真柳誠「漢方一話  処方名のいわれ70−四君子湯」『漢方診療』18巻2号28頁1999年4月

四君子湯(シクンシトウ)

 君子とは清高な気品と才徳に秀でた人物をいい、紀元前の『易経』『論語』や『礼記』から用例がある。『詩経』によれば妻が夫を君子と呼ぶ、うらやましい時代もあったらしい。『礼記』礼運では、禹・湯・文・武・成王・周公の6人を「六君子」と定めていた。

 一方、『史記』李斯伝は秦の「君主」として繆公・考公・恵王・昭王の4人を「四君」とするが、4名の「君子」を「四君子」と呼ぶ例はのちも見当たらない。ただし唐画以降、梅・蘭・竹・菊を気品から君子にみたて、「四君子」と総称するするようになった。とするなら四君子湯の名はこれを踏襲したに相違なく、本方名の出現も唐代以降だろう。

 さて四君子湯は人参・茯苓・甘草・白朮からなり、この4味を君子にたとえていることになるが、さらに大棗・生薑を加味した四君子湯もある。出典は『和剤局方』巻3に「続添諸局経験秘方」として南宋1241〜51年に増補された大棗・生薑がない4味の処方で、主治は次のように記される。

 栄衛の気虚、臓腑の怯弱、心腹の脹満、食欲不振、腸鳴・泄瀉、嘔{口+歳}・吐逆を治すには、大いにこれを服用するとよい、と。この方後には、等分の細末を煎じたり、塩味をつけたおもゆに細末を入れ、常に服用すると脾胃を温和して食欲を増進し、寒邪ほかに罹らない、とある。いわゆる胃腸が弱い人の保健薬といったところだろう。

 ところで四君子湯には『和剤局方』を遡る同名異方・異名同方もある。前者は金1186年の『素問病機気宜保命集』虚損論に載る四君子湯(白朮・人参・黄耆・茯苓)で、甘草と黄耆が入れ替わっている。後者では最近、小山誠次氏が報告した北宋1111〜17年の『聖済総録』巻80に載る白朮湯(白朮・赤茯苓・人参・甘草)、同書巻63の順気湯(白朮・白茯苓・人参・甘草+大棗・生薑)がある。

 しかし四君子湯の薬味は各々、梅・蘭・竹・菊のいずれに対応するのだろう。少し考えてみたが、どうもよく分からない。うーむ、残念。

(茨城大学/北里研究所東医研)

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