真柳誠「『本草色葉抄』所引の医学文献」『日本医史学雑誌』36巻1号34-36頁、1990
日本医史学会第91回学術大会、1990年4月21日
『本草色葉抄』は惟宗具俊が弘安七年（一二八四年）に撰述した鎌倉時代を代表する本草書である。本書の伝本は少ないが、内閣文庫所蔵の室町中期写本が石原明氏らの解題を付し、昭和四十三年に同文庫より影印出版されて利用可能となった。
本書は『大観本草』（一一○八年初刊）中に見える薬名の記載巻次の検索を主目的とした、一種の本草辞典である。またそれ以外の薬名についても、本書に先行する『本草和名』（九一八年頃成）から数多く転録する他、独自に各種漢籍より引用している。それらの大多数には出典も記されており、文献名は転録も含め全体で約一四○種に上る。ところで鎌倉時代に伝存、あるいは新たに伝来していた医書を把握しうる史料は少ない。しかし本書の所引文献を解析するならば、当時の情況に光を当てることが可能である。石原明氏の解題もこれに言及するが、わずか三三種（うち医書は二一種）の漢籍を列挙するのみで、誤認も少なくない。そこで演者は内閣文庫刊本を底本に、本書の全引用書名索引を作成したので、以下に簡報する。
書名上に●を付したのは『大観本草』以降に成立、あるいは『大観本草』や『本草和名』からの間接引用と認められない医薬文献。○を付したのは『本草和名』が引用している文献である。書名下の（ ）内には記載回数を記し、書名等の明瞭な省略は相応に補足し一括して計上した。また明らかな誤写および俗字・異体字なども、正字・当用漢字に改めた。
〔イ〕●易簡方（四） ●医説（七） 異物志（二） 医方（一）
〔オ〕音義（一）
〔カ〕○郭璞注（二） ○葛氏方（二） ●家蔵方（一） ●家伝衛済宝書（四） ○漢武王内伝（三）簡要済衆方（一） 月令（一）
〔キ〕岐伯（一） ○耆婆方（五） ●究源方（一） ○玉篇（三） 今案（五） 今注（二）
〔ケ〕経験方（二） 荊州記（一） 荊楚歳時記（一） 経注（一） ●外科精要（一） 外台秘要方（九） ○玄感伝屍方（三） ○兼名苑（四○三）
〔コ〕○広志（一七） ○広雅（六） ○広利方（一） ○五金粉薬訣（七） ○古今注（四一） 呉氏（二） ○呉録（一）
〔サ〕○崔禹（七○） ●済生方（四） ○雑要訣（八二） 左伝（一） ●三因方（一二） ○刪繁論（三）
〔シ〕詩（五） ○爾雅（六七） 史記（一） ○七巻食経（二一） ○釈薬性（一四五） 煮石経（一） 周礼（二） ○食経（四） 食医心鏡（二） ●集験方（一） ●十便方（一） ●傷寒論（一） ●小品方抄義（一） ○小品方（二○） 商方（一） 上林賦（一） 蜀本（四） 神験方（二） ○神仙服餌方（五一） ○神農食経（一） 神農五穀本草図方（一） ○新方（一）
〔ス〕図経（三八）
〔セ〕説文（四） 山海経（四） ○千金方（一四） 千金翼方（一） 聖恵方（三） 仙経（三） ○仙方（五） ●銭氏小児方（三）
〔ソ〕○蘇敬（九） 蘇恭（三） ○荘子（三） 楚調（二） ○疏文（三九） 蘇沈良方（六） 素問（一）
〔タ〕○大清経（九三） 太清草木方（一） 太平御覧（二） 太平広記（二） ○丹口訣（二七） ○丹秘口訣（一） ○丹薬訣（二） ○丹方（二） ○丹家（二）
〔チ〕張鼎食療本草（一） 陳蔵器（三二）
〔テ〕天宝方（一）
〔ト〕○陶弘景（一一二） ○陶隠居（三） 道済医方（一） 東坡文集（一） 唐本（六四） 斗門方（七）
〔ナ〕南越志（二） 南州記（一） 南楚（一） 南都賦（一）
〔ニ〕日華子（一） 如意方（六）
〔ハ〕梅師方（一） 博聞録（二） ○博物志（二） ○波羅門方（三） ○范汪方（一九）
〔ヒ〕備急方（二） ●百一選方（三一）
〔ヘ〕別説（三） 別本（二）
〔ホ〕方言（二） 宝蔵論（四） ○抱朴子（三） ○墨子五行記（一九） 法華経（一） ○本経（五） ●本事方（一四） ●本事方後集（二） ●本草桁義（七二） ○本草稽疑（一八） ○本草拾遺（一八） ○本草和名（一）
〔モ〕○孟詵（三） 毛伝（二）
〔ヤ〕○薬訣（三六） ○薬対（一） 薬図（一） 薬性論（二） 薬石弁正論（二）
〔ヨ〕○養生要集（一一）
〔ラ〕○礼記（四） 雷公（一○○）
〔リ〕陸機（二） 李邕方（一） ●竜門方（一） 呂氏春秋（一）
〔レ〕霊奇奥秘術（六） 嶺表録異（一）
〔ロ〕○録験方（七）
〔ワ〕和香方（一） ●和剤局方（一二）
（北里研究所附属東洋医学総合研究所・医史文献研究室）