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第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム

パネルディスカッション 第2部:医療の最前線におけるデジタル画像の活用とその色処理

皮膚科領域から

沼原 利彦
香川医科大学皮膚科学

The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

Panel Discussion Part 2 :
Digital Imaging and Its Color Management in the Medical Forefront

From the Standpoint of Dermatology

Toshihiko NUMAHARA
Department of Dermatology, Kagawa Medical University

Summary
Skin color is produced by a combination of complex mechanisms (Fig. 1, Fig. 2, Fig. 3, Fig. 4, Fig. 5) and utilized as vital information in dermatology to interpret the characteristics of a lesion and the depth in skin at which the lesion exists (Fig. 6, Fig. 7). But the quality of skin color reproduced by current digital imaging systems does not meet the requirement for these purposes (Fig. 8), especially standardization of color reproduction of digital images is eagerly awaited.

 皮膚科の診断には,皮疹(皮膚病変)の色,形,分布の詳細な観察が最も重要であるのはいうまでもない。皮疹の「色」の情報はとくに重要であるが,正しい色の観察には正しい照明が必須であり,照明には均等な間接光線が要求され,北向きの窓を有する診察室が古くから好まれている【1】。皮膚科医にとって,質の高い臨床写真記録も欠かせないものであり。香川医科大学皮膚科学教室では,1983年10月附属病院開院から1999年3月までに83,640枚の臨床写真(いわゆる35mm カラースライド)を撮影保管している。
 皮疹の微妙な「色」を表現するための記述は詳細であり,「褐色,灰褐色,黒褐色,灰紫色,白色,紫色,紅色,帯紫紅色,橙紅色,紅橙色,黄色,青色,青黒色,黒色…」をはじめ,「スレート色,サーモンピンク,ポートワイン,ヘリオトロープ,カフェ・オ・レ,黒真珠」など,皮疹の色のイメージを伝えるために工夫された特有の表現も多い。また,「鮮やかな,くすんだ,淡い,濃い,明るい,暗い」等の色に対する修飾語を添えるのも一般的である。
 では,皮膚疾患の時に観察される病的な色の変化はどのような仕組みで起こっているのだろうか。
 まず,皮膚の模式図を考えてみよう(図1)。皮下組織を除いた皮膚の厚さは1.5〜4mm,性別,年齢,部位によって差がみられる【2】.表皮最上層が角層(0.02mm,手掌足底では0.5mm)である。表皮において,表皮基底層10個に1個の割合でメラノサイトが介在し,表皮ケラチノサイトにメラニンを供給し【2】,このメラニンは皮膚の紫外線防御に大きな役割をはたしている。真皮では,表皮下の乳頭層は毛細血管と知覚神経末端に富み,乳頭下層では脈管と神経系に富み,真皮の大部分を占める網状層は線維成分に富んでいる【2】。

図1 皮膚の模式図。皮膚の色に関係する2つの主要色素は,表皮のメラニンと,真皮浅層の血液(ヘモグロビン)である。
Figure 1A schema of a cross section of human skin. Chief coloring matters which related to skin color are melanin pigment in the epidermis and blood hemoglobin in the superficial layer of dermis.


 次に,皮膚の色のなりたちについて,滝脇の文献【3〜6】を参考にまとめてみよう。おおまかにいえば,表皮のメラニンと表在血管のヘモグロビンで吸収された残りの光が,白い真皮で散乱(乱反射)されて“肌色”に見える(図2)のである。表皮メラニン量が増せば褐色調が強くなり,皮膚の炎症のために血管が拡張し血流が増えれば赤色調が強くなる(図3)。メラニンやヘモグロビン以外にも,血漿中のビリルビンやカロチンなどの吸光色素も皮膚色に影響を与える。角層や真皮層の光学的変化も皮膚色に影響してくる。角層が厚くなったり乾燥してくると,角層での乱反射率が増し不透明感が増す(図4)。

図2 簡単な皮膚の光学モデル。皮膚に射し込んだ光は白色の真皮で散乱(乱反射)されるが,途中,メラニン層とヘモグロビン層で吸収された残りの光が目まで届く(文献【6】を参考に角層を加えたもの)。
Figure 2A simple model of optic characteristics of human skin. Illuminated light which comes into skin is scattered in dermis, and a part of it is absorbed while passing through the melanin layer and the hemoglobin layer, then the rest comes into observer's eyes. [modification of Takiwaki's work]


図3 表皮メラニン量およびヘモグロビン量の増減(通常の量を1とした倍率をしめす)による皮膚の色調のシミュレーション結果。背景の色が標準皮膚色(滝脇の皮膚色シミュレーター【5】による)。
Figure 3Simulated skin colors corresponding to various amounts of melanin (upper row) and hemoglobin (lower row) contained in skin which are indicated by their ratios to the normal amount of each element. Background color represents the normal standard. [produced by Takiwaki's simulator]


図4 角層乱反射率の変化(通常を1とした倍率をしめす)による皮膚の色調のシミュレーション結果。背景の色が標準皮膚色(滝脇の皮膚色シミュレーター【5】による)。
Figure 4Simulated skin colors corresponding to various scatterings of light at the keratin layer which are indicated by their ratios to the normal ones. Background color represents the normal standard. [produced by Takiwaki's simulator]


 真皮は牛乳寒天のようなものにたとえられ,一定の厚みがあって初めて白色とみえる。真皮に,萎縮,変性,浮腫といった病的変化が生じると皮膚色に影響する。また,真皮では波長の長い(赤い)光ほど透過ごしやすく,短い(青い)光ほど散乱されやすい性質がある。真皮中に吸光色素が無視できない量で存在すると,真皮の浅いところで散乱される短波長光はわれわれの目に戻ってくる率が高いが,長波調光は透過ごして色素に吸収され戻ってくる率が低くなる。このため,皮膚の浅い部分にある毛細血管拡張や苺状血管腫は鮮やかな紅に見えるが,やや深い部にある静脈や血管腫は青っぽく見える。メラノサイト関連の母斑(あざ)でも,母斑細胞が真皮表皮境界部に存在する境界母斑では褐色調に見えるが,真皮にある青色母斑はその名のごとく青色調に見え,真皮メラノサイトによる太田母斑や蒙古斑も臨床的に青みを帯びて見える(図5)。

図5 真皮メラニンが存在する時(通常表皮に存在する4倍および20倍の量),その深さによる皮膚の色調のシミュレーション結果。背景の色が標準皮膚色(滝脇の皮膚色シミュレーター【5】による)。
Figure 5Simulated skin colors corresponding to various depths in dermis indicated by millimeters, at which melanin pigment exists 4 times (upper row) or 20 times (lower row) as much as that for normal skin. Background color represents the normal standard. [produced by Takiwaki's simulator]


 皮膚科専門医は,マクロの病理(皮疹)とミクロの病理(組織像)の関係を常に対比して考え,皮疹の性状や微妙な色の変化から,「病変部の変化の主体は何であり,その程度はどの位か,病変の深さ(角層,表皮,真皮,皮下組織)はどこか等」を読みとることができるようにトレーニングされている。皮疹から重症度や治療効果を判定し(図6),病気の性質や病変の深さを推理できるようになる(図7)。

図6 顔面の湿疹の経過。Aでみられる赤味(炎症)がBでは大幅に減少している。
Figure 6Pictures showing healing course of eczema. Red skin (inflammation) seen in A is remarkably reduced in B.


図7 前額部黒色腫の臨床写真。褐色調の部分は病変が浅く,黒色〜青色の部分は病変が深い。中央右下よりの紅色肉芽様の部分は結節隆起している。
Figure 7A case of melanoma at a forehead. Superficial melanoma tissue in skin produces brownish colors and deep melanoma tissue in skin produces black or dark blue colors. Tumor seen at a little lower right to the center of the picture forms an elevated mass.


 このようなことから,皮膚科専門医が求める臨床写真の質はきわめて高いものにならざるを得ない。自然な色を忠実に再現した画像でなければ,重要な皮膚病の診断や,疾患の急性期,慢性期,回復期の判定は困難で,微妙な色合いのズレが誤った判断を招きかねない。パソコンとその周辺技術の目覚ましい進歩により,卓上のパソコンでも高精細のカラー・デジタル画像を扱うことが可能になり,皮膚科領域でも活用されるようになってきた。しかし,システムによって表現される色が異なる場合があり(図8),当惑することも多い。デジタル画像による皮膚病アトラスを扱う出版社も,この点には気を使っている。私もテスターとして製作の一部を御手伝いさせていただいた“CD-ROM皮膚病診断カラーアトラス”をはじめ【7】,CD-ROMによる皮膚病シリーズを開発している株式会社南江堂ニューメディア室 横井 信氏の言葉を借りて本稿を終えたい。

図8 同じ臨床写真を異なる3つのシステムで出力したもの。Aが最も自然な色に近い。これだけ差があると,病気や重症度の診断が大きく左右される。
Figure 8Pictures produced by three different systems. Picture A seems to be the closest to the actual object. The difference in color shown here may affect the diagnosis of illness or the interpretation of seriousness.


 『私どもではその辺をマニュアルで,メーカー,機種による色表現の違いがあるので,ユーザーの方に適宜モニターでの調整をしていただくよう書いています。……MACとDOS/Vでも異なるので,皮膚病診断カラーアトラスのように,MAC版とWIN版に分けざるを得ないこともありました。……いずれにしても,色表現が統一できるソフトウェアなり,アクセラレータの標準化などがまたれます』。
 然り,正にそうである。

 謝 辞
 貴重な文献とシミュレーションソフトを提供していただいた徳島大学医学部皮膚科学教室 滝脇弘嗣先生に深謝します。

 文 献
【1】山村雄一ほか編:現代皮膚科学大系,第1巻 皮膚科学概論主要症候と診断,中山書店,1985.
【2】上野賢一:MINOR TEXTBOOK 皮膚科学,改訂第6版,金芳堂,1996.
【3】滝脇弘嗣,神野義行:皮膚の色をはかる,MB Derma, 全日本病院出版会,15:1-6, 1998.
【4】Takiwaki H. : Measurement of skin color: practical application and theoretical considerations, The Journal of Medical Investigation, 44: 121-126, 1998.
【5】滝脇弘嗣:パーソナルコンピューターを用いた皮膚色シミュレーターの開発と皮膚病変解析への応用,臨床皮膚科 51:593-596, 1997.
【6】滝脇弘嗣:皮膚の色,皮膚科診療プラクティス5.スキンケアの実際,文光堂,124-125, 1999.
【7】西山茂夫,井上勝平,植木宏明監修:CD-ROM 皮膚病診断カラーアトラス for Macintosh,南江堂,1996.