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真柳誠「文庫めぐり(19) 高知県立牧野植物園牧野文庫」『日本医史学雑誌』48巻4号574頁、2002年12月

高知県立牧野植物園牧野文庫

〔来歴と概要〕
 高知出身の植物学者、牧野富太郎(一八六三〜一九五七)の蔵書を収める。高知市東郊外に中国仏教の霊場、山西省五台山の名に因むという五台山があり、その頂上近くの開けた谷あいに高知県立牧野植物園が開設されたのは昭和三十三年のこと。牧野氏が九六歳の天寿を全うした翌年だった。同年には東京練馬大泉の牧野旧邸も、練馬区立牧野記念庭園として一般公開されている。

 氏が終生集めた書は約四万五千点という厖大さで、昭和三十五年に牧野家より蔵書のすべてが高知県に寄贈された。同三十八年には牧野植物園内に牧野文庫が開設され、同六十三年に全蔵書目録も完成した。その和漢書目録を見ると、もちろん本草博物書が充実している。同一書の別版ばかりか、刷り元が違う同版本も多い。和漢洋の本草博物書では、恐らく質量ともに大阪の杏雨書屋に次ぐのではなかろうか。例えば飯沼慾斎の『草本図説木部』の自筆稿本、ホッタインの『リンネの博物誌』、ケンペルの『廻国奇観』など世界的にも貴重な書物をはじめ、植物学上欠くことのできないものや和漢の本草書、中世の字典書類や文学書など様々な分野の貴重本が多い。

 世界で当文庫唯一の蔵書といえば、清末・呉其濬の道光二十八年(一八四八)序刊『植物名実図考』三八巻と『同長編』二二巻の初版が二点もある。両書は薬草のみならず、植物全般を対象とした中国初の本草書として名高い。『図考』には実物に接して描いた、かつて中国本草になかった写実図もある。幕末〜明治の植物学者・伊藤圭介はこれを高く評価し、植物に和名をあてて復刻。のち伊藤本が中国で再復刻され、書物を介した日中交流の一典型となった。

〔蔵書目録〕
『牧野文庫蔵書目録(洋書の部)』、高知県立牧野植物園編、一九八〇。
『同(邦文図書の部)』、同上編、一九八二。
『同(和書・漢籍の部)』、同上編、一九八五。
『同(論文・逐次刊行物等の部)』、同上編、一九八八。

〔所在地〕
〒780-8125高知県高知市五台山四二〇〇ー六
電話〇八八ー八八二ー二六〇一
車で高知駅から約二五分、高知空港から約三〇分、土電バスではりまや橋から二〇分牧野植物園前下車。ホームページhttp://www.makino.or.jp/

〔利用法〕
文庫は一般開放ではないので、閲覧・複写等希望書の事前連絡が必要。
開園時間:九時〜一七時 休園日:月曜日・年末年始。入園料一般:五〇〇円

(真柳 誠)