日医に戦略はないのか?

もちろん企業には企業戦略がある.なのに日医には戦略がないのか?診療報酬向上戦略の専門家揃いだとばっかり思っていたのだが・・・・
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責任を「企業戦略」に押し付ける日医 利益追求のいったい何が悪いのか
医薬経済2016年10月15日号

 いくら製薬業界が「物言えば唇寒し」の状況と言えど、ここまで医療費膨張の“戦犯”のように扱われる道理があるのだろうか。
「まるで脅しじゃないか」
 ある製薬企業渉外担当者は憤りを隠さない。氏が腹に据えかねているのは、中央社会保険医療協議会での日本医師会の「暴論」だ。
 それは、9月14日の中医協薬価専門部会で起こった。小野薬品の抗PD1抗体「オプジーボ」の薬価を巡り、初めて製薬業界がヒアリングに呼ばれた場である。

「企業戦略なら大きな問題。日本の医療保険制度を翻弄している」
 日米欧の製薬3団体代表が並ぶ前で、日医の中川俊男副会長はこう吼えた。「オプジーボ」の高額薬剤費問題の引き金になったとされている「希少疾患から参入し、適応の大きい疾患に拡大する」手法が、意図した「企業戦略であれば問題」と言っているのである。
 どういうことか。オプジーボが保険収載されたのは14年9月。当初の適応は「根治切除不能な悪性黒色腫」で、ピーク時年470人の希少疾患だった。類薬もないため、薬価は「原価計算方式」で算定され、研究開発費を含む原価、営業利益、流通経費が乗せられた。
 そして世界に先駆け日本で承認された新薬ということもあり、営業利益率が60%上乗せされ、単価は「100㎎10?1瓶72万9849円」などと高額になった。それでも、2年目のピーク時予測販売額は31億円と小ぶりだった。
 ところが、15年12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の適応が追加されたことで市場状況が激変。わずか470人の市場から、10万人を超える非小細胞肺がんに広がった。臨床現場からは「10万人の半分が使えば年1兆7500億円」(國頭英夫・日本赤十字社医療センター化学療法科部長)と過激な試算も出され、「薬剤費亡国論」が世間を大きく賑わせた。
 実際には、小野薬品の16年度売上予測は1260億円で、「1500億円はいきそうだが、兆単位など考えられない」(卸関係者)のが現状だ。それでも、たしかに当初のピーク時予測との比較でも40倍以上膨らんだ格好になる。
 ただ、ちょっと待ってほしい。中医協はオプジーボの当初算定時に、すでに適応拡大の予定があり、「大型品」と期待されている状況を知らなかったとでもいうのか。1兆7500億円という荒すぎる試算が議論の引き金になったが、これも外部の指摘に過ぎない。自分たちで付けた薬価に不適切と言い放ち、ましてや「企業戦略」が招いた事態として、企業を追及することにどんな筋があると言うのか。
 言うまでもなく、日本のほとんどの製薬企業は医療用医薬品の売上げで経営を維持している。そして、その医療用はほぼすべて保険適用され、公定価格である薬価が設定されている。薬価は企業の将来を左右する最大の要因なのだ。
 だからこそ、「決められたルールのなかで最大利益を得る」ために、企業は薬価担当や渉外担当らを置き、薬価交渉や制度変更の情報収集に全力を注いできた。そして、薬価制度も企業のこうした動きを逆に利用し、インセンティブ付与による政策誘導を続けてきた。
「戦略を持たない企業はない。希少疾患は制度上も、薬がないことからも開発が期待されている。『ルールに則った戦略』自体がおかしいというのは受け入れがたい」
 日本製薬団体連合会の多田正世会長は中川氏にこう反論した。
 まったくの正論であるが、それでも中川氏は「戦略としておかしいのではなく、国民皆保険が企業戦略に翻弄されては堪らない。公的保険のプレイヤーとしてどう立ち回るのか」と突き返した。
 この言葉を「製薬企業は『もうちょっと遠慮しろ』という意味」と捉える企業関係者は語る。
「原価計算方式の対象となる革新的新薬が希少疾患から入り、適応拡大で市場を広げるのは、現行ルールの範疇。一種のインセンティブともとれる。ルール内で最大利益をめざせるなかで、企業は遠慮なんてできない。中医協の想定外と言われればそれまでだが…」
 製薬企業には不採算品目を含めた医薬品を安定供給する責任、もちろん営利企業としての責任も圧し掛かっている。「遠慮」して薬価を自ら低く抑えることが「医療保険のプレイヤーとしての立ち回りというのか」と首を傾げている。繰り返しになるが、発端は、中医協の認識不足、ルール不備である。
 中川氏は10月5日の薬価専門部会でも「企業戦略」に噛み付き、加茂谷佳明専門委員(塩野義製薬常務執行役員)が「小さいところで始めてがん種を拡大する薬価戦略を有したわけでない」と小野薬品の考えを代弁した。
 ただ、小野薬品が仮に「企業戦略」と言い切っても何ら問題はなかっただろう。筋なき「企業戦略はけしからん」という論調がまかり通ろうが通るまいが、高額薬剤による医療財政の圧迫自体は喫緊の課題。適応拡大の問題も、企業が悪いという論理ではなく淡々と「制度変更が必要な事象」として処理されればいいのである。
 現にオプジーボは期中に市場拡大再算定が適用され、17年4月に薬価の緊急的な改定が行われる見通し。ルールそのものの変更も18年度改定に向けて検討される方向だ。企業戦略に責任を押し付けず、中医協として制度に「穴があれば埋める」でいいではないか。

「高ければいい」は終わり
 一方、革新的新薬ではなく、類薬のある医薬品では、旧来の「薬価は高いほうがいい」という業界の不文律が瓦解している。日本イーライリリーが、異例の薬価収載「取り下げ」措置をとった乾癬治療薬「トルツ」がその象徴だ。
 トルツは8月の中医協で薬価収載が認められたが、企業が薬価算定組織で示された当初案に「不服」を示し、「ルール通り」に外国平均価格調整(引き上げ)の適用を求めた結果、類薬の協和発酵キリン「ルミセフ」、ノバルティスファーマ「コセンティクス」より約1.7倍高い1日薬価が付けられた。
 しかし、中医協はこの価格差を問題視し、保険収載にかかる「留意事項通知」で、類薬を優先使用し、トルツはそれらが効果不十分な場合に用いる「縛り」を決めた。
 関係者によると、薬価算定組織は当初からトルツが外国価格調整の対象になるのを把握していたが「類薬との価格差を考えてあえて適用しなかった」という。そこにリリーがルールとは違うと不服を申し立て、高い薬価が付いた。
「DPC病院が増え、オプジーボなど高額薬価に厳しい目が向けられるなか『薬価は高いほうがいい』という時代ではなくなっている。トルツでは、企業がそれに気付かず、教科書通りに不服を出した」
 薬価算定に関わった関係者はこう語る。ただ、これも企業側が悪いわけではなく、「企業がルール通りに最大利益を求めたら、留意事項通知というルールのなかでブレーキがかけられた」ものだ。
 悪く言えば留意事項通知は「場当たり的対応。こちらももっとルールを明確にしてほしい」(企業関係者)と困惑の声も聞かれる。
 とにかく、日医が製薬企業に「公的保険のプレイヤー」としてどのような立ち回りを求めていようが、企業はルールに準じた最大利益の追求を止める必要はない。医師も定められたルールのなかで診療報酬を得ている。「遠慮」を解決策にするのは単なる責任転嫁である。
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