真柳誠「放送大学の利用可能性−中国語の場合」、鈴木邦武代表『茨城大学の教養教育における未修外国語の課題と展望』28-29頁、水戸・茨城大学人文学部、1999、3

放送大学の利用可能性−中国語の場合


 本学構内には放送大学の茨城学習センターがあり、その利用には利便性が高い。また放送大学教養学部の共通科目(外国語科目)には、ドイツ語・フランス語・中国語・ロシア語・スペイン語も開講されており、本学教養教育における未修外国語分野での利用可能性を検討することの意義は少なからずあるだろう。そこで真柳が担当している中国語教育を中心に検討してみた。

1 開講科目(平成11年度)の検討

 以下の4科目(カッコ内は科目コード)各2単位が、前期・後期にわたりそれぞれラジオ放送(1回45分、計15回)で開講されている。

中国語T(35033):基礎課程の前段階で、発音と文法の基礎を学習する。
中国語U(35040):Tに接続する後段階で、これで基礎課程を終了する。
中国語V(35056):T・Uの上にたって、文学作品等の文章を講読する。
中国語W(35145):Vに続く講読で、現代短編小説を題材に精緻な読解力を習得させる。

 主任講師はT〜Vが放送大学教授の傳田章氏、Wが東京大学助教授の木村英樹氏で、平成10年度はTとUのテキスト執筆に早稲田大学講師の呉念聖氏も加わっている。TとUは発音と文法の講義が系統だって行われており、Vは講読ではあるがより高度な文法の理解できるよう配慮されている。Wはネイティヴ・スピーカーによる朗読と講師による内容解説により、難度の高い文法項目や表現法をきめ細かく学習できるよう構成されている。

 以上のようにT〜Wは中国語の読解力を系統的に養成する構成になっており、その教育効果は期待してもいいだろう。ただし中国語会話の科目がなく、将来それが開講されたとしても対面授業の効果に及ばないことは言うまでもない。

 したがって現実的にも利用可能なのは、文法を中心とした中国語読解力の養成に限られ、会話教育については期待できない。
 

2 本学中国語教育の現況と放送大学の比較検討

 本学の教養教育における中国語は、比較的多い受講希望生に対し、その要望をかなり充足しうる体制にあるといっていいだろう。授業は読解力と会話力の養成が主で、ついで簡単な作文もできるよう教育し、さらに高度な能力の育成は専門課程の教育にゆだねている。ただし中国語教養教育に不足がないわけではない。

 本学の授業担当教官は専任・非常勤ともに、十分な中国語能力と教育経験のある日本人と中国人から構成されており、かつ各教官は専門の研究・教育分野を各々持っている。しかし昨年、清水登教授がご逝去されたため、中国語学を専門とする教官は本学に皆無となってしまった。

 一方、放送大学の中国語教育とくにT〜Vは中国語学のプロパーによるものである。これが利用可能ならば、現時点での中国語教育の不足がある程度はカバーされ可能性もあろう。むろん本学における中国語学専門家の欠如と放送大学の利用とは本質的に別問題であり、もしこうした理由で放送大学への依存が安易になされるなら、本学教養教育の存在意義すら問われかねないことは言うまでもない。
 

3 利用方法の検討

 本学および学生が放送大学の科目を有意義に利用するには、実際上つぎの2方法しかないと考えられる。

1)放送大学の録音テープとテキストを本学の授業に併用する。
2)放送大学と本学で単位互換協定を結ぶ。

 1)は実行可能性が高いが、むろん放送大学との何らかの同意ないし協定は必要であろう。しかし授業にビデオやテープを併用するなら他にも選択肢は多々あり、必ずしも放送大学の科目に利用価値が高いとはいえない。あえて利点を求めるなら、再放送を含め2回あるラジオ放送を学生が聴講するなら、授業の予習ないし復習がより容易に徹底されるだろう、という希望的推測がありうる程度であろうか。

 2)は第一前提が放送大学と本学の単位互換協定である。さらに第二前提として、本学の学生が放送大学の学生でもなければならない。放送大学の学生には全科履修生・選科履修生・科目履修生の別があり、おのおの一万八千円〜四千円の入学料、また1単位あたり四千円の授業料を放送大学に支出しなければならない。これに該当する学生は現段階で本学にもいないわけではなく、単位互換協定の締結が現在検討されつつある。

 もし中国語を含めた未修外国語でも締結が実現するなら、学生にとっては選択肢の拡大になろう。しかしながら彼らに放送大学科目の履修を積極的に勧めることは、本学教養教育の否定に即刻結びつく。一方、自主的に放送大学にも入学する学生は将来もごく一部と予測され、したがって単位互換制度を利用しての効果も部分的にすぎないと思われる。
 

4 まとめ

 以上、検討した結果をまとめてみたい。

 本学教養教育における未修外国語分野、とくに中国語教育に放送大学の科目を利用する場合、文法を中心とした中国語読解力の養成に限られ、会話教育については期待できない。これは現時点での本学における中国語学専門家の欠如をある程度補足する可能性はあるが、それを以て安易に人的不足の対策とするなら、本学教養教育の否定に連なるだろう。

 現実的な利用方法は、第一に放送大学の録音テープとテキストを授業に併用することだが、他にも選択肢は多々あり、必ずしも放送大学の科目に利用価値が高いとはいえない。第二の方法は放送大学と本学で単位互換協定を結ぶことだが、放送大学にも入学してその未修外国語科目を選択する本学学生は将来もごく一部と予測され、単位互換制度の利用効果は部分的にすぎないと思われる。

 総括的に結論づけるなら、現時点での放送大学科目を本学教養教育の未修外国語科目へ利用する利点と効果は、ともに部分的と判断された。ただし放送大学との単位互換制度は効果が小さいものの、学生の選択肢拡大にはなるので、今後も検討を続けるべき課題と考えられた。

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