真柳 誠
『紹興校定経史証類備急本草』は中国最後の勅撰正統本草書として名高い。これまで中尾万三(紹興校定経史証類備急本草の考察、上海自然科 学研究所彙報、第二巻、一九三二)、岡西為人(紹興本草解題、新刊紹興本草別冊、春陽堂、一九七一)、鄭金生(神谷本『紹興本草』的初歩研究、中医雑誌、一九八一年第二期)の各氏ほかにより研究が重ねられてきた。一方、近年になって新知見もあいついでいるので、これを報告したい。
本書三三巻は王継先らが宋政府の詔で紹興二十九年(一一五九)に進上したが彫板が阻止されたため、継先らの新注などと薬図を抜粋した二二巻の略本が同一書名で修内司から紹興三一年以前に刊行された(当経緯は真柳「『素問』版本研究」(二)、『季刊内経』189号、2012にて詳論した)。しかし後世復刻されなかったため、明代の蔵書目録までみえるが、清代には記録がなく散逸したと推定される。一方、日本には伝本があり、それを日本で一九三二年と七一年に影印、また中国で一九九一年に簡体字本が出て、ようやく普及した。
つまり伝本はみな江戸写本に基づくが、日本への伝来時期はかつて不明で、漠然と鎌倉から江戸初期頃と推測されていた。しかし梶原性全の『万安方』(一三一五)巻一三上・療諸気疾二に、『紹興本草』から麹条文が二回引用されているのを郭秀梅氏が発見、一三一五年以前の鎌倉末期には伝来していたことを明らかにした(中国医書対『万安方』的影響、米Oregon大学国際シンポジウム「Tools of Culture」発表稿、一九九七)。
現存写本は一九巻本系、一九巻本の巻次を再編して増やした二八巻本系、一九巻本の図を主に抄撮した五巻本系に大別される。根本の一九巻本系もすべて同一本に基づき、原本は二二巻本から人部と菜部中品以下の計三巻を欠くものだった。これらの所在は中尾氏が一四点、岡西氏が九点、鄭氏が二点の計二五点を報告している。さらに筆者は以下の一五点(+追記7点)を確認したので、書誌事項を略報する。
@〜D国立国会図書館:紹興校定経史証類備急本草、一九巻二〇(合一〇)冊、江戸写(二〇〇―五二)。紹興校定経史証類備急本草、一九巻一〇冊、江戸写(特一―四七七)。紹興校定経史証類備急本草、存巻三―二八・一二冊、江戸写(別一〇―五六)。紹興校定経史証類備急本草画、存巻一・一冊、江戸写(特一―五一八)。紹興校定証類本草図、存一冊、彩色江戸写(特一―六〇一)。
EF東洋文庫:紹興校定経史証類備急本草、二八巻一一冊、彩色[江戸]写(]T―3―B―16)。紹興校定経史証類備急本草画図、五巻五冊、彩色[江戸]写(]X3―B―a―43)。
G早稲田大学図書館:紹興校定証類本草画図、五巻八冊、江戸写(特ニ一―八三〇)。
H宮城県図書館:紹興校定証類備急本草画図、五巻七冊、江戸写(三〇一九三伊)。
I内藤記念くすり博物館:紹興校定証類備急本草図、五冊、[江戸]写。
J米Prenceton大学Gest Oriental図書館:紹興校正(校定)経史証類備急本草、五巻五冊、清末写(C103/619)。楊守敬蔵本(いま台北故宮博物院図書館所蔵)に基づく。
K茨城大学図書館菅文庫:紹興校定証類備急本草図、存巻一・六・七・九〜一五・一七、九冊、文政九年菅氏写(三・五―五)。天明二年の朱盈写本に基づく二八巻本系。
L北里大学白金図書館:紹興校定証類本草図、存巻三、一冊、彩色[江戸後期]写。五巻本系。
M高知県立牧野植物園牧野文庫:紹興校定証類備急本草画、存巻五、一冊、[江戸]写。五巻本系。
N武田科学振興財団杏雨書屋:図経本草、存巻五(一部)、一冊、[江戸〕写(貴二五七)。五巻本系。
なお岡西氏が英国博物院図書館蔵中として日本写本かと推測した『紹興校定本草図』は、大英図書館蔵のシーボルト旧蔵江戸中期写本で、存二巻・合一冊(or九一一)だった。
(2000,4,18追記3点:北京大学図書館に19巻本1点、台北・故宮博物院図書館に1点「紹興校定經史證類備急本草畫、五卷、(宋)王繼先等撰、日本鈔本、五冊、故宮博物院圖書館、國立故宮博物院善本舊籍 總目下冊七三三頁」あり。台湾・中央研究院歴史語言研究所の傅斯年図書館善本室に1点「A614.1338 紹興校定經史證類備急本草畫 五卷、首一卷、(宋)高紹功等校訂、和鈔本、8冊 : 圖 ; 27公分 (線裝)、書根題名: 證類備急本草、宋紹興二十九年高紹功等序、翠樓圖書記印記、排架號: 1077」あり)。
(03,1,21追記1点:台湾大学総図書館に「紹興校定経史證類備、15516-15521、松原孝俊「台湾大学総図書館所蔵日本典籍目録」284頁、松原孝俊『台湾大学所蔵日本古典籍調査』(平成13年度科研費 基盤研究B-2研究成果報告書、2002、3)所収」あり)。
(13, 5, 13追記1点:京都・陽明文庫に「シ206 紹興校定経史証類備急本草画図二十巻十冊、宋・王継先等奉勅撰、江戸中期写、彩色本。無界・行一九〜二一字、字面二〇・二×一三・五p」、立命館大学陽明文庫講座「今にいきづく宮廷文化」二〇一二年一二月一六日講演資料、芳村弘道「陽明文庫の漢籍について」一七頁) 。
(14,2,7追記2点:東京国立博物館に「江戸医学館旧蔵書。漢籍052-4-20、紹興校定證類備急本草19巻8冊、宋・王継先校訂、弘化4年(1847)識語」あり。ベルリン国立図書館“Japanische Handschriften und Traditionelle Drucke, Aus der zeit vor 1868, Staatsbibliothek und Staatliche Museen, Beschrieben von Eva Kraft, Mit 16 Farrb und 26 Schwarzweisstafeln, Franz Steiner Verlag Gmbh.Wiesbaden, 1982”に「1a - Libli japon 183。紹興校定経史証類備急本草、写本〔天明〜寛政〕」あり)