医学生・研修医のための 第17回 家庭医療学夏期セミナー

3日目セッション 災害医療 新潟中越地震から学ぶCommunity-Oriented Primary Care 講演要旨

中越で大きな地震が起きたとのニュースを聞いたとき,私が真っ先に知りたいと思ったのは道路状況でした.95年,阪神淡路大震災で私が現地入りした時,今でも悪夢のように思い出すのは,まるで駐車場のように車がびっしり詰まって前へ進めない国道2号線でした.裏通りが倒壊家屋で塞がれたために,車両が広い道路に集中してしまったのです.やはり阪神淡路の経験から,鉄道の復旧には月単位の時間がかかることはわかっていましたから,何をするにしても,道路が通れなければ話にならない.中越の道路の場合には,倒壊家屋ではなくて山間部の崖崩れや陥没が問題になるだろうから,神戸のような市街地と違って,道路状況の確認にはひどく手間取るに違いない.もしも通れる道路が限られている時は,渋滞もひどくなるに違いない.下手に自家用車を運転していっても,あの国道2号線の悪夢を再現するのに一役買うだけかもしれない.どう判断するにしても,とにかく道路状況を知りたい.そう思っても,テレビ番組では一部の崩落箇所が散発的に報道されるだけで,迂回路の解説や渋滞状況は全く報道されませんでした.当然インターネットも必死で検索しましたが,最初の1週間ほどは,どこにも系統的な情報が見当たりませんでした.
道路状況という非常に大切な情報が,なかなか共有されなかったのはなぜでしょうか.そこには,通信インフラを整備するだけでは決して解決できない問題が隠れています.大災害時の情報ロジスティックと情報品質管理の問題を分析し,対策を考えてみましょう.

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セミナーの後,参加者へのメール

矢部先生,ほとんどお互い初対面のあれだけの人数のワークショップをよくぞまとめていただきました.さりげなく司会進行をなさっていましたが,私だったらとっくにパニックになっていたでしょう.横森,根本,吉山の各先生のお話では,今だから話せるという部分があちらこちらにちりばめてあって,非常に印象的でした.私にとっては,今回,ワークショップで話をせよとの課題をいただいたおかげで,未だに整理していなかった10年前の経験を,どういう視点でまとめればいいかが見えてきました.前川さん,漆原さんに御礼申し上げます.この10年、ずっと,引っ掛かっていたのです.

以下,学生・研修医の方々の議論と発表から,私が教えてもらったことです.報告書をまとめるにあたって,何かのお役に立てればと,

災害医療・危機管理を考える時、下記のようないくつかの切り口があることを教えてもらいました.
1.時間的な切り口:災害前→災害時→災害後:例えば,医療面では,災害前は日常の避難訓練,災害時はトリアージ,災害後は避難先での生活習慣病の管理

2.空間的な切り口:被災地の中,被災地周辺,被災地外.

3.ハードな危機管理とソフトな危機管理という切り口:ハードな危機管理とは,目に見えるもの,すなわち,物資の備蓄,施設・設備(病院・自家発電)物流,通信手段,交通機関といった危機管理である.一方,ソフトな危機管理とは,被災地と被災地の外との情報のやりとり,そのインターフェースもさることながら,人と人との関係(これにも地域の中と地域の内外の間といったいくつかの側面あり),地域を支える人材育成と教育,自分の家庭の管理(=家庭医たるもの,自分の家庭の維持管理がまず大切)

それから,10年前のこと.”普段から使い込んでいない通信手段は,いざという時に使えない”これは,阪神淡路大震災の時に,当時,ニフティとPC-VANという,二大パソコン通信網の相互乗り入れ会議での,あるネットワーカーのコメントでした.この言葉は通信手段に対してだけ当てはまるものではありません.もっと普遍的な意義を持っています.

横森先生のご紹介してくださった患者さんを実際に運ぶ避難訓練の繰り返し,震災の3ヶ月前に根本先生が立ち上げたTFC新潟オフ会に代表される人と人とを結びつけるネットワーク活動,こういった日常の地道な活動が,結局は大きく物を言って被害の拡大を防いだことを再確認したセッションでありました.

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