平成10年9月29日                     通算第298回定例会

教育講演
 「脳の構造と機能」
                    東京大学医学部神経内科 櫻井正樹先生
1.神経系とは
 1)末梢神経(1)体性神経(運動神経、感覚神経)
        (2)自律神経
 2)中枢神経?脳、脊髄

2.脳の発生
 脊椎動物の中枢神経の基本デザイン
胚の正中背側部に位置する神経管(外胚葉の正中背側領域の細胞が肥厚して神経板と 
なり左右の縁が合して管状となったもの)から発生したもの。
      ↓
 神経管は脊髄では中心管となり、脳では脳室となる。

3.中枢神経系の概観
 脳:1)前脳(1)大脳(a)大脳皮質‥新皮質、旧皮質、古皮質
              線状体(b)新線状体(被殻、尾状体)、淡蒼球、扁桃体
       (2)間脳(視床、視床下部)
   2)中脳
   3)後脳:菱脳、橋、
       小脳
       髄脳、延髄
 脊髄

 機能的な脳の概念
 大脳基底核:被殻、尾状核、淡蒼球、視床下核(間脳)、黒質(中脳)
       運動の制御?この部分のダメージがパーキンソン病の原因となる。
 大脳辺縁系:海馬、扁桃体、帯状回など

4.中枢神経細胞の構成
 細胞構成
 1)ニューロン
  神経細胞体(核、タンパク合成)→軸索→神経終末(他のニューロンの神経細胞の
    ↓                       樹状突起とシナプスを作り接続)
  樹状突起
  スパインと呼ばれる棘を出し、他のニューロンの神経終末部と信号伝達を行う。
 2)グリア
 2)星状膠細胞(astroglia, astrocyte)神経細胞の支持、栄養補給、脳血液関門への関与
 3)乏突起細胞(oligodendroglia)髄鞘を作る
 4)ミログリア(miroglia)他のグリアとは異なる、組織球に相同(掃除役)

5.神経細胞の電気活動
 ニューロン内での興奮の伝達(conduction):電気的伝達(細胞体→軸索への伝導)
ニューロン間の伝達(transmission):神経伝達物質による化学的伝達(シナプスでの伝達)

 興奮性細胞:内側陰性、外側陽性に荷電している。
興奮性細胞興奮→ナトリムチャンネル脱分極→細胞外のナトリムが細胞内に入り、内
側が陽性に荷電→ナトリウムチャンネルが近隣のナトリウムチャンネルを開いて活動
電位が発生する。
活動電位を発生した細胞は、ナトリウムチャンネルがイナプチベイトされ、カリウム
チャンネルが再分極する事により、興奮直後は再び興奮しなくなる。
活動電位が、神経終末に伝わりシナプスに達すると、シナプス近傍のカルシウムチャ
ンネルの脱分極を起こす。この脱分極が起こると、シナプス内にカルシウムが入り、
伝達物質をシナプス後受容体に向けて放出して化学的な伝達を行う。
 
シナプスに伝達された興奮電位は、あるいき値を超えた場合のみ細胞体から軸索へ向
けて発生する。
 
 興奮シナプス後電位(EPSP):あるいき値を超えた場合に発生する活動電位
 抑制シナプス後電位(IPSP):興奮を抑制させる。EPSPと逆の電位

 神経系では情報をパルス密度に変換して伝達している。

6.神経伝達物質
 1)アセチルコリン、アミノ酸(グルタミン酸、GABA)
 2)モノアミン(ドーパミン、セレトニン、ノルアドレナリン)
 3)ペプチド(サブスタンスP、エンケファリン、VIP etc)
 
 ドーパミン:パーキンソン病、精神分裂病等に関与している。

7.伝達物質受容体
 1)イオノトロピック受容体:早い伝達?ナトリウム、カルシウムによる電位変化
  (ionotrpic)        数10?100msecの早いスピードの伝達を行う。
 2)メタボトロピック受容体:遅い伝達(1)イオンチャンネルを介さず、Gタンパクなど  
  (metabotropic)              のホルモン受容体を介した伝達

8.シナプス伝達の可塑性
  機能的変化:刺激を繰り返し与えると情報の伝達効率が向上する。
        単調な刺激を与えると抑圧が起こる。
  構造的変化:発芽現象
     シナプスの形態変化?シナプスの数を増す事により伝達効率の向上を高める。 

9.中枢神経系の機能の一般原則
  階層性
  並列分散処理系
  可塑性を持つ

10.大脳の機能地図
 大脳機能は分業化されている。Uモ各領野に機能が分けられている。
 大脳深皮質は6層の構造を持ち、各領野において層構造が異なる。
深皮質は様々に分化しているが、マスタープランは1つであると考えられ、1つのマス タープランが解明されれば、全体の解明が容易になる。(情報処理の様式)
その研究が進んでいる領域が、後頭葉の視覚野である。

11.視覚
 大脳皮質の中でも視覚皮質及びその関連領野は最も理解が進んだ部位である。

視覚野に入る前の網膜細胞は、視細胞UモバイポラセルUモエピネラガングリオセル(出 
力細胞)の順 
 の層を経て情報処理を行なっている。
 ↓
 視床の外側膝状体(6層からなり、左右各3層で神経繊維を受ける) 
 ↓
 後頭葉の視覚野
 ↓
 視覚野Uモ側頭葉(形) ventral strem
    Uモ頭頂葉(位置、運動) dorsal strem
 側頭葉、頭頂葉にて高度な情報処理が行われる。 (並列分散処理)
 ↓
並列的に処理された情報が、最終的に脳のどの部分で統合され、統一的な主観体験が生 じるかは解明されていない。

 視覚野における可塑性
 1)眼優位シフト
  長期間、片眼を閉じていると、そちら側の細胞の数が少なくなる。
 
 2)方位選択性シフト
  猫に縦縞だけを見せて育てると、縦縞に反応する細胞はあるが、その他の方位につ
  いての細胞が無くなってしまう。

12.学習以外の可塑性
 1)発達期の可塑性
  盲人の点字の読み方
   @先天性、あるいは12歳位までに盲人なった場合
     ↓
    使われないはずの視覚皮質で点字を読む。
   A成人になってからの盲人
     ↓
    体性感覚皮質で点字を読む。

 2)末梢感覚神経損傷時の体性感覚皮質の部位再現の変化
   末梢で感覚神経が切断されても、別の部分の神経がカバーするようになる。
 3)末梢運動神経のつなぎを変えても徐々に、つなぎ変えた筋肉を動かせる様になる。
   
 13.大脳の側性化(lateraization)
 高次機能を担う連合野に行くほど側性化が強まる。
 1)言語 
  利き手、利き脳?右利きの圧倒的多数は左脳が言語野
          左利きの1/4は、右大脳半球に言語野がある。
 2)脳梁離断患者とタキストスコープ実験
  脳梁離断(左右の大脳の交通遮断)患者で、左脳に言語野がある場合に、左眼のみ 
  に物体を見せる(情報は右脳に入力される)
  脳梁が離断されているため、その情報は言語野のある左脳に送られないために、言
  葉では表現できない(左脳では物体を見ていないと認識してしまう)しかし左手で
  その物体を触ることによって認識できる(右脳の感覚皮質に右眼で見た物体の情報
  が伝わっているため)

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