現存する日本最古の本草書『本草和名』は、本草学・国語学・字書学などの歴史研究に不可欠の文献である。とりわけ本書所引医薬文献の大多数はすでに逸伝しているため、中国中世以前の医薬文献とその日本への伝入情況を把握する上で、本書は『医心方』『日本国見在書目録』『倭名類聚抄』と同等の価値を有している。しかしながら本書所引医薬文献の全体に言及した報告はかつてなく、さらに現行の多紀元簡校刊本とその影印本は校刊時の所改と誤刻が多く、調査研究の底本に必ずしも適当ではない。
演者らは最近、江戸幕府紅葉山文庫旧蔵の原本を影写した森立之旧蔵本を台北故宮博物院にて親見し、そのマイクロフィルムを入手した。そこで当書を底本に引用書名・人名を調査し、各々に文献学的検討を加えた。よってその概要を以下に簡報することとする。
なお書名・人名の記載箇処は紙幅の関係上割愛し、各々の出現回数のみ（ ）内に示した。ただし当書巻頭凡例中の書名・人名は引文ではないので、これに計上していない。本報では当書の俗字・筆癖字のみ正字・当用漢字に改め、異体字・通用字・訛字等は原則上そのまま採録した。当書凡例および諸目録類・『医心方』等より記載書名の省略・別称が明瞭なものは、その必要最小限を〔 〕内に補足した。
一、本草・食経類
①『本草経集注』『新修本草』
本経（二）。別録（一）。
陶景注（二五六）、陶注（二）、陶景（三）、陶（一）、隠居本草注（一）、隠居本草（一）。
蘇敬注（一九七）、蘇注（一）、蘇敬（八）、敬（一）。
②諸家本草書
雷公採薬吏（一）。本草拾遺（三）、拾遺（三二）。本草稽疑（一）、稽疑（二二）。〔本草〕疏文（一五）、文（一）、疏（五）。〔本草〕雑要訣（八一）、雑要交ママ（一）、雑要（一）。〔雑注本草〕蒋孝苑ママ注（一）。釈薬性（一○一）、釈薬（二一）、精ママ薬性（一）。大清経（三七）、太清経（一五）。本草（二）。薬対（二）。
③諸家本草音義書
甄立言〔本草〕青ママ義（一）、甄立言（一）。楊玄操音義〔本草注音〕（七）、楊玄操（一六六）、楊畜ママ操（一）、楊玄惨ママ（一）、楊玄（一）、楊（三）、〔楊玄操〕注（一）。仁諿〔新修本草〕音義（九）、仁諿義（一）、仁諿（二五八）、二ママ諿（一）。
④諸家食経書
神農食経（二）。馬琬食経（一）、馬琬（二）。崔禹錫食経（一）、崔禹食経（一）、崔禹（一三七）。孟詵食経（三）、孟詵（三）。膳夫経（一）。新撰食経（一）。七巻食経（四一）、七養ママ食経（一）。食経（二）。
二、医方・服食・養生類
①魏晋方書
華佗方（一）。葛氏方（一）。
②南北朝方書
范汪方（三三）。小品方（一一）。那ママ〔刪〕繁論（二）、繁論（一）。耆婆方〔耆婆脈訣経〕（三）。波羅門方（一）。龍門〔百八〕方（一）。隠居方（一）、陶隠居術（一）。
③隋唐方書
新録〔単〕方（一）。〔古今〕録験方（七）。千金方（二）。玄感伝屍方（一）。鑑真方（一）。〔貞元集要〕広利方（一）。徐〔思〕恭〔脚気〕論（一）。
④その他方書
雑録方（一）、卅隶ママ方（一）。雑方（一）。新方（一）。
⑤服食書
神仙服餌方（二九）。丹秘口訣（一）。丹口訣（一九）。丹薬口訣（一）、丹薬訣（一）。薬訣（二六）。丹方（一）。丹家（一）。洞真丹経（一）。五金粉薬訣（五）。練名ママ方（一）。仙方（一）
⑥養生書
養性要集（一○）。
三、非医書および不詳書
爾雅（八）、爾雅注（二）。郭璞（一）。広雅（二）。玉篇（一）。唐韻（一）。兼名苑（二三六）、兼名蒙ママ（一）、魚ママ名苑（二）、兼名（二）、〔兼名苑〕注（一）。
礼〔記〕（一）。荘子（一）。漢武内伝（一）。広志（一）。呉録〔地志〕（一）。博物志（二）。〔崔豹〕古今注（二六）。〔捜〕神記（一）。抱朴子〔内篇〕（五）。文選（一）。
墨子〔枕中〕五行記（七）、黒ママ子〔枕中〕五行記（二）、墨（一）。仏経（一）。鹿角経（一）。類也（一）。