開発資源としての病理診断事業

コンパニオン診断薬に象徴される病理診断のためのIVD (in vitro diagnostics)の開発には、病理検体だけでなく、病理診断事業そのものが必須である。サーモフィッシャーサイエンティフィックが所有していた事業がそれである。しかし、日本国内では、製薬企業が病院の運営に関与することが禁じられているのと同様、患者検体を扱う病院病理部門は、IVDを開発する企業とは全く独立している。これがPHCホールディングスによる今回の買収の背景である。この買収によって、PHCホールディングスは、病理診断事業自体だけでなく、病理診断が不可欠となるIVDの開発、されにそのIVDを必要とする医薬品の開発にも、必須の事業を手に入れたことになる。
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PHC、米社から解剖病理事業買収1200億円 日経新聞2019年1月29日
PHCホールディングス(東京・港、小谷秀仁社長)は29日、分析機器や試薬の製造・販売を手がける米企業から解剖病理事業を約11億4000万ドル(約1244億円)で買収すると発表した。同事業はがんなどの細胞を顕微鏡で詳しく分析する機器や試薬が主力。事業買収で医療機関や研究機関向けの製品群を拡充する。
米サーモフィッシャーサイエンティフィック(マサチューセッツ州)から解剖病理事業を買収する。同社は医療用の分析機器や試薬の世界大手。年間売上高は200億ドルを超える。解剖病理事業の年間売上高は約3億5000万ドル(約380億円)。

検査や手術で患者から取り出したがんのタイプを詳しく分析し、最適な治療方針を決める病理診断などに使う。病理診断は個々人のがんの遺伝子変異などの違いに応じて最適な治療を選ぶ個別化医療でも重要な役割を担う。病理診断と遺伝子解析を組み合わせることで、より精緻な診断ができると期待される。
PHCホールディングスは血糖測定器や電子カルテ、細胞培養機器などを手掛ける。解剖病理事業は医療機器に次ぐ売り上げ規模の大きい事業になる。PHCホールディングスの年間売上高は2000億円規模。うち約70%を血糖測定器などの医療機器が占める。
このほか電子カルテなどのヘルスケアIT(情報技術)事業が約15%、細胞培養機器などのライフサイエンス事業が約15%を占める。将来に向け「高い成長を見込める」(PHCホールディングス)として買収を決めた。
病理診断はデジタル技術との親和性が高く、技術進化の余地も大きい。がん細胞などの画像をデジタル化し、ネットワーク経由で遠隔地から診断する「デジタルパソロジー」も国内外で始まった。例えば画像診断機器大手のフィリップス・ジャパン(東京・港)は2017年末、デジタルパソロジー向け機器の販売を国内で開始している。
病理診断を専門とする医師(病理医)が不足していることもあって、今後は人工知能(AI)で病理診断を支援する動きも出てきそうだ。オリンパスや東芝、医療系スタートアップのエルピクセル(東京・千代田)などが開発を進めている。
PHCホールディングスはパナソニックが2014年に出資比率を引き下げ、現在は米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、三井物産、パナソニックが出資している。パナソニックから独立し医療機器や医療ITの分野で新規事業開拓を急ぐ。
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