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真柳誠「漢方一話  処方名のいわれ13−黄連解毒湯」『漢方診療』13巻8号29頁、1994年8月

漢方一話  処方名のいわれ13 黄連解毒湯

真柳  誠(北里研究所東洋医学総合研究所)


 黄連解毒湯は黄連・黄{艸+今}・黄柏・山梔子の4味から構成される。いずれも消炎解熱的な作用があるとされる薬物なので、本処方名は黄連を主薬とし、熱による毒症状(熱毒)を解毒する湯剤、という意味に理解して問題ないだろう。

 出典は唐代の 752年に王{壽+(煎−前)}が編纂した『外台秘要方』全40巻で、その巻1の傷寒門上に黄連解毒湯の記載がみえる。『外台』は唐の役人であった王{壽+(煎−前)}が政府図書館でみた医書から抜粋・編纂した書。王{壽+(煎−前)}は各条文の前後に引用した書名とその引用巻を一々注記しているので、黄連解毒湯はもともと『崔氏方』巻1に記載されていた処方であることも分かる。

 『崔氏方』は唐代7世紀の崔知悌が著した『崔氏纂要方』10巻のことであるが、早くに散逸して今は伝わらない。それで黄連解毒湯の出典はふつう『崔氏(纂要)方』とせず、引用文を唯一保存している『外台』とする。そこには次のように記されている。

前軍督護の劉車がはやり病にかかって3日、発汗治療で治った。しかし酒を飲んだため、また劇しく苦しみだし、煩悶・乾嘔・口燥・呻吟・錯語の症状が現れ、横になることもできない。そこで私(崔知悌)は考えてこの黄連解毒湯を作った。…私は本方でおよそこれらの症状がある人を治療して、皆よかった。これを伝え聞いた人々も用いて効果があった。本方は熱毒を直解して酷熱を除くが、必ずしも飲酒で激化した者に限らない。
 飲酒後などの熱毒症状が適応とは、まるで現在の一部応用を示唆している。ところで『外台』には当条文の前にも『崔氏方』からの引用文があり、四物黄連除熱湯という方名を記すが、恐らく黄連解毒湯の別称だろう。また 500年頃の『肘後百一方』にも、方名はないが黄連解毒湯と同じ4味に豆{豆+支}と葱白を加える処方がある。本方もルーツはずいぶん古そうである。