外国人向けに作られた「やらせ」の写真で、刀を置いているのも「やらせ」のため、帯刀禁止令以前の撮影と判断すべきではない、とのことである。類似した一連の写真は最近、骨董マーケットにも出回っているので、確かにその通りだろう。

(真柳 誠)