矢数 道明(*1) 真柳 誠(*2) 室賀 昭三(*2)
小曽戸 洋(*2) 丁 宗鉄(*1) 大塚 恭男(*1)
Domei YAKAZU(*1) Shozo
MUROGA(*1) Makoto MAYANAGI(*2)
Hiroshi KOSOTO(*2) Jong-Chol
CYONG(*1) Yasuo OTSUKA(*1)
(*1)医、(*2)薬・針.(*1)(*2)北里研究所附属東洋医学総合研究所、東京
(*1)M.D.,(*2)Pharmacist/Acupuncturist,
(*1)(*2)Oriental Medicine Research Center of the Kitasato Institute,
Tokyo
Summary The general survey
for the curricula of traditional medicine(TM)in medical,dental and pharmaceutical courses(Universities
and Colleges)has been carried out in Japan.
In this survey,TM in medical specialist
education has come to focus on the following items;
1)Execution of TM educational
issues
2)Prospect of education
3)Courses should be introduced
from now
As a result:more than half of
the Universities which does not introduce TM state reason for shortening
of School hours and lack of the teaching staff.The total percentage of
Universities which already introduced or intended to introduced TM soon
exceed 37%.In medical and dental courses,TM will be introduced in clinical
medicine as well as an optional subject.On the other hand,TM will be
introduced as a postgraduate curriculum and optional subject in pharmaceutical
courses.
要旨 筆者らは日本の医科・歯科・薬科大学(学部)における、伝統医学教育についての調査を実施した。本報では当調査結果のうち、以下の項目に関する統計分析を報告した。
(1)伝統医学教育における問題点
(2)教育の展望
(3)今後導入がなされるべき課程
この結果、伝統医学教育を未実施校の過半数がその理由に教育時間不足と担当者の不在を挙げること。現在実施中と今後実施の可能他のある校を合わせると、全体平均では37%に達すること。医科・歯科大学では、今後は臨床医学系教科と自由講座中にて教育が導入される傾向の高いこと。薬科大学では、現況の独立教科以外に自由講座・卒後教育などにも導入が進む傾向のあることが知られた。
緒言
筆者らは、1986年10月、伝統医学教育に関するアンケート調査を、全国の医科大・医学部[1]、歯科大・歯学部[2]、薬科大・薬学部[3]、の学長・学部長各位宛に実施した。当アンケートは4項目の設問よりなり、前報では第1番目の設問より得られた数字および資料等を基に、伝統医学教育の実施現況と傾向・特徴に分析を加えて報告した。
当アンケート第2〜4番目の設問は、伝統医学および薬学に関する教育の非実施校を対象としたものである。そしてこの3設問に対する返答より、伝統医学教育実施にあたっての問題点の所在、今後の展望等に多くの示唆が与えられた。そこで本報では、設問ごとに得られた統計と公表可能な資料を基に、各々に分析を加え報告を行う。
東洋医学・薬学教育の非実施理由
前報にて報告したごとく、当アンケートに返答の全129校中、東洋医学・薬学に関する教育の非実施校は、医科大・医学部が58校、歯科大・歯学部が20校、薬科大・薬学部が17校の全95校であった。当アンケートの設問第2では、まずこれら各大学・学部で東洋医学・薬学についての教育が実施されていない理由を、予め設定した回答a)〜d)より選択、ないしはa)〜d)以外の理由を「e)その他」の項に記入いただいた。
その結果、返答をいただいた非実施の全95校中で本設問に対し理由を選択ないしは記入のあった有効回答は、医科大・医学部が54校、歯科大・歯学部が15校、薬科大・薬学部が17校の計86校であった。つまり本設問に無回答の9校を除いた有効回答率は91%(以下全ての%は小数点以下を四捨五入する)となり、ほぼ全体の意見を反映しているとみなしてよいと思われる。
なお非実施の理由は必ずしも1つとは限らないので、該当理由を数項目同時に選択、あるいは記入することも可とした。以下各理由ごとに、医・歯・薬・全体別の回答校数と各々の総返答数に占める割合を列記する。またこのグラフを図1に示す。〔理由a)−非科学的部分が多く、学問としての体系に欠ける〕
医大:返答54校中3校、6%
歯大:返答15校中2校、13%
薬大:返答17校中0校、0%
全体:返答86校中5校、6%
〔理由b)−政府・学界が教育の必要性を認めていない〕
医大:返答54校中5校、9%
歯大:返答15校中0校、0%
薬大:返答17校中2校、12%
全体:返答86校中7校.8%
〔理由c)−教育をする時間がない〕
医大:返答54校中29校、54%
歯大:返答15校中11校、73%
薬大:返答17校中9校、53%
全体:返答86校中49校、57%
〔理由d)−教育を担当する人材がない〕
医大:返答54校中33校、81%
歯大:返答15校中8校、53%
薬大:返答17校中7校、41%
全体:返答86校中48校、56%
〔理由e)−その他(理由を記入)〕
医大:返答54校中10校、19%
歯大:返答15校中1校、7%
薬大:返答17校中3校、18%
蝉退:返答86校中14校、16%
<なお、ご記入いただいた理由と校数(名)は以下のようであった。未検討4校、無記入3校、不要3校、来年度より実施1校(防衛医科大学校)、卒後教育にて実施中1校(共立薬科大学)、学内意見不一致1校、不明1校>。
以上の理由中、最も高率で選択されたのはc)とd)で、いずれも全体平均は60%を越えている。したがってこのことから、東洋医学・薬学に関する教育を現在実施していない大学(学部)の責任者の過半数は、教育時間と担当者の不足を非実施の要因としていることが理解できる。
さらに当設問に返答の全86校を国公立と私立に分けてみると、医科大・医学部は国公立36校と私立18校、歯科大・歯学部は国公立6校と私立9校、薬科大・薬学部は国公立10校と私立7校、全体では国公立52校と私立34校となる。またそのうち「c)教育をする時間がない」を選択したのは、医科大・医学部で国公立19校と私立10校、歯科大・歯学部で国公立5校と私立6校、薬科大・薬学部で国公立7校と私立2校、全体では国公立31校と私立18校であった。するとこの理由を選択した割合は、医科大・医学部の国公立校が19/36=53%、私立校が10/18=56%。歯科大・歯学部は国公立校が5/6=83%、私立校が6/9=67%。薬科大・薬学部は国公立校が7/10=70%、私立校が2/7=29%。全体では国公立校が31/52=60%、私立校が18/34=53%となる(図2)。
同様に「d)教育を担当する人材がない」を選択したのは、医科大・医学部で国公立25校と私立8校、歯科大・歯学部で国公立4校と私立4校、薬科大・薬学部で国公立4校と私立3校、全体では国公立33校と私立15校であった。するとこの理由を選択した割合は、医科大・医学部の国公立校が25/36=69%、私立校が8/18=44%。歯科大・医学部は国公立校が4/6=67%、私立校が4/9=44%。薬科大・薬学部は国公立校が4/10=40%、私立校が3/7=42%。全体では国公立校が33/62=63%、私立校が15/34=44%となる(図3)。
まず理由c)の教育時間不足であるが、医科大・医学部は国公立校と私立校間に大きな相違はない。歯科大・歯学部はこれを問題として選択する率がかなり高く、しかも国公立校は83%もの高選択率であることが注目される。薬料大・薬学部は平均では医科大・医学部と大差はないが、国公立校の選択率は私立校のそれよりはるかに高率である。そして全体では、国公立校は私立校より時間不足を問題とする選択率が少々高い。つまりこの問題は歯科大・歯学部が最も切迫しており、全般的には国公立校にその傾向の大きいことが理解されよう。
理由d)の教育担当人材の不足では、医科大・医学部および歯科大・歯学部ともほぼ同傾向で、国公立校にこの問題の大きいことがわかる。薬科大・薬学部は国公立校と、私立校間に大きな差がみられないが、全体の平均では国公立校の選択率が明らかに高い。また医大・歯大・薬大の順に高率で選択されていることも注目に価する傾向である。
さて以上の医・歯・薬大別あるいは国公・私立別の諸傾向は、前報にて分析した東洋医学・薬学教育の実施諸傾向とよく対応している。すなわち既に考察したごとく、国公立校の東洋医学・薬学教育実施率が全般的に私立校より低い要因は、第1に担当教員の選任問題であり、第2にカリキュラム編成の自由度が関連していることが当分析より推測される。教育時間の確保に関しては個々には各大学の事情によろうが、教育担当人材の不足は現在の東洋医学・薬学界に対する大きな問題提起、とみることが可能である。とりわけ当問題は薬大の国公私立平均が41%であるのに対し、医大のそれは61%と逼迫度の高いことが注目されよう。そしてこの背景には、前報の教育実施校の現況分析で詳説したごとく、医大では漢方(湯液)と針灸の両面に亘る教育が必要であり、歯大や薬大より教育の範囲が広いこと。さらに薬大では生薬学など、既成教科担当者による兼任が比較的容易である点、などが関連しているものと思われる。
一方、教育時間と担当人材の不足という理由c)d)は、教育実施に対する積極的立場からの問題提起とみることができる。また理由a)は東洋医学・薬学に対する否定的立場から、理由b)は教育実施に対する消極的立場からのもの、と理解することも可能である。図1にみるごとく、医・歯・薬全体の平均で、理由a)とb)が選択された率はいずれも10%に達していない。とするならば、この理由a)・b)と理由c)・d)間の明瞭な選択率の相違は、東洋医学・薬学教育の非実施校においても、今後の導入を積極的に考える割合が高い傾向を示唆している、と判断することができよう。
今後の東洋医学・薬学教育の実施予定
現在、東洋医学・薬学に関する教育を実施していないと返答された全95校に対し、設問の第3では、さらに今後の導入予定についてa)〜d)の設定回答より該当するものを選択いただいた。
その結果、返答をいただいた非実施の全95校中で、本設問に対しいずれかの該当項目を選択された有効回答は、医科大・医学部56校、歯科大・歯学部19校、薬科大・薬学部17校の計92校であった。つまり本設問に無回答の3校を除いた有効回答率は97%となり、全体の意見がほぼ正確に反映されているとみてよいと考えられる。以下、各予定項目ごとに医・歯・薬・全体別の回答数と、各々の総返答数に占める割合を列記する。またこのグラフを図4に示す。
〔a)教育を実施する予定がある〕
医大:返答56校中1校、2%
歯大:返答19校中0校、0%
薬大:返答17校中1校、6%
全体:返答92校中2校、2%
〔b)教育の実施を検討中〕
医大:返答56校中5校、9%
歯大:返答19校中1校、5%
薬大:返答17校中4校、24%
全体:返答92校中10校、11%
〔c)教育の実施は未検討〕
医大:返答56校中29校、52%
歯大:返答19校中12校、63%
薬大:返答17校中9校、63%
全体:返答92校中50校、54%
〔d)教育を実施する予定はない〕
医大:返答56校中21校、38%
歯大:返答19校中6校、82%
薬大:返答17校中3校、18%
全体:返答92校中30校、33%
「a)実施予定」の返答をいただいたのは、防衛医科大学校と帝京大学薬学部の2校である。前者は1987年度からの予定。後者は1985年度よりカリキュラム中に開講済み(選択科目の「東洋医学概論」を4年生に半年間・週1回)であるが、諸事情によりまだ未実施とのことである。
「b)検討中」の返答をいただいたのは、埼玉医科大学・慶応義塾大学医学部・東海大学医学部・愛知医科大学・大阪市立大学医学部・昭和大学歯学部・昭和薬科大学・岡山大学薬学部・徳島文理大学薬学部・長崎大学薬学部の計10校である。また山梨医科大学は前報に記したごとく、既に麻酔学中で針灸等の講義と実習を10数時間実施中であるが、これとは別個に東洋医学の教育を検討中とのことである。
「c)未検討」と「d)予定なし」の返答をいただいた80校名は省略する。
さて「a)実施予定」と「b)検討中」の返答校は、今後東洋医学・薬学に関する教育を実施の可能性があると考えると、その数は全体で92校中の12校・13%となる。この数字は東洋医学・薬学教育の導入に積極的な大学が、現在の非実施校中にも13%あることを示している。またこれを医・歯・薬別にみると、薬科大・薬学部が30%、医科大・医学部が11%、歯科大・歯学部が5%となる。そして薬科大・薬学部は教育を現在実施中の22校を加えると、当アンケート設問第1と第3に返答の39校中27校・69%が現在実施または今後実施の可能性があることになる。同様に歯科大・歯学部は返答26校中8校・31%。医科大・医学部は返答61校中11校・18%。全体では返答126校中46校・37%となる。つまり医・歯・薬大全体では、少なくとも4割弱の大学が何らかの形で東洋医学・薬学を教育、あるいは今後導入する可能性のあることが理解されよう。そしてこの傾向は薬大が最も高く、次いで歯大、医大の順であることも知られた。もちろん前報に述べたごとく、本アンケートの統計数字に加えることはできないが、実際上の割合はこれをある程度上回るものと考えられる。
次に「c)未検討」校であるが、これは教育の実施に比較的消極的な返答と理解される。歯科大・歯学部がやや高いが、非実施校全体では半数強、設問第1・3に返答の全128校中では60校・39%となり、上述の実施校と実施に積極的な校を合わせた37%とほぼ同率となっている。
「d)予定なし」の返答は、東洋医学・薬学教育の導入に否定的な大学と理解される。その選択率は医大が最も高く、次いで歯大・薬大の順であり、前報に述べた現在の各々における教育実施率と正反対になっている。この返答は非実施校中の3分の1を占めるが、設問第1・3に返答の126校中では30校・24%となり、上述の実施中と積極的校の37%、消極的校の39%より低率である。
以上の統計数字を医・歯・薬・全体別に、実施中・予定あり・検討中・未検討・予定なしの割合からグラフ化し、図5に示す。このグラフより東洋医学・薬学教育の現況と、今後の展望がおおよそ理解可能であろう。
ところで、この「d)実施予定なし」と返答された医・歯・薬の計21校について、設問第2の非実施理由との関連をみると次のようになる(回答重複あり)。
a)非科学的・学問体系を欠く:2校(医1、歯1)
b)政府・学界の方針にない:0校
c)教育時間の不足:18校(医13、歯4、薬1)
d)教育担当人材の不足:15校(医11、歯3、薬1)
e)その他:5校(医3、歯1、薬1)
無回答:2校(医1、薬1)
この数字より、教育の導入に否定的大学でも、その大多数は教育時間と人材の不足を非実施理由に挙げていることが知られる。つまりこの2点の問題の存在が、東洋医学・薬学教育の実施および実施の展望に最も大きな障害となっていることが、上記の数字からも明らかであろう。とはいえ、前述のごとく教育実施とこれに向かう割合は既に否定的割合を越えており、今後この傾向が強まる可能性を示唆している。
今後の大学教育課程における東洋医学・薬学
かつては東洋医学・薬学が大学では正規に教育されることがほとんどなく、ほぼ全ては何らかの形態による卒後教育と独学に委ねられていた。また現在もその大勢に変化はない。しかしこれが大学教育に導入される傾向は着実に増加しており、前報で詳述したごとく、既に実施中の34校のカリキュラムからも内容や形式の傾向をある程度みることができた。そこで設問の第4では非実施校に対し、今後の導入が適当な課程について調査した。
当設問は予め設定した課程中より該当項を選択、あるいは「その他」として記入いただき、同時に数項目を選択あるいは記入することも可とした。またカリキュラム編成の相違を考慮し、選択すべき設定課程は医・歯大向けと薬大向けを別々に作成し、各々について統計した。
(1)医科大・医学部および歯科大・歯学部
東洋医学に関する教育を実施していないとの返答をいただいた医大58校・歯大20校の計78校中、当設問第4に選択または記入の有効回答は、医大52校・歯大16校・計68投で、全体では87%の有効回答率であった。したがって当設問で得られた数字は、ほぼ全体の意見が反映されているとみなしてよいものと思われる。以下、各課程ごとに医・歯大別の返答校数と各々の総返答数に占める割合を列記する。またこのグラフを図6に示す。
〔a)基礎医学系科目中〕
医大:返答52校中5校、10%
歯大:返答16校中1校、6%
〔b)社会医学系科目中〕
医大・歯大ともに選択校なし
〔c)臨床医学系科目中〕
医大:返答52校中16校、31%
歯大:返答16校中6校、38%
〔d)独立講座新設〕
医大:返答52校中2校、4%
歯大:選択校なし
〔e)自由講座〕
医大:返答52校中17校、33%
歯大:返答16校中5校、31%
〔f)卒後教育〕
医大:返答52校中8校、15%
歯大:返答16校中3校、19%
〔g)同好会〕
医大:返答52校中8校、15%
歯大:選択校なし
〔h)その他〕
医大:返答52校中7校(未検討2校、不明4校、無記入1校)、13%
歯大:返答16校中2校(未検討1校、不明1校)、13%
以上の返答中、d)の独立講座新設に記入のあったのは東北大学医学部と熊本大学医学部である。
さて図6にみるごとく、全般の傾向は医大・歯大ともに大差はなく、臨床医学系科目中と自由講座における教育が30%を越える割合を示している。卒後教育と同好会(医大のみ)も15〜20%程度で比較的高いが、いずれもさまざまな団体や会により現在も実施されており、本統計で大学教育の展望を考察する際にあまり大きな意味はない。
前報にて分析を加えたように、医科大・医学部では独立講座、麻酔学・薬理学の一環、特別講義の一環の3タイプの教育が現在行われてる。また歯科大・歯学部ではほとんどが歯科麻酔学の一環としての教育であった。すなわちこの現況からみると、当設問で最も高率で選択された臨床医学系科目には、麻酔学・歯科麻酔学が大きな比重を占めるであろうことが推測可能である。しかも歯科大・歯学部では臨床医学系科目の選択率が最も高く、かつ独立講座新設の選択がないことは、現在の教育状況とよく符合している。つまり前報の分析である程度予測されたが.今後医科大・医学部における教育は、麻酔学を主とする臨床医学系科目中への導入と自由講座(特別講座)を中心に、薬理学など一部基礎医学系科目中にも取り上げられて行く傾向がこの統計より示唆される。このことは歯科大・歯学部もほぼ同様であるが、臨床医学系科目中での教育の比重が基礎医学系科目中のそれより大きい傾向は、医科大・医学部より一層明瞭である。
(2)薬科大・薬学部
東洋医薬学に関する教育を実施していないと返答をいただいた薬大17校中、当設問に選択または記入の有効回答は14校であった。すなわち無回答の3校を除いた有効回答率は82%となり、おおよそ全体の意見を反映しているとみなしてよいと思われる。以下、各課程ごとの返答校数と、各々の総返答数に占める割合を列記する。またこのグラフかを図7に示す。
〔a)教養課程〕:選択校なし
〔b)専門課程〕:14校中3校、21%
〔c)大学院〕:14校中3校、21%
〔d)自由講座〕:14校中5校、36%
〔e)卒後教育〕:14校中5校、36%
〔f)同好会〕:14校中1校、7%
〔g)その他〕:14校中2校、(未検討)14%
図7のごとく、薬科大・薬学部の非実施校は、自由講座や卒後での東洋医薬学教育を考える割合が高い。この結果は、前報の統計で薬大実施校に顕著にみられた傾向、すなわち現在の教育の大多数は専門課程での独立選択講座、という事実と相応しない。当アンケート結果からこの理由を明らかにすることはできないが、あえて推測を加えるならば、独立講座等の教育を実施する条件の備わった大学は当設問の対象となっていないため、とも思われる。
次に、大学院での教育が適当との返答(北海道大学薬学部、帝京大学薬学部、長崎大学薬学部)が、専門課程での教育と同率の21%に達していることが注目される。前報に述べたように、現在東洋医薬学の教育を実施中の22校中、大学院教育も実施しているのは3校に過ぎない。それゆえこの数字のみで速断は下せないが、あるいは薬大での教育が、今後は大学院にも導入されて行く傾向を示唆している、とみることも不可能ではない。
いずれにしても薬科大・薬学部における東洋医学の教育は、現況の専門課程中での独立講座ばかりでなく、今後は自由講座の形式や大学院課程中など、より多様化しながら拡大して行く可能佐が当結果より読み取れよう。
総括
筆者らの研究所は1976年より85年までの10年間、全国の医大生を対象に毎年夏1週間の東洋医学集中教育を実施してきた。湯液・生薬・針灸・医学史等広範囲に亘る講義と実習のため、定員を約20名に制限してはいたが、約250名に及ぶ受講生からは、現在、東洋医学の研究や臨床の第一線で活躍中の医師が少なからず輩出している。そしてこの東洋医学夏期セミナーは、いま全国の12研究機関で構成される日本東洋医学研究校関連絡協議会による主催が検討され、さらなる要望に応えんとしている。
一方、前報および本報で紹介・分析した今回のアンケート結果に如実なように、大学における東洋医学・薬学の教育は、医・歯・薬各々に一定の傾向を持ちつつ、確実に拡大・深化の趨勢にある。と同時に、東洋医学・薬学そのものは既に伝統医学の枠を越え、現代医学・医療の一翼を担う科学として、着実な歩みを進めている。
このような状況下にあって、東洋医学がより確実に発展するための大学教育を再検討する資料として、本報では前報に引き続きアンケート結果の統計分析より、東洋医学・薬学教育における現況の問題点と、今後の展望への視座を報告した。
本報の一部は、WHO西太平洋地域事務局主催“Regional Workshop on Training in Traditional Medicine”(1986.11.26)にて矢数道明が、また第22回日本医学会総会・東洋医学サテライトシンポジウム(1987.4.2)にて室賀昭三が各々口頭発表した。
謝辞:御多忙中にもかかわらず、当アンケート調査にご協力いただいた各大学の学長・学部長各位に深甚の謝意を申し上げる。
注
[1]本アンケートの性格上、明治鍼灸大学と大阪鍼灸短期大学を除く総80校を対象とした。
[2]日本大学歯学部と日本大学松戸歯学部、また日本歯科大学と日本歯科大学新潟歯学部の4校は各々別校とし、総29校を対象とした。
[3]全国の総45校を対象とした。