通算第276回 定例会記録

ADAC社製VERTEXの特長と原理
住友金属工業株式会社 萱沼伸行氏
 ADAC VERTEX(エイダック バーテックス)は、米国ADAC社製の角形大視野2検出器フルデジタルガンマカメラで、従来の機能に更にオプションとして新しい機能(ポジトロン対応、吸収補正)を搭載することができる。

主な特長
1.角度可変型2検出器配置
 2つの検出器は90度L字型および180度対向型に設定できるため、180度対向型で脳や全身イメージを収集するだけでなく、90度L字型で心臓の180度SPECTを行うことにより、検出器を90度回転するだけで収集が完了する。そのため、検査時間が1/2に低減できる。(図1)

2.真のフルデジタル検出器
 従来の位置およびエネルギー計算はアナログ回路によって行っていたが、本検出器は各々の光電子増倍管(PMT)に各々独立したA/D変換器を搭載し、PMTの出力を直接A/D変換することにより、真のフルデジタル信号処理を行う(図2)。そのため、アナログ回路の経時的あるいは温度による変動が低減され、安定した性能が得られる。

3.独自の位置計算方式
 検出器の真のフルデジタル化により、ソフトウェア制御で独自の位置計算を行う(Non-Anger方式)。すなわち、γ線が入射した場所に最も近いPMTを中心に一部のPMTだけを取り出し(Clustering,図3)イベント毎に最適な重み係数を用いて位置計算する。そのため、従来の全部のPMTを使い、重み係数が固定だった方式に比べると、固有分解能の周辺での劣化が無く,UFOV値はCFOV値に等しくなる。

4.完全自動コリメータ交換
 ガントリーに取り付けられた操作パネル上で、「コリメータ交換」と「コリメータ選択」および「スタート」の3つのボタン操作だけで2個のコリメータを同時に自動交換する。そのため、従来のわずらわしいコリメータ交換作業を行う必要がない。

5.マスクの自動センタリング機能(ロビングマスク)
 マスクを設定し検出器90度L字型配置近接SPECT収集を行う場合、収集スタート前に収集ワークステーションのパーシステンスコープモードで対象領域に対する各検出器マスクの中心をカーソル入力するだけで、各収集ステップ毎に対象領域がマスクから外れないように、マスクの位置が自動調整される(図4)。そのため、収集スタート前に被検者に対する検出器の位置決めの確認動作(テストラン)を行う必要がない。

6.高速ディスプレイパイプラインシステム
 専用のデータ収集プロセッサを内蔵し、データ処理装置はデータ収集と並行して処理および解析ができる。また、独自に開発した64ビット高速ディスプレイパイプラインシステムによる高速画像表示と、24ビットフルカラーによる高画質な画像表示ができる。

7.デュアルリング型ガントリー
 デュアルリング型フレーム構造のガントリーであるため、機械精度が高い。またオープンスペースが広いため、被検者への圧迫感が低減される。

8.独自のソフトウェア
 通常のアプリケーションソフトウェア以外にも特長のあるソフトウェアが用意されている。主なものは次のとおりである。
(1)Quantitative Gated SPECT
 ゲートSPECTデータの3次元画像解析プログラム。心筋心電図同期SPECTにおけるED、ES、EF等を算出する。
(2)AutoSPECTTM
 心筋SPECTにおける自動画像再構成、自動任意断面変換が可能。Raw データからShort axis、Vertical、Horizontalのstress、restの同時表示までを自動的に処理する。
(3)PROSPECTTM/INSPECTTM
 心筋SPECT検査における総合的な診断用プログラム。データベースの構築が可能。
(4)MacroVisionTM/ProVisionTM
 AVSソフトウェアを用いた簡易ユーザープログラミングツール。ユーザー独自の様々なプロトコルに応じた解析プログラムを作成する。
(5)DICOM3.0 COMMUNICATIONS
 DICOM3により、他のモダティとの接続が可能。

新しい機能

1.ポジトロン対応
 PETは、通常の核医学検査よりも、分解能が高く、定量性も極めて優れている。近年クリニカルPETということが提唱され、日常の臨床検査としても利用される方向に向かっている。特に、18FDGは悪性腫瘍の検出や治療効果の評価に対して臨床的有用性が高い。この18FDGを用いた腫瘍イメージングをガンマカメラで行う方法としては次の2つがある。
(1)511keV対応高エネルギーコリメータを用いる。
 被検者に18FDGを投与した後、専用の高エネルギーコリメータを用いて、従来と同様に被検者をスキャンする。検出器にはコリメータを取り付けるため、単一光子イメージが得られる。この方法での分解能は、15〜20mmである。
(2)同時計数回路を用いる。
 1995年6月に開催された米国核医学会においてADAC社によって初めて発表された方法で、2つの検出器を対向させて配置し、同時計数イメージングを行う(図5)。検出器にはコリメータを取り付けず、同時計数回路によってPETイメージが得られる。この方法での分解能は約5mmである。
 これらの方法による単一光子イメージングと同時計数イメージングの両方の機能を備え たハイブリッド型ガンマカメラは、従来の装置に比べて、高いコストパーフォーマンス を持つ。しかし、単一光子イメージングと同時計数イメージングを行う場合、両者間で 非常に異なる性能がいくつか要求される。それらの中、特に異なる性能を次に示す。
  単一光子    同時計数
計数率 <100kcps 500〜1000kcps
エネルギー範囲    70〜511keV     511keV
積分時間          長い           短い
計数タイミング      重要でない      10〜20ナノ秒
 これらの大きく異なる性能は、ソフトウェア制御によるデジタルエレクトロニクス技術により、単一システム上で実現された。すなわち、PMT毎にA/D変換器を搭載し、PMTの出力を直接A/D変換して、ソフトウェア制御による信号処理を行うことにより、2つの異なるモードを単一システム上で動作させることが可能になった。同時計数モードによるPETイメージは、PET専用機と比較すると原理的に画質が劣るのは明らかであるが、臨床的には良好なイメージが得られている。従って、装置の高いコストパーフォーマンスを考えると、PET用トレーサの供給体制が整えば、今後ハイブリッド型ガンマカメラが核医学検査の主流になっていくものと考えられる。

2.吸収補正
 被検体内の不均一吸収体分布によるγ線の減衰は、定量性を劣化させる大きな要因であることは昔から指摘されてきたことである。近年、外部線源を用いたトランスミッションデータ(γ線透過データ)による吸収補正法が開発された。トランスミッションデータを収集する方法はいろいろ提案されているが、散乱線の影響をいかに低減または補正するかが、吸収補正の精度を左右する。本システムは、独自の方法により、エミッションデータとトランスミッションデータを同時に収集し、データ収集中の散乱線の取り込みを最小限にすることができる。トランスミッションデータは、重畳積分逆投影法(Filtered Back Projection法)により再構成され、吸収係数分布を作成する。この吸収係数分布は、逐次最大尤度(Iterative Maximum Likelihood)再構成アルゴリズムに基づいて、体内のγ線吸収の補正に使われ、最終的なイメージを作り出す。
(1)原理
 本システムは、2本のスキャニングラインソース(密封線源)を装備し、それらは図6(a)に示すように、各々の検出器に対向し、検出器の回転軸に沿って(体軸に平行方向)スキャンする。各々のラインソースには、約7.4GBq(200mCi)の153Gd(γ線エネルギー:100keV,半減期:242日)が使用される。ラインソースからのγ線は、被検者への被曝とコンプトン散乱によるクロストークを最小限にするために、幅1mmのビームにコリメートされている。
 データ収集中、ラインソースは検出器の一端から他端へスキャンし、それと同時に、ラインソースのスキャンに同期して電気的に動くスライディングウィンドウが対向する検出器内に設けられる(図6(b),(c))。このスライディングウィンドウの幅は約5cmである。各々のスライディングウィンドウは、検出器ウィンドウを2種類のエネルギーウィンドウに分割する。一方は、ラインソースによるトランスミッションデータのために設定され、他方は、エミッションデータのために設定される。すなわち、スライディングウィンドウ内のエネルギーはトランスミッションソース用に設定(100keV)され、残りのウィンドウはエミッションソース用(99mTc,201Tl)にエネルギーが設定される。この様にしてデータを収集すれば、収集データを2つの別々なデータセット(スライディングウィンドウ内で収集されたトランスミッションデータとスライディングウィンドウ外で収集されたエミッションデータ)として保存できるため、エミッションデータとトランスミッションデータを同時収集することができる。すなわち、スライディングウィンドウ内ではエミッションデータは収集されず、その外側ではエミッションソースデータは収集されない。この様にして、エミッションソースとトランスミッションソース間のクロストークを最少限に抑えている。
(2)特長
(1)トランケーションエラー(Truncation Errors)の無いトランスミッションデータ
 再構成される対象の各投影イメージにおいて、一部が欠け、全体が見れないことをイメージデータのトランケーション(Truncation:端が切れること)と言い、トランケーションイメージは、再構成におけるエラーの原因になる。体内のすべての組織は、放射光子を減衰させるため、精度の高い再構成を行うためには各角度で被検者全体を投影する必要があり、特に補正の基となるトランスミッションイメージに対しては重要である。
(2)コンプトン散乱によるクロストークの最少化
 クロストークとは、トランスミッションソースによるエミッションイメージへの影響、または、エミッションソースによるトランスミッションイメージへの影響を言う。これは、エミッションデータとトランスミッションデータの同時収集によって生じる。本システムは、スキャニングラインソースとスライディングウィンドウを用いた独自の方法でクロストークを最少限に抑えている。
(3)収集時間と被検者の位置決め
 検出器を90度L字型配置にした180度収集(ガントリーは90度回転)で行うため、収集時間が短縮される。また、その時の被検者の位置決めも、寝台の上下左右動とロビングマスク(移動マスク)により、短時間で容易に行える。
(4)低い被検者の被曝
 ラインソースはシャッター機構を内蔵した密封線源で、トランスミッションデータを収集するときだけ、シャッターが開く。そのため、被検者の被曝量は低く、1検査当たり30〜50μSv(3〜5mrem)である。

 日本においては、吸収補正に使用する密封線源は、放射線障害防止法、薬事法及び医療法の規制対象となるが、医療法に関しては規定がない。従って、装置としては認可が得られるが、病院で実際に使用することはできない。しかし、現在、(社)日本アイソトープ協会が中心となって、厚生省及び各装置メーカーと規定について鋭意検討中であり、近い中に使用できるようになると考えられる。

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