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真柳誠「台湾訪書所感」『活』43巻1号12頁、2001年1月

台湾訪書所感

茨城大学教授  真柳 誠

 新年明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

 さて、この言葉を書いている現在、私は台北で故宮図書館に数ヶ月も日参し、かつて日本にあった古医籍の調査をさせていただいている。ただ本だけを、それも国外でかくも長期に調査するのは未経験のこと。しかし一向に疲れもせず、日々嬉々として故宮に往復二時間のバス通いをしていられるのは、本以外にもいささか訳がある。

 巨大な朝鮮医学史三部作を著された故・三木栄先生の言葉をよく思い出す。いかなる旅であろうと必ず当地の文庫に足を運び、その公私を問わず菓子折持参で腰を低くして閲覧を請い、史料の蒐集に心がけること。私もこれを銘とし、各地の蔵書機関を訪ね歩いてきた。大きな機関ほど対応が事務的なのは了解ずみだが、やはり様々な違いを感じる。

 北京図書館古籍部には不可思議な料金等の不文律があり、閲覧や複写の申請毎に求められる。つい理由をたずねると、気色ばんで「中国は外国と違う」と言われ複雑な気分になった。一方、台北では日常生活ですら不快な体験がこれまで一度もない。さらに台北故宮図書館は公的サービスの充実のみならず、館員自身が閲覧者に細かく気遣いしてくれる。

 ある日、昼食の食堂で故宮院長と偶然隣席になり、図書館はどうかとたずねられた。「大陸」よりうんとすばらしいと答えると、ニヤリとして、「中国」と比較するものではない、の一言。これで合点がいった。いま私は台北故宮と図書館に心から感謝している。