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磯部彰編『図録 国宝「史記」から漱石原稿まで−東北大学附属図書館の名品』46頁、
文部科学省特定領域研究「東アジア出版文化の研究」総括班刊、2003年10月

20 『本草綱目』 52巻20冊 明・万暦24(1596)年初版の金陵本 狩野文庫
<阿3-64>

 中国では「本草」と呼ばれる分野で有用物に関する多様な知識を集積してきた。本書は歴代中国を代表する本草書で、李時珍(1518〜1593)の編纂。全52巻に1892種の薬物・食物等を載せ、1592年頃に成立した。本文の版木は時珍が没した直後の1593年に完成していたが、息子らが図版も加え、1596年に金陵の胡承竜により初刊行された。この初版本を金陵本といい、完本が展示の当本を含めて日本に4点、中国に2点、米国に1点ある。一部を欠く不全本は日本に3点あり、同一版木による1640年の程嘉祥印本が米国に完本と残欠本が各々1点ある。

 本書の主眼は、宋代本草書に至る歴代の雪ダルマ式編成の不便さを解消する点にあった。従来の本草書は収載物を人間への有用性で上中下に分類してきたが、本書は自然分類で配列し、各々に名称・形状等の項目を立てて歴代記述を再編。さらに金元時代の新薬理説も博採、史料性より博物と臨床面を強調し、初版直後から高く評され、ほどなく日本や朝鮮にも伝わった。

 本書の日本への初渡来はこれまで江戸初期の1607年とされてきたが、実際は1604年以前の渡来が正しい。本書が日本の本草研究に多大な影響を与えたことは、江戸版本が6種あり、それらで計14回も印刷されたことから理解できる。近代以降も活字版が3回刊行され、またドイツ語・フランス語・ロシア語などにも翻訳され、今なお研究者を裨益し続けている。ただし本書の引用文には省略・誤謬が多く、注意が必要。

(真柳 誠)