規制のリスク・ベネフィット

規制当局は,リタリンの取り扱いを間違えた.リタリン規制強化の恩恵を受けている人がほとんどいないのに対し,不利益を被った人々の数は膨大だからだ.(下記

ただし,規制の責任が全て規制当局にあるかのように,PMDA・厚労省を非難するのは,思考停止が大好きな愚か者のやることだ.なぜ,そんな規制が出てきたのか,考えれば,ごく一部の医療機関で行われたリタリンの不適正処方の大々的報道が大きく貢献したことは明らかだ.

そして,その報道を受けた国民の皆様が,”厚労省はけしからん”と,また騒ぐ.厚労省が委嘱している専門委員の先生方も,審議会(薬事・食品衛生審議会,医薬品第一部会)の先生方も同様にご心配なさって,いつものシャンシャン総会ではなくなり,まだ手ぬるい,ああしろ,こうしろで,医者の手をがんじがらめに縛る規制が提案される.

すると,お医者様方は,なぜ,今まで普通に処方していたものが突然使えなくなるのだ,患者を泣かせる厚労省はけしからん.とまた騒ぐ.

すると,”まじめに仕事をすればするほど,叩かれる.こんな馬鹿げた真似やってられん”と,厚労省から有能な人材が出て行って厚労省のパフォーマンスがさらに低下し,もっと酷い失敗が起きて,また叩かれ,また有能な人材が失われ,もっと酷い失敗が起きる.

だから,薬害を繰り返すなという連中が,薬害がどうして繰り返されるのかを考えずに,厚労省の攻撃ばかりやるから,いつまでたっても薬害がなくならないわけだ.これは,小学生でもわかる簡単な理屈だから,大の大人が理解できないわけがない.なのに,薬害を繰り返すなという連中が,厚労省叩きを止めないのは,薬害がなくなると飯の食い上げになるとでも思っているからだろうか.

参考→絶滅危惧種
                  
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 Medical Research Information Center (MRIC) メルマガ 臨時vol 67 2007年12月26日発行
  □■ ADHD患者の治療薬アクセスを阻害するリタリンR規制 ■□

                                (財)医療科学研究所
                                   辻 香織
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 注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder, ADHD)は,
多動性,衝動性,不注意の症状によって特徴づけられる軽度発達障害の一つであ
り,小児,成人とも治療対象となる。ADHDの諸症状に対しては薬物療法が有効で
あり,第一選択薬は中枢神経刺激薬メチルフェニデートである。先進主要国にお
いては正式な適応を取得しており,治療上不可欠の位置を占めている。日本にお
いては,メチルフェニデートを含む製剤としてリタリンRが販売されているが,
適応症はこれまで「うつ」と「ナルコレプシー」であり,ADHDに対しては適応外
使用が行われていた。

 メチルフェニデートはアンフェタミンに類似した作用を有するため,いわゆる
ドラッグとして乱用されることがある。2007年初めごろから密売事件や一部の診
療所による不適切な処方などの報道によりリタリンR依存が社会問題化したこと
を受け,厚労省は流通規制に乗り出した。2007年10月,まずリタリンRの「うつ」
効能削除を行い,適応症をナルコレプシーに限定した。一方,承認申請されてい
たメチルフェニデートの徐放性製剤コンサータRを,小児ADHDのみを適応として
承認した(2007年12月19日発売)。そして,各々,正式な適応症以外は使用不可
となる厳密な流通規制を指示したのである。

 これまでのメディア報道は乱用問題に偏っており,今回の流通規制が適正使用
推進のための適切な措置であるかのように報道されてきた。しかし,国内数万人
のADHD患者への影響を考慮せずに決定された今回の規制には大きな問題がある。
第一に,徐放性製剤コンサータRのみでADHDの治療が満足されることはなく,用
量調整,患者個々の状況への対応などの観点からリタリンRは必要であるという
ことだ。リタリンR 5?10mg/日で良好にコントロールされている患者は多いが,
コンサータRは18mg錠,27mg錠しかない。第二に,コンサータRは小児のみを対象
としているため,今回の措置により,成人ADHD患者は一切の治療薬がないという
状況におかれた。リタリンを服用しながら,仕事をし,家庭生活を送っていた患
者は今大変な困難の中にいる。

 医薬品の「適正使用」とは何か。少なくとも厚労省が称するところの「適正使
用」とは,正式に適応症として承認された疾患に対し,添付文書に記載されてい
る情報に従って医薬品を使用することを指す。しかし,この例が示すように,適
応症を取得していない場合でも,事実上有効性,安全性が確立し,当たり前のよ
うに行われている適応外使用は数多く存在する。適応外使用が絶対になされない
ようにすることが「適正使用」ではない。乱用防止のための措置はもちろん必要
だが,「適正使用」の大義名分のもとに必要な治療薬へのアクセスが絶たれるよ
うなことはあってはならない。

 ただちに,リタリンRの小児・成人ADHDへの適応外使用,コンサータRの成人へ
の適応外使用が可能となる措置を講じるべきだ。そして可能な限り速やかに,正
式な効能追加への道筋をつけることが必要だ。