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真柳誠「漢方一話  処方名のいわれ24−桂枝加竜骨牡蠣湯」『漢方診療』14巻1号50頁、1995年2月

漢方一話  処方名のいわれ24−桂枝加竜骨牡蠣湯

真柳  誠(北里研究所東洋医学総合研究所)

 

 桂枝加竜骨牡蠣湯は3世紀の張仲景が原本を著した『金匱要略』が出典で、桂枝・甘草・芍薬・生薑・大棗・竜骨・牡蠣の7味からなる。前の5味が桂枝湯なので、それに竜骨・牡蠣を加えて桂枝加竜骨牡蠣湯と命名されたのは言うまでもない。

 当方は同じ仲景の『傷寒論』『金匱玉函経』にないが、当方から芍薬・生薑・大棗を去ったことになる桂枝甘草竜骨牡蠣湯は、逆に『傷寒論』『金匱玉函経』のみにある。当方から芍薬を去って蜀漆を加えたことになる桂枝去芍薬加蜀漆牡蠣竜骨救逆湯(桂枝救逆湯)は、仲景の3書すべてに載る。『傷寒論』『金匱玉函経』には近縁方の柴胡加竜骨牡蠣湯もある。

 さて以上の4処方には桂枝・竜骨・牡蠣の3味が共通している。そして『傷寒論』の主治条文は、桂枝甘草竜骨牡蠣湯に「煩躁」、桂枝救逆湯に「驚狂、臥起不安」、柴胡加竜骨牡蠣湯に「煩驚、譫語」を記す。8世紀の『外台秘要方』巻2が引用する唐政府指定の『仲景傷寒論』も、桂枝湯方後に桂枝加竜骨牡蠣湯去芍薬に相当する加減方を記し、「煩躁、不得寝」に用いるという。いずれも神経過敏的症状である。すると『金匱要略』が桂枝加竜骨牡蠣湯の主治文に記す「女子夢交」も、およそ神経過敏の症状といえよう。

 ところで当処方で重要な役割をになう竜骨は、どだい実在しない竜の骨。ただし昔の人は各種動物の巨大な化石を見、竜を直感したらしい。そういった記録は多数ある。しかし生きた姿は見えない。それで各種化石骨の形状が結合し、ラクダの頭に鹿の角、鷹の爪に鯉の鱗なる竜の姿になった、という説もある。恐竜化石の大産地たる中国なら、当然そのイメージ形成に恐竜も役立っていよう。

 もし桂枝加竜骨牡蠣湯に恐竜化石を使ったら…、どんな夢に効くのだろうか。