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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション 第2部:医療の最前線におけるデジタル画像の活用とその色処理

脳神経外科的立場から

伊関 洋
東京女子医科大学脳神経センター

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Panel Discussion Part 2 :
Digital Imaging and Its Color Management in the Medical Forefront

From the Standpoint of Neurosurgery

Hiroshi ISEKI
Department of Neurosurgery, Neurological Institute, Tokyo Women's Medical University

Summary
In neurosurgery, one of outstanding applications of advanced medical technologies is the minimally invasive surgery, which will bring great reduction in both patients' burdens and medical expenditure. The essential elements to realize it are (1) a substitution of human hands which can manipulate accurately the object tissue, (2) a substitution of human eyes to identify and observe the object of the operation, (3) visual information superimposed on the image of the object which navigates to assist a surgeon in the operation. Because endoscopic images give fundamental visual information of the system, they must have high fidelity in color (Fig. 1).
In microsurgery, stereoscopic video microscope systems equipped with a flat panel display and a video camera are substituting ordinary microscopes for microsurgery. With these systems, a surgeon can sit in a comfortable free position during the operation, all staffs engaged in the operation can share the same images as the operator watches, and all information required for the operator can be visualized on the same display for microscopic images. Besides, augmented virtual reality technology called HivisCAS can superimpose the 3-D maps made for navigation of the operation on real objects. In these systems, realistic color images are also required (Fig. 2).
Solutions of how to visualize the image acquired using invisible light, how to reproduce the feel of a material in a virtual space, and how to reproduce the same color using different illuminations and different monitors, should be pursued to meet the clinical requirements as shown here.

 はじめに
 手術支援や患者管理支援にコンピュータを利用する試みは,コンピュータの能力の向上とともにその役割は年々拡大している。コンピュータを最適に利用するコンピュータ外科(Computer Aided Surgery: CAS)が注目を浴び,さらに先端工学外科学へと脱皮しはじめている。医学はさまざまな先端技術を貪欲に取り込んで進歩してきた。手術や治療の現場で真に役に立つためには,適切な画像をいかに取得し,いかに活用するかが重要であり,手術治療に必要な医療情報の可視化が求められている。これを実現するためには,手術においては外科医の新しい目としての機能が必要となる。この新しい目は,外科医が手術対象物をしっかり確認し,観察するための「目」を提供すると同時に手術中に手術を誘導(ナビゲーション)するための情報を「目」の情報と統合して提供する必要がある。このため,術中に画像で適切に誘導するだけではなく,コンピュータ上に生成されるイメージ空間を介し,手術スタッフが双方向的(インタラクティブ)に医療情報を共有するバーチャルリァリティー(VR)技術も,今後一層重要な手法となる。また,手術以外の治療においても,医療情報の可視化による新しい目は医者だけでなくコメディカルスタッフにも治療内容をわかりやすく提供することができ,治療水準を向上させることになる。医療情報の可視化の過程において,デジタル画像の活用が当然となってくると同時にそれに付随する色彩が問題となってくる。とくに,低侵襲治療技術の発達とともに,術野を外科医は肉眼で見るではなくビデオ画像の色彩を見ながらの手術操作になってきた。ここで問題になるのは従来の肉眼で手術していた時代や現在も多数行なわれている顕微鏡手術での接眼鏡を通した術野の色彩とビデオ画像の色彩との整合性である。従来の手術で蓄積された色情報から判断されている術中の状態と,ビデオ画像の色情報から判断される術野の状態が同一でなければならない。

 1.医療情報の可視化とインテリジェントデバイス
 現在,手術工学と先端工学外科学の主要な対象分野になっているのは低侵襲外科である。高品質医療の1つである低侵襲手術(minimally invasive surgery)は,開腹や大きな開頭が不要なため,患者の肉体的・精神的負担の軽減のみならず,入院期間の短縮など医療費削減効果も高く,高齢化社会における望ましい外科治療として高い評価を受けている。
 低侵襲手術支援システムは,外科医に新しい目と手(advanced vision and hands for surgery)を提供する必要がある。すなわち
 (1)対象組織を的確に手術する「手」を提供する。
 (2)外科医が手術対象物をしっかり確認し・観察するための「目」を提供する。
 (3)手術中に手術を誘導(ナビゲーション)するための情報を「目」の情報と統合して提供する。狭い術野での微細な手術操作を可能にする外科医の「新しい手」は必ずしも人間の手の形態や動きや模倣しなくてもよい。むしろ,従来使用しているハサミやメスなどの器具に加えるべき,高機能で使いやすい手術デバイスとしてのマニピュレータシステムが求められている。このようなデバイスを思いとおりに操るには「新しい目」が必要である。これは術野を観察するための内視鏡等の装置のみならず,さまざまな医用画像装置で得た情報を総合して手術計画を作り,その手術計画を術中にわかりやすく提示し,あるいは遠隔地にいる専門家の助言を受けるなどの機能を含む,リアルタイム総合情報システムである。とくに新しい目の基盤である内視鏡のビデオ映像は,肉眼に迫る色彩が求められる。ビデオ映像により,外科医の新しい手は誘導されるのである( 図1)。

図1 内視鏡ナビゲーションシステム
Figure 1An endoscopic navigation system


 2.オーグメンテッドリァリティによるビデオ顕微鏡システム HivisCAS(High definition visual Computer Aided Surgery System)
 手術用顕微鏡を使って行なうマイクロサージェリにおいて,術者は視野と手の動きとを自明に対応づけて操作している。そこで,手術顕微鏡の接眼部を取り払い,代わりに顕微鏡像をテレビカメラで撮影して三次元立体液晶モニタに表示する「三次元立体テレビ顕微鏡」が考えられる。モニタを見ながら手術をすることは(多少の訓練が必要だが)十分に可能である。現在,6インチのハイビジョンモニタシステムでの臨床試用段階に到達した。
 顕微鏡の光軸と術者の視軸が分離できるので,術者は患者の体位による制約を受けず,最良の姿勢を保持して手術ができる。テレビ顕微鏡の映像は一種の仮想空間として利用できる。すなわち手術に必要なさまざまの画像情報を適宜画面の中に付加して表示でき,これを参照するのに術野映像から目を離す必要がない。さらにモニタを多数配置すれば,術者が見ているのと同じ映像を手術スタッフ(手術助手・看護婦・麻酔医など)全員が共有することができる。現在進行している手術操作の内容をスタッフ全員が理解する事は,術者を適切に支援するのに最も必要な事である。本システムは,すべての医療情報を可視化して術者にハイビジョン液晶モニター上に凝縮して提示できる(図2)。術者は,手術中にもさまざまな情報,たとえば赤外線や紫外線で撮影した術野の映像,手術中の超音波断層像やCT画像などを手術操作に応じて,自分の目で参照できる。これは,術野の変化を把握するために最低限必要なことである。オーグメンテド・リアリティーでは,ちょうど映画「ロボコップ」の目のように,実空間の映像に仮想空間の地図情報を重ね合わせて表示する。これこそが外科医が地図の提供するナビゲーション情報を自明に理解するための必須条件であり,その結果,手術中に「今操作している位置が本当に計画したとおりの箇所であるかどうか」「シミュレーションの経過とおりに手術が進んでいるかどうか」を容易に検証できるのである。従来の手術顕微鏡が,精細な光学的映像として術野を術者に提供するデバイスでしかなかった。HivisCASは,そのデバイスを超えたインテリジェント情報システムなのである。これらを実現するためにも,よりリァリティに富んだ色画像が求められる。

図2 HivisCASシステム
Figure 2HivisCAS sytem


 おわりに
 医療情報の可視化をキーワードに,マルチメディア(とくにオーグメンテッドリァリティ)を利用した医療情報のリテラシーが問われている。脳神経外科領域では,可視光画像だけではなく,非可視光画像も利用した手術支援システムが展開されている。本システムを構築する時には,現在のNTSCレベルのビデオ画像では十分でなく,NTSCの約6倍の情報量を持っているHDTV画像が求められている。ここで追求されているのは,質感とくに血液の赤い色である。手術中の血液の色は,色々な情報を術者に伝えてくれる。たとえば,出血しているのは静脈血なのか動脈血なのか。血中の酸素飽和度はどれくらいなのか。肉眼と異なりビデオを介した色映像を利用する低侵襲手術では,きわめて重要な事となる。使用するデバイスも小さくなるため,従来の触覚などを的確にフィードバックできるとは限らない。その時に,音とか色などでの代行感覚表示をする必要もある。このような時に提示する色彩など,今後臨床応用しながら解明していく必要もある。内視鏡の光源に使うキセノンやハロゲンなどによっても,同一の術野でも違う色温度や色彩として表示される。これを統合処理して誰が見ても,どんな光源を使っても同じように表示されねばならない。医療における色処理は,今後ますます重要な位置を占めていくことになると思われ,臨床と密接に結びついた形で,発展する事が望まれる。

 文 献
【1】伊関 洋,南部恭二郎,佐久間一郎,土肥健純,安達滝介,高倉公朋:コンピュータ外科とレーザー,日本レーザー医学会誌,vol. 18(3):43-48, 1997
【2】伊関 洋,増谷佳孝,岩原 誠,平 孝臣,川畠弘子,谷川達也,河村弘庸,土肥健純,高倉公朋:三次元画像ナビゲーション用 Volumegraphscope の開発,機能的脳神経外科,35:76-81, 1996
【3】伊関 洋,南部恭二郎,高倉公朋,土肥健純:バーチャルリァリティーの医療応用。第36回日本 ME 学会大会,p. 161, 1997
【4】伊関 洋,南部恭二郎,望月 亮,菅 和俊,土肥健純,高倉公朋:医療ー手術支援(先端工学外科学)。バイオメカニズム学会誌,vol. 21(1): 32-35, 1997
【5】伊関 洋,高倉公朋,土肥健純,南部恭二郎:医療における仮想現実と仮想病院,透析医療とコンピュータ,クリニカルエンジニアリング別冊,pp. 253-257, 1997
【6】H. Iseki, K. Takakura, T. Tanikawa, T. Taira, K. Nambu, T. Dohi, R. Mochizuki, S. Kobayashi, K. Kan: Three-dimensional video-microscope system in neurosurgery. Proceeding of 11th International Congress of Neurological Surgery. Amsterdam, The Netherlands, July 6-11, pp. 701-705, 1997
【7】伊関 洋,南部恭二郎:低侵襲内視鏡手術の支援画像技術,医学のあゆみ.vol. 186(5): 331-334, 1998
【8】H. Iseki, K. Nambu, K. Takakura T. Dohi, R. Mochizuki: Strategy system and virtual reality in neurosurgery. International Symposium on Computational Medicine(ISCM '98), Proceedings: pp. 15-18, 1998
【9】伊関 洋,南部恭二郎,土肥健純,堀 智勝,高倉公朋:2.医療バーチャルリァリティと三次元画像ナビゲーション,マルチメディアと外科学の展開 各論 II. コンピュータ支援手術,外科,61(3): 252-256, 1999