ご挨拶

太組 一朗

第34回 日本脳神経外科国際学会フォーラム(JNEF)
第33回 日本脳神経外科同時通訳団夏季研修会(SIGNS)
会長 太組 一朗
(聖マリアンナ医科大学 脳神経外科准教授)

迷い苦しみ給え

私が脳神経外科専門医になった平成10年には毎年240人の専門医が誕生する時代でしたが、今ほど情報に容易に試験情報に到達できるわけではなく、大多数の大学脳外科医局では未開発分野があったようで、試験対策とはいえ脳神経外科を広く学ぶにはそのなりに苦労しておりました。先輩方はオールラウンドになんでも対応できる方ばかりでしたが、我々の世代はどうやって各個人が違った役割を担っていけるのか、出身医局には機能外科もてんかん外科もありませんでしたのでどう学ぶか、とか、君たちそんなこと言うけど血管障害はサブスペシャリティーではないのか?と怒りだす先輩がおられたり、ああもうエンドバスキュラーを見つけちゃったの?早く出来上がっていいねえ、だの、喧々諤々しながらの、そう、脳神経外科に入局してからの10年余りが個々のサブスペシャリティー確立という全国的ムーブメントと重なって、未来の自分専用コンテンツを創り上げようと夢見る楽しい時代でした。

『英語が使える医者になりたい』などと、どこかでそのような刷り込みをされた私が脳神経外科同時通訳団の存在を知ったのは平成8年頃でしたが、指導教員であった寺本 明教授が「お、そうか、よしよし。推薦してあげよう。」と間髪いれず医局で言ってくださった瞬間をよく覚えています。しかし、当時は脳外科専門医じゃないと通訳団に入れないという時代で、せっかく教授が推薦くださるというのに、専門医じゃあないとどうだのと、ごにょごにょ言って、しばらくまたSIGNSが遠ざかってしまいました。(この一件以降、指導者の真心は何があっても素直にお受けするように努めています。)燻った思いのまま『将来脳神経外科同時通訳団という集団に入りたい』と、当時親しくしてくださった法学部教授の奥様に夢物語をお話したら、「タクミお前ね、通訳団?なに寝ぼけたこと言っているの?英語に使われてどうするの?脳外科医としてのコンテンツは?お前は脳外科医になりたいといってたんじゃあないの?あほか。」気弱な僕は、またまた一歩SIGNSから遠ざかってしまいました。

脳神経外科専門医資格を取得したあとも、SIGNS研修会にはどうやって参加したら良いか分からず何人かの先輩にお尋ねしたところ、SNEF (湘南脳神経外科英語フォーラム:JNEFの前身です)の存在を知りました。なんとかスライド作ってビデオ作って症例報告に行くのですが、文字通り1ミリも相手にされず、しかしSIGNS研修会の門戸が開かれていることを知り、遂に翌年(1999年)SIGNS初参加となりました。実際のトレーニングは悲惨なもので〈内視鏡動画を写真に貼ったものを〉という説明において〈put on, overlay, superimpose〉という語がひとつも思いつかず頭が真っ白になったところで「ストップストップ、こういうメンタルブロックというかね、みんな経験するのだけど、君も良い経験したね」トレーナーの先生は優しく、しかし、また来年おいでねというお一言でその夏は終わりました。

脳神経外科新専門医180人時代の昨今ですが人材は依然として豊富であり、最近のaward(Ken’s Award, Sammy’s Award, 会長賞)受賞者は大変優秀な方ばかりです。日本の脳神経外科の未来は本当に明るい。でもその反面、awardee のなかには、明日の自分を夢見て、なんとか苦労を重ねて脳神経外科医としてのコンテンツをつくりあげ、漸くJNEFエントリーされた方、あるいは人知れず自己研鑽を続けた末の通訳団入り、そんな方も少なからずおられるように思います。輝かしい実績をあげられる方々が陰で努力を惜しまないことは、JNEF/SIGNSの世界でもまた一緒です。

英語苦労人代表のような私が、このたびJNEF/SIGNS当番会長として皆様のお世話をさせていただくことを大変光栄に思っております。私たちは脳神経外科医であり職業通訳者ではありません。英語に使われるでも使いきるでもありません。日夜脳神経外科医としてのオリジナルコンテンツをつくりあげ、自分の仕事であり日本の仕事である我々の仕事を世界に紹介する皆様に心からの敬意を表します。若々しくチャレンジ精神旺盛な参加者を、そしてこれまできっかけなく悶々としていた内気な参加者を、心からお待ちいたしております。実りある研修プログラムを策定し、参加者各人のステップアップを実感いただけるような会にしたいと思います。「苦しみ迷いたまえ」とは正に私自身の日々を表している言葉ですが、明日の脳神経外科を背負って立つ若手の諸君に知ってほしいところでもあります。

奮ってご参加いただけますよう、心からお待ち申し上げております。

平成31年7月

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