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磯部彰編『図録 国宝「史記」から漱石原稿まで−東北大学附属図書館の名品』94頁、
文部科学省特定領域研究「東アジア出版文化の研究」総括班刊、2003年10月

64 御医書之目録 江戸写本1冊9葉         <E6-7>

 本書は福島三春藩の旧藏書。仮綴じの写本1冊9葉で、書高28.2×幅19.5cm。表紙に「伊勢より参候/御医書之目録」とあり、調査・編纂に参与した三春藩士の名「中村平兵衛・秋田平之丞・河野平右衛門・奥野源左衛門」が左下に墨書される。編写年の記載はないが、三春藩秋田氏時代の江戸後期筆写と思われる。

 全9葉のうち7葉に記載があり、唐本(中国医書)と和書(日本医書)に大別され、それぞれに刊本と「かき(日本写)本」の別が著録される。中国医書は52書が記され、うち中国刊本は22書、和刻本は27書、日本写本は3書あり、各々について書名・部数・冊数等が記される。ただし中国医書に『全九集』を挙げるのは誤認で、実際は曲直瀬道三(まなせ どうさん、1507〜1594)の著書。また『本草綱目』については中国版と和刻版が併記される。日本医書は41書あり、日本写本28書、日本(江戸)刊本13書について書名・部数・冊数等が記される。

 著録された中国医書の成立年は漢代から清代前期にわたるが、明代の書が多くを占める。日本医書は大多数が安土桃山から江戸初期にかけて著された書、しかも曲直瀬道三関連の江戸前期の書が多い。したがって本書は江戸前期までに伊勢で蒐集された医書が福島三春藩にもたらされた時の目録と思われ、当時の書物流通をうかがわせる貴重な史料といえる。
 

(真柳 誠)