絶滅危惧種

医薬品規制の発達に応じて、オンブズパーソン組織に求められる役割が変わっているのに、伝統芸能に固執して旧態依然に留まると、絶滅危惧種になってしまう。どういう構図か解説しよう

たしかに、サリドマイド・スモンの時代は、企業、規制当局とも未成熟だったので、オンブズパーソン組織が攻撃する必要があった。しかし、今は違う。企業も規制当局も、個人個人のミクロレベルでは,まれにとんでもない人がいても、マクロのアウトカムとして安全面でとんでもない見逃しは非常に起こりにくくなっている。

そういう時代になっても、市販後に出てきた問題点を,後付で非臨床データを材料に企業や役所を必死で攻撃して、一体どんなアウトカムが得られると考えているのだろうか?今の時代に、国と企業による悪の枢軸を叩く正義の味方 という、昭和三十年代モデルに拘っても、若い人は決して興味を持ってくれない。後継者が育たずに、構成メンバーの平均年齢は年々高くなるばかり。だから、だから伝統芸能、絶滅危惧種だというのだ。

彼らは,役所や製薬企業の攻撃という代用エンドポイント(手段)に拘るあまり、一般市民のhealth literacy向上という大切なハードエンドポイント(目的)が達成できていないことにいまだに気づいていない。(ここでも手段の目的化が起こっている)。それどころか、むしろ、health literacyをゼロリスク探求症候群の方向へ劣化させる愚を犯しているように見える.リスク・ベネフィットのグレースケール・アナログなバランス感覚が欠けていて、攻撃対象の薬は百害あって一利なしという、デジタルな判断に拘るから,こういうことになる。

薬害事例に見られる役所への攻撃は、裏を返せば、リスク・ベネフィットの判断を役所に完全に依存し、自分は結果責任をすべて回避しようとする行動である。だから役所への攻撃は、もはや一般市民のリテラシーの芽を摘み取ることにしかなっていない

さらに深刻な問題は,役所への攻撃が,さらに薬害を生むリスクを高めていることに,肝心のオンブズパーソンが全く気付いていない点にある.これは詭弁でも何でもない.次のように,小学生でもわかる理屈だ.

”まじめに仕事をすればするほど,評価するほど,逆に叩かれる.挙げ句の果ては法廷に引きずり出される.こんな馬鹿げた真似はやってられん”と,厚労省から有能な人材が出て行く.すると厚労省のパフォーマンスがさらに低下し,もっと酷い失敗が起きて,また叩かれ,また有能な人材が失われ,もっともっと酷い失敗が起きる.

まさか,薬害がなくなると飯の食い上げになるから,厚労省叩きを止めないと考えているわけではあるまい.

このように,一生懸命行動しても、逆効果しか生まないことに気づけないのが,今のオンブズパーソンの実態である。自分達は悲劇の主人公だと思っているのだろうが、外部の人間にとってはコメディアンにしか見えない。

ここ30年から40年かけて企業と規制当局が成熟した現在、成熟すべきはメディアと一般市民だ。オンブズパーソン組織は、行政や企業の攻撃ではなく、media literacyと一般市民のhealth literacy改善に着手すべきなのだ。実際、メディアドクター(医療記事の批判的吟味)の動きが出てきている。

既存のオンブズパーソン組織は、医薬品報道分野でのメディアドクター第一人者になれるし、そうすればたくさんの若い人が興味を持って人も育つのに、伝統芸能への拘るばっかりに、彼らは絶滅の危機に瀕している。

あるいは、一度絶滅してしまった方がいいのかもしれない.なぜなら,peer reviewが入らず,自分たちが崇高な使命を担っていると信じ込んでいる組織の唯一の学習法は,その組織が崩壊して,構成員が眼を覚ますことであって、この文章のような中途半端な警告文は、彼らの攻撃性を高めるだけに過ぎないかもしれないからだ。

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