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真柳誠「漢方一話 処方名のいわれ10−柴胡桂枝乾薑湯」『漢方診療』13巻6号30頁、1994年6月

漢方一話  処方名のいわれ10  柴胡桂枝乾薑湯

真柳  誠(北里研究所東洋医学総合研究所)



  柴胡桂枝乾薑湯の出典は、3世紀の張仲景が原本を著した『傷寒論』『金匱要略』である。ただし『金匱要略』は「柴胡桂薑湯」の略称で、『外台秘要方』から付方に引用する。これより、『金匱要略』が初めて1066年に出版された時、その底本に柴胡桂枝乾薑湯はなかったが、『外台秘要方』に張仲景の処方として引用される柴胡桂薑湯を転載したことが分かる。

  そこで『外台秘要方』を調べると、『傷寒論』の柴胡桂枝乾薑湯と類似の条文を、「小柴胡桂薑湯」の名で『張仲景傷寒論』18巻なる書から引用している。すると柴胡桂枝乾薑湯は小柴胡湯の変方だろうか。

  柴胡桂枝乾薑湯は、柴胡・黄{艸+今}・甘草・{木+舌}楼根・牡蠣・桂枝・乾薑の7味からなる。一方、小柴胡湯は、柴胡・黄{艸+今}・甘草・人参・半夏・大棗・生薑の7味からなる。つまり構成薬味からすると、柴胡桂枝乾薑湯は小柴胡湯去人参半夏生薑大棗加{木+舌}楼根牡蠣桂枝乾薑ということになろう。この方名はあまりに長い。それで柴胡桂枝乾薑湯、あるいは小柴胡桂薑湯と略称したのかも知れない。ヒントは『傷寒論』にあった。

  『傷寒論』は小柴胡湯の方後に次の加減法を記す。「若し渇するには半夏を去り、…{木+舌}楼根を加う」「若し胸下痞鞭するには大棗を去り、牡蠣を加う」「若し渇せず外に微熱ある者には人参を去り、桂枝を加う」「若し{亥+欠}する者には人参大棗生薑を去り、…乾薑を加う」。以上から柴胡桂枝乾薑湯の由来は明らかだろう。

  つまり上記の症状に対応し、小柴胡湯から半夏を去って{木+舌}楼根を加え、大棗を去って牡蠣を加え、人参を去って桂枝を加え、生薑を去って乾薑を加えた。こうして柴胡桂枝乾薑湯が新たに生まれたのである。

  ところで『金匱要略』の付方には、柴胡去半夏加{木+舌}楼湯という小柴胡湯の加減方もある。柴胡桂枝乾薑湯に至る手前の処方と考えていいかも知れない。