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真柳誠「韓国訪書所感」『活』47巻1号10-11頁、2005年1月

韓国訪書所感
真柳 誠


 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

 私はここ5年ほど東アジア各国古医籍の現地調査を、文部科学省の科研費等により実施している。今年はその最終年で、調査が未完成だった韓国とベトナムを再び訪書。韓国ではソウルの国立中央図書館に8月の3週間ほど通い、発見や感慨が少なくなかった。

 当図書館は日本の国会図書館に相当し、蔵書の主要部分は日本統治時代の朝鮮総督府図書館と関連機関の収蔵書に由来する。当時は神田にも出向いて古典籍を購入していたことが蔵書印などから分かり、それゆえ和刻版や日本の著述が予想以上に多い。また現在もかなりの量を購入し続けている。おそらく医薬書だけでも一千点前後はあると推定され、全調査を完了できなかったのは残念だった。ただし蔵書の全書誌情報はウェブページで漢字検索が可能、しかも8割ほどの古典籍は全文の画像もウェブ公開されている(韓国語ウィンドウズでのみ閲覧可)ので、日本でも調査できるのは助かる。

 ところで韓国古医籍で『東医宝鑑』に次ぐ書は『郷薬集成方』85巻だが、この厖大さゆえ全巻が揃った版本は日本統治時代になかったらしい。そこで当時、京城(ソウル)の杏林書院に請われた三木栄氏が、自蔵書と京城帝大蔵書と同大の石戸谷勉生薬学教授の蔵書写真を提供、全巻揃いの活字本として詳細な解説つきで1942年に刊行した。この書も偶然調査した。いま韓国や中国で出版されている同書はみな当1942年版に基づく復刻だが、そうした経緯は記されていない。隣国古医籍の保存・普及に、日本の先人が尽力していたことを今になって知ることができたのも、やはり嬉しい発見だった。