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真柳誠「欧米訪書所感」『活』45巻1号12頁、2003年1月

欧米訪書所感

茨城大学教授  真柳 誠



 新年明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

 さて、伝統医学史の研究には新出史料も欠かせない。そのため国外蔵書の調査もときに必要で、昨年はイタリアとドイツに訪書し、東アジア以外の主な所蔵国はフランスを残すだけとなった。

 欧米の大蔵書機関には日本や中国にない特徴がある。古典籍・文書は国や地域別にセクションがあり、大きな機関ほど細分化され、また専門スタッフがいる。彼らは担当セクションの言語に堪能のみならず、古文も読解する博士号を持つ研究者であることが多い。大英図書館にはそうした専門スタッフが多数いて驚いた。

 逆に、某国国会図書館では困ったこともあった。日本と中国両セクションの両国系スタッフがどうも反目していたらしく、そのためか、ともに同国人には優しい。私は両セクションで閲覧する必要上、両国語を使い分けたため双方で優遇された。このコウモリぶりが東アジア部門長(日系人)の目にとまり、中国系スタッフに雷が落ち、私もさんざんいやみを言われたのである。

 しかしながら、遠く欧米まで流出した東アジアの医薬古典籍には日本医家の旧蔵書が少なからずあり、それらに出会う歓びは言葉に尽くせない。同時に現在まで保存し、公開してくれる蔵書機関と担当者への感謝の念がいつもわき上がる。古医籍は文化財であるとともに、いまも臨床と研究に役立つ実用書なのだから。