ご挨拶
第163回日本胸部外科学会関東甲信越地方会 会長 昭和大学横浜市北部病院呼吸器センター 鈴木 隆 |
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第163回日本胸部外科学会関東甲信越地方会開催にあたって
今回、第163回日本胸部外科学会関東甲信越地方会の会長を仰せつかりました。伝統ある本地方会のお世話をさせていただくことは誠に光栄なことと存じあげます。
昨今の外科系学会では新しい手術手技の習熟を目指した講演と医療安全の講演が並行して行われますがこの2つは相反することがあります。しかしわれわれ胸部外科医はこの両者を矛盾を生じさせることなく臨床の現場に取り込むべく日々努力を続けています。
ところが不幸なことに最近長崎で肺癌の胸腔鏡手術で死亡事例が発生しました。亡くなられた患者様、ご遺族には心より哀悼の意を表します。報道によると第三者を交えた事故調査委員会が立ち上がり、担当医は警察の事情聴取を受けたということです。第三者をいれた事故調査委員会設置はわかりますが、警察には事情聴取の必要があったのでしょうか。すでに平成18年に日本外科学会では福島県立大野病院事件の死亡事故について「医療現場が医療知識のない警察権力の介入によって擾乱され、国民のための真の医療から自己防御のための医療へと医療が荒廃してしまう」おそれがあると声明を出しています。相前後して日本中の県、市、町の医師会、産婦人科医の医師会から警察の介入に対する非難の声明が出されています。素人の警察の介入は医療現場を混乱させるだけで医療事故のために浮かび上がった問題の解決にはなりません。またわれわれ外科医の多くは種々の学術集会のたびに「医療安全講習会」を聴講し、専門医認定に少なからぬ時間を割いてその資格をえており、国民及び諸学会が外科医に求める医療技術、医療安全の向上に積極的に取り組んでいます。もし長崎の外科医がこれらの努力もせずに資格も得ていなければ論外ですが、これらの研鑽をつんでいた場合、「第三者を交えた事故調査会」がそれをどのように評価してくれるのかに重大な関心を払わざるを得ません。
今回の地方会には「医療安全講習会」はありませんが、安全な医療を実践している経験が多数報告されるはずです。さらに各会場では他施設の新しい診療技術の発表を見聞することができます。多数の会員のご出席、活発なご討議をお願い申し上げます。