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真柳誠「華岡流の図説書」『日本医史学雑誌』40巻1号80-81頁
第95回日本医史学会総会、1994年5月15日


華岡流の図説書

真柳 誠

 最近、華岡流の治療図説を載せた書を北里大学白金図書館で購入した。内題を『春林軒奇患図』、外題を『花岡経験奇患図』と記す上下二冊、および整骨と繃帯の図説を載せる無題の付録一冊からなる。筆写者、筆写年等の記入や蔵書印記はなく、「西肥唐津 小林蔵書」の墨筆のみあるが、『華岡青洲先生及其外科』『医聖華岡青洲』の門人録に小林姓の人物はみえない。

  この書を順天堂大学図書館山崎文庫所蔵の文政元年(一八一八)野村鄂写『外科治術図説』(『図録日本医事文化史料集成』第二巻に『外科手術図巻』として収載)と比較すると、絵図の数は相当に多い。しかし本書には天保、嘉永、安政、文久の年間における治験図説もあるので、青洲の春林軒時代のほかに南洋の大坂合水堂時代の治験が混在している。

  本書三冊の画筆は同一で、かなり達者であるが、説明文は山崎文庫本といささか出入がある。そこで無題も多々あるが、全絵図の病名等と術名を以下に摘録する。

『春林軒奇患図』上冊三七葉七三図
 肉瘤、同前、同前、血瘤、肉瘤、同前、血瘤、粉留(青洲の図像がある)、血痣、其二、火傷、同前、其二、耳瘤、虫胞、肩風、走馬下宿、病名なし、口痔、病名なし、血痣、舌疳、骨瘤、肉瘤、眼胞菌毒、同前、骨瘤、耳瘤、軟骨瘤、六指、病名なし、肉瘤、肩風、反花、其二、出血、反鼻(マムシ)咬傷、其二、反花、眼胞菌毒、同前、病名なし、脳後発、乳癌、敗液流注、頑肉、反花、其二、脱疽状腐肉、其二、血瘤、脱疽、其二、骨瘤、反花、同前、無題、対口瘡、無題、病名なし、無題、無題、無題、無題、頑肉、無題其三、脱疽、其二、欠唇、其二、其三、同前、反花。

『春林軒奇患図』下冊三三葉六六図
 大包茎、其二、上顎瘍、其二、肉瘤、其二、無題(陰瘤)、其二、無題(乳癌)、無題、其二、粉瘤、血瘤、石淋、血瘤、鼻痔、病名なし、其二、鎖陰、血痣反花、無題、其二、無題、無題、無題、其二、其三、無題(乳癌)、其二、無題、無題、無題、其二、無題、陰瘤、同前、前垂ボボ、陰瘤、同前、病名なし、鎖陰、陰瘤、肉瘤、其二、石淋、亀頭反花、陰門反花、無題、肛門反花、会陰打撲、大斗疝、同前、同前、其二、其三、其四、其五、血痣反花、無題、無題、無題(手足四指)、無題(乳癌)、無題、其二、其三、無題。

『春林軒奇患図』付録一冊一八葉二七図(うち整骨一五図、繃帯一二図)
 落架頤、態顧術、縊木綿態顧術、車転術第一法(風車術)、車転術第二法、車転術第三法、車転術第四法、円旋術、遊魚、燕尾術(騎竜術)、燕尾術(尺蠖術)、尺蠖術、螺旋術、騎竜術、躍魚術。

  八裂、頭柱、頭巻、頭皷、脊皷、大袈裟、腹皷、咽巻、腹巻、脊皷前面、無題、脱肛。

  このように本書三冊には計一六六図を載せるが、同類の写本は順天堂大山崎文庫に二本あり、他にも目録等で以下の書が知られる。

  華岡青洲氏および和歌山市立博物館蔵『治験図巻』(各一本)。片山寿氏蔵『整骨繃帯乳癌奇患図譜』。杏雨書屋蔵『奇患図』『整骨図・木棉図』『青洲先生整骨図説・繃帯図説・奥術活法図・産術図説』『華岡奇患図(同名別言各一冊)』。東大鶚軒文庫蔵『奇患録』『奇患図』。東北大狩野文庫蔵『華岡家奇患図』。京大富士川文庫蔵『華岡氏治術図識』。華岡乙平氏蔵『華岡家治験図鑑』。

  華岡青洲氏蔵『整骨図巻』。京大富士川文庫蔵『青洲先生巻木綿之図・青洲華岡先生整骨法図説』。東洋文庫(藤井文庫)蔵『青洲先生巻木棉整骨図』『青洲縛帯図』。和歌山県立医大蔵『青洲先生整骨法図説』。

  また、乳癌の図説言も一○点以上知られるが、それらについては割愛する。

(北里研究所東洋医学総合研究所・医史学研究部)