大小を付けて兄弟関係が示される処方は多い。大柴胡湯・小柴胡湯のほか、大青竜湯・小青竜湯、大建中湯・小建中湯、大承気湯・小承気湯、大半夏湯・小半夏湯、大陥胸湯・小陥胸湯などがよく知られている。いずれも後漢時代3世紀初の張仲景『傷寒論』『金匱要略』が出典なので、このように大と小で兄弟関係を示すのは、あるいは仲景が最初なのかも知れない。
一般に大の付く処方は小の付く処方より攻撃的で、より実証に近い病態に適応する。逆に小の付く処方は温補的で、より虚証に近い病態に適応する。しかし、これは両者を比較した相対論に過ぎず、必ずしも大の付く処方が実証、小の付く処方が虚証に用いられるという訳でもない。
一方、主薬名で命名された処方もある。葛根湯や人参湯はもちろん、大柴胡湯・小柴胡湯もその部類である。また柴胡が主薬の処方をふつう柴胡剤と呼ぶ。したがって大柴胡湯の名は、張仲景の柴胡剤のうち、より実証に近い病態に適応する代表処方という意味合いになろう。
じつは大柴胡湯にも2種類ある。柴胡・黄今・芍薬・枳実・半夏・生薑・大棗の7味からなるのが『傷寒論』の大柴胡湯。これに大黄が加わった8味なら『金匱要略』の大柴胡湯。『傷寒論』の別伝本である『金匱玉函経』の大柴胡湯も、大黄が加わった8味。大黄は瀉下作用により攻撃的薬物とされるので、その1味があるかないかは、大柴胡湯の名にもかかわる大きな違いなのである。それで1065年に初めて『傷寒論』を校訂・出版した林億らは、「もし(大黄が)加わらねば、恐らく大柴胡湯たらず」という注釈を『傷寒論』に記している。
現在このような理由もあり、ふつう大柴胡湯といえば大黄が加わった8味を用いる。しかし便通の状態によっては大黄のない7味でも応用され、この場合は大柴胡湯去大黄と呼んで区別することが多い。