平成10年6月30日 通算第296回定例会
教育講演「半導体検出器について、その特性と可能性」
国際医療福祉大学 牧 野 元 治 先生
1950年代にトランジスタが使用されるまで、装置には真空管が使われていた。トランジスタが三人の物理学者により発見されたのは1945年であるが、実際に製品化され、使用されたのは1950年代である。トランジスタが使用されるまでの電子管関係の装置は真空管でできており、熱の発生が大きく常にエアコンを使用し冷却していた。また時々故障を起こした。トランジスタの実用により装置がトランジスタ化された。同時にダイオード自身が検出器として使用できることがわかり、初期の頃には普通のトランジスタを使用し、バイアスのかけかたによって、Poのα線を照射すると時々反応があり、信号を検出できた。
当時、小さな研究所が多くでき、検出器が出始めた。特にエネルギーが高くなると厚さが必要であるが、初めの頃は薄いためγ線に対して効率が悪く、主に荷電粒子、プロトンやHeなど、原子核の実験に使用された。γ線と違いストッピングパワーであるため、比較的薄いものでも止めることができ、大きなエネルギーが得られる。γ線の反応のプロセクションは使われる物質の原子番号の4〜5乗に比例し、γ線エネルギーの3.5自乗ぐらいである。エネルギーが高くなると必要な厚さが増し、原子番号の高い物質はγ線に対して効率が良い。Siの原子番号は14、Geの原子番号は32であり、同じ厚さにおいてはかなりのエネルギーを止めることができる。γ線に対してはできるだけ実効原子番号の高いものを使用する。
当時は単体のSi結晶体、Geであったが、Geはバンドギャップが非常に小さく常温では使用できなかった。Siの場合はある程度高いため常温で使用できる。Geは液体窒素で冷却しながらの使用であり、エネルギー分解能は良いが非常に使用しづらいものである。それに代わるものとしてコンパンド(いわゆる化合物体)が出てきた。一般のSiが出てきたのが1960年代であるが、ここに出てくるGaAsは現在、ICなどに使われているが、検出器に使用するにはいろいろと問題がある。
比較的検出器になるであろう物体には、Si、Ge、ダイヤモンド、GaAs、Gaフォスファイト、Cdサンファイト、CdTeがある。前三物質は単体で、後半は化合物である。半導体の性質を決めるのはバンドギャップであり、その幅が小さければ簡単にエネルギーが止められるが、Geは常温では使用できず電流がものすごく流れてしまう。Siはやや大きいので比較的に常温で使用できる。もうひとつとしては、半導体をいわゆる電離箱と考え、放射線を入射することにより電子と正孔(+)ができる。通常このペアができるエネルギーは電離箱で30eV位であるが、Siなどは2〜3eVである。一つのペアは、電離箱と比べて1/10程度のエネルギーでできるので、エネルギー解像力が良い。Geの場合は、バンドギャップが小さすぎるため、液体窒素で冷却しながらの使用となる。さらに注意すべきこととして電離箱も同様であるが、電子は非常にスピードが早いが、+の方は遅いことである。
1960〜70年代にGEの研究所が高品質のGe単結晶を作るようになった。従来使用していた化合物やSiは常温で保管できず、Geの場合は液体窒素で冷却、Siの場合は冷蔵庫での保管が必要であったが、高品質Geは使用時だけ液体窒素で冷却すれば良く、常温で保管しても性質は変化しないものである。現在も使用されているものには、Si、高品質Ge、CdTe、HgI2、CdZnTe、GaAs、PbI2があり、CdTeとCdZnTeは新しく、CdTeは20年程前から発売されており、当時一個50万円程の値段であった。CdTeは実効原子番号が50であるため、薄くても相当のエネルギーを止めることができる。CdTeの問題を解決したのがCdZnTeである。HgI2はかなり成功した検出器であるが、軟らかく酸化しやすいため空気との接触を避け、他の物質で覆う必要がある。しかし、実効原子番号は一番高く、バンドギャップも大きいため、常温での使用が可能である。ダイヤモンドのエネルギーギャップは非常に大きく、結晶もきれいであるため非常に良い検出器である。
CdTeの製品は大きくできず、また厚くできないため良い製品ができない。CdZnTeは1993年にロシアの研究所で偶然に発見された。CdZnTeはCdTeにZnを10ないし20%加えたもので、本質的にはCdTeと同じである。CdTeの欠点としては 1,小さい素子しか作れない 2,リーケージ電流が大きい 3,ポーラリゼーション(偏極)効果がある(これは使用中、時間の変化につれて、ピークの位置が移動してしまう) 4,バンドギャップが高くない 5,比較的高価 がある。CdZnTeはCdTeの欠点を補ったものである。
CdZnTeはエネルギー分解能は良いが、テール部(低エネルギー部)の分解があまり良くない。これは、電子の移動速度は速いが、正孔の速度が遅いためである。また、比抵抗が非常に高い。これらを解決するためには、シェイピングタイムを非常に速くする必要がある。一つの方法としては、速度の遅い正孔を捕えるグリッドを途中に入れれば良い。しかし、半導体であるため難しい。そこで現在三つの方法が考えられ、実用化されているのは二つである。
1,一対の半導体のうち、一つの半導体の+側の中心部分に少し穴をつくり、電圧を変えることにより正孔のグリッドとする。
2,半導体の両側にスリットを入れ(パラレルフリッシュ)、グリッド電圧を変える。
γ線スペクトルは、正孔の移動速度が遅いと662keV(137Cs)のピーク以外に低エネルギー側に2つの大きなピークが見られる。しかし、CdTeに10%のZnを入れ、印加電圧を1000Vにすると、その2つのピークから小さなピークが出現した。
半導体検出器を利用する場合の問題として、小さなユニット(例えば、2mm×2mm)であればきれいなスペクトルが得られる。しかし、大きな面積の検出器を作ろうとすると膨大な量の半導体とそのユニット(プレアンプ、アンプ、ディスクリメータ等)が必要になる。非常に高価で、場所も必要である。また、非常に多くの信号をプログラム上でいかに取り出すかが問題であった。現在では、商品化されているものもある。また、アメリカ商務省はGEと組み、一つのモザイクに20ないし40程度の半導体を入れ、信号取出にはIC化したプレアンプ、アンプ、ディスクリメータを検出部の後ろに張り付けるようにしている。アメリカでは環境測定や核拡散防止に関する面から小型で使用しやすい半導体検出器の開発が行われている。
従来のアンガー型カメラから、将来は半導体に変わると思われる。また、CTの検出器にはCdも使われているが、非常に高速なCTにCdTeを使用している装置もある。半導体検出器を500程度使用し、一秒間に2000スライスを得られる装置である(通常のCTで6〜7枚/秒、イマトロンで50msec/枚)。このCT装置は、原子炉の冷却水中の気泡を調べるために作られたものである。解像力をあげるためには、管球を増やす、CdTeの大きさを小さくし、検出器リングの数を増やすことが必要である。しかし、CdTeを使用するよりもCGKを使用した方が安価で、解像力も良い。また、X線CTのみならず、検出器リングを使用し、SPECTのようなリング型装置も可能である。このCT装置からは、100枚/秒で犬の心臓の画像を得ている。心臓の動きは良くわかるが、画質は非常に悪い。
半導体検出器がアンガー型カメラに取って代わるには、ユニット部のIC化や検出器個々のバラツキの克服(均一性の確保)、メンテナンス時に多数の検出器を調整することなどの問題がある。
(文責:目崎 高志)
もどる
Indexへ戻る