新人セミナーPartI
1.放射性医薬品ができるまで

DRL 千葉工場製剤一部    小林 正明氏

最近、医薬品の品質保証という観点から薬事行政が厳しく、放射性医薬品も含めて一般医薬品についてGMP(Good Manufacturing Practices:医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)が厳しく言われている。1980(昭和55)年にGMPが施行されて、1993(平成5)年4月薬事法改正の際に、従来の遵守事項から許可要件化となり、GMPもWHO−GMP改正に合わせて改正され、平成6年に施行された。

放射性医薬品と一般医薬品との違いについて
 放射性医薬品は、薬事法第2章第1項に規制される医薬品で、原子力基本法第3条第5号の放射線を放出する物質である。
 現在の放射性医薬品のほとんどは診断用であり(一部、治療用ヨウ化ナトリウムカプセルがある)、比放射能が非常に高い製剤として使用されていて、物理量としては極微量であるため(μg〜ngの単位)、副作用は通常は無視できると言われている。
 法的規制が多い。薬事法は医薬品の品質を維持して有効性・安全性を確保する法律であり、製造に関するGMPが規制を受けている。放射線障害防止法は放射線の取扱いに関する法律で、空気中濃度や被曝関係の規制がある。電離放射線防止規則は労働基準監督署で規制するもので、作業員の被曝管理、安全管理に規制がある。
 放射線防護に留意する必要がある。最近は放射線被曝が少ない放射性物質が使用されているが、放射線防護に留意する必要がある。使用者側では通常鉛容器を使用しているが、最近はタングステンシールドを使用する傾向である。製造側では被曝低減のため、鉛遮蔽やマニピュレータ等の遠隔装置が使用されている。
 有効期限が短い。製造スケールが短く、繰り返し製造を行う必要がある。
最近は、99mTc(半減期6時間)製剤や123I(半減期13時間)製剤が増えており、製造後直ちに品質試験を行い、問題がなければ出荷するため、配送体制に工夫が必要な状況である。
 RI原料の定期的な生産、輸入が必要である。自家生産可能なものとして、サイクロトロンでは67Ga、201Tl、123I、111Inである。99Mo、131Iは原子炉でしか生産できないので現在はカナダから輸入している。

法的規制について
 薬事法(厚生省管轄):医薬品の品質を維持して有効性・安全性を確保するための規則があり、GMP(製造に関する規則)が該当する。
 放射線障害防止法(科学技術庁管轄):放射線被曝を防止するための構造・設備、放射性物質の取扱い方に関する規則。
 電離放射線防止規則(労働基準監督署管轄):労働者の放射線被曝や安全管理を目的とした規則。
 車両運搬規則:現在は自主基準であり、放射性物質の輸送に関する規則。法制化を検討中。 他に、建築基準法や消防法などが該当する。

GMPについて
 Good Manufacturing Practicesの省略で、医薬品の製造に関する基準である。ソフト面では医薬品の製造管理および品質管理規則、ハード面では薬局等構造設備規則で具体的な法律面が規制されている。
 GMPの目的としては以下の3つがあげられる。
(1)人為的な誤りを最小限にする:各部門毎に責任者を指定し、責任体制を明確にすることと、作業行程をダブルチェックして誤りを最小限にする。
(2)医薬品に対する汚染および品質低下を防止する:無菌操作が可能な設備、作業室の清掃衛生教育が該当する。
(3)高い品質を保証するシステムの設計:設備・機器の保守点検関係、生産行程のバリデート、品質試験の保証。

バリデーションについて
 GMP改正で新たに追加となり、本年4月に施行された科学的検証のためのシステム設計のこと。平成7年3月に示されたバリデーション基準では、目的として製造所の構造設備ならびに手順・工程その他の製造管理および品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書にすることによって、最終的には、目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造できるようにすること。実施対象としては、製造行程と製造を支援するシステムとして空調処理システムや水処理システムが該当し、洗浄等の作業として洗浄効果の確認等の洗浄バリデーションがある。
 バリデーションの種類として以下の5つのバリデーションがある。
(1)予測的バリデーション:例えば、研究開発部門で行った工業化研究に基づいて、生産部 門にて生産設備を使用して、その生産条件で問題がないかどうかの確認をするバリデー ション。
(2)変更時バリデーション:製造スケールや工程を変更することがあり、医薬品の品質に大 きな影響を与える変更があったときに行うバリデーション。
(3)定期的バリデーション、同時的バリデーション:日常の行程管理項目や定期的に設備等 の確認等を実施するためのバリデーション。
(4)回顧的バリデーション:無菌性の検証には該当しないという指導がある。製造記録や品 質試験のデータを蓄積し、その傾向分析を行って現在の製造方法が問題ないかどうかを 確認するバリデーション(いわゆる統計解析を行って確認するバリデーション)。

製造設備に関して(必ずしも、各法律で分けられない)
 薬事法:クリーンルーム室内(天井、壁、床)の材質は、室内の洗浄消毒が可能な材質にすること。空調管理関係として、温度、湿度、室間の差圧、ヘパフィルターを通した供給空気の確認(浮遊菌、付着菌、浮遊微粒子数等)。水質管理関係として、現在生産に使用している水のほとんどである蒸留水、RO水、常水が水質管理の対象であり、試験項目として、生菌数、エンドトキシン試験、液中微粒子、重金属関係の理化学試験がある。
 障害防止法:排気、排水関係。排気に関しては、メインはチャコールフィルターを通して空気中濃度を許容濃度以下にして排気するシステムである。排水関係は、DRLの場合RIを取扱う設備の排水はセミホット排水とホット排水の2種類あり、セミホット排水は管理区域内の一般的にRIの入らない排水であり、RIの汚染を確認する設備を有する。ホット排水(RIの入っている排水)は全て蒸発処理を行い、敷地外には出さないシステムである。RIの濃度管理は、作業室の空気中濃度をモニタリングして常に24時間管理するシステムが構造設備に入っている。

クリーンルームおよび非クリーンルームの環境管理基準について
 クリーンルームは3区分、非クリーンルームは一般作業室として1区分に分けている。クリーンルーム中の一番厳しい区分1は無菌操作箇所として、医薬品を非密封にして調製する区分である。ヘパフィルターを通したクリーンな空気を層流方式(>3m/s)で流している。区分2は無菌製剤作業室として、無菌操作箇所(設備のある場所)を指し、ヘパフィルターを通した空気を1時間15回以上換気している。区分3はそれ以外の準備室洗浄室、滅菌室等で、建屋の構造は同じであるため最大浮遊粒子数は区分2、3は同じであるが、浮遊菌と付着菌の管理基準は区分2の方が厳しい。ちなみに浮遊菌はWHO−GMP、付着菌はVSPの基準値を採用している。非クリーンルームは一般的な作業室として放射線障害防止法に基づく管理区域としての管理を行っている。

実際の構造設備について
 エアーシャワー:作業衣及び持ち込み物品表面の付着塵埃を除去する。
 作業室の副室:作業室と廊下の間に設けて、作業室と廊下の空気を遮断する。
 蒸留水製造装置:調剤の原水は全て購入品であり、製造水は器具、容器の洗浄のみに使用している。
 空調処理関係:差圧、温湿度、換気回数、ヘパフィルターの能力の確認等をそれぞれの期間を定めて行っている。
 生産設備関係:滅菌器関係では温度分布試験、熱浸透試験、バイオロジカルインジケータを使用した滅菌確認等を行っている。充填機関係では分注器を使用している液量の設定確認等を行っている。その他に計測器の校正や品質に影響を与える機器について定期的な点検確認を行っている。

実際の生産について
 患者の被曝を最小限にするために半減期の短い核種(99mTc、123I、67Ga、201Tlなど)が好んで使われている。また、β線を放出すると被曝量が増えるためEC(電子捕獲)の核種が多く使われている。コリメータの検出に最適なγ線のエネルギーとして0.1〜0.2MeVの核種が使われており、最近は99mTc、123I、67Ga、201Tlなど主流となっている。
 最近の傾向として、放射線防護の留意点から容器はバイアルからシリンジへ変わっている。これは薬液採取の際の被曝低減を目的としている。さらにシリンジシールドへ移し替える際の被曝低減としてシールド付きシリンジの採用、シールド材質と形状はタングステンを採用して小型化が可能となり、投与しやすくなり術者の手指への被曝低減につながる。今まではタングステン合金ができなく鉛しかなかったが、タングステン合金ができるようになり、最近はタングステンシールドが使われるようになっている。鉛とタングステンを比較すると、比重は鉛11.3、タングステン19.3。鉛は柔らかく成形しやすく安いという特徴があるが、タングステンは非常に堅く、それ自身では成形できないため、合金とすることにより始めて成形可能になった。合金成分として銅やニッケル、最近は鉄が使われている。合金の比重としては約18である。
 テクネジェネレータシステムの特徴として、一般に3つの方法がある。酸化アルミニウムをカラムに詰めたカラム法、メチルエチルケトンを使った抽出法、昇華法(実際には使われていない)である。カラム法は原料の種類により2種類ある。ウランの核分裂生成物を利用したもの(235U+中性子→99Mo)と98Mo+中性子→99Mo+γ(n、γ)法がある。現在は世界的に核分裂生成物を利用したもののみとなっている。核分裂を利用したものの特徴は、比放射能が大きくなるためアルミナの量が少なくでき、カラムサイズが小さくできるため、高濃度の99mTc溶液を得ることができる。 カラム法は減圧バイアルを刺すだけで取扱いが簡単であるが、原料は非常に高価である。(n、γ)法は核分裂生成物はなく原料は安価であるが、欠点としては、キャリアーとして 98Moが入るので比放射能が低くなりカラムサイズが大きくなり、低濃度の99mTc溶液になってしまう。最近は、核分裂生成物の問題から(n、γ)法で原料を作る動きがある。抽出法の利点は低比放射能の(n、γ)法の99Moが利用できる。 メチルエチルケトンで抽出したのち、メチルエチルケトンを除去して生食に溶解することが可能であるので、高濃度、高純度のものを得ることができる。欠点として抽出操作があり取扱い技術が必要である。
 ウルトラテクネカウの製造では、カラムに使用する資材は全て過酸化水素処理を行う。これは、還元性物質があると99mTc還元により不溶性物質となり、溶出時に 99mTcが十分に得ることができない可能性があるため、還元性物質の存在をなくす目的で処理を行う。99Moに関しては、オートクレープ活性したカラムに 99Moを充填して洗浄滅菌し、最終的に 99Moのリークの放射能量、 99mTcの放射能量、溶出液量のチェックを行い、出荷している。
 99mTcシリンジ製剤の製造は、 ステンレスで覆われた鉛製のグローブボックス内で反応や調製を行う。ガラスシリンジは20本1トレイとなっており、滅菌されたものが供給されている。異物の点検はカメラを用いて直接人間の目で確認している。
 サイクロトロン1号機はシングルビーム内部照射であったが、2号機はダブルビーム外部照射となっている。これにより生産量の増加に対応できるとともに、装置本体が簡単な形状となり点検がしやくなった。
 テクネチウム反応形式はヨウ素反応の形式と異なり、反応割合が高く精製工程が不要である。
 品質管理関係の対象としては、RI原料から最終製品関係までである。試験方法は放薬基に載っている方法がメインである。
 工場の出荷部門ではオーダーエントリーシステムを採用し、本社コンピュータと結ばれ製品出荷状況や在庫状況を瞬時に確認して、一般的に出荷30分前に注文を受け付けたものは梱包して出荷している。

鉛等の回収について
 従来よりウルトラテクネカウの鉛容器およびタングステンシールドを回収していたが、最近ではシリンジシールドの鉛容器も回収している。回収は専用容器に入れ、工場に集荷した後に洗浄され、滅菌業者で滅菌再生作業をされたものが工場に戻るしくみである。工場では受入試験を行い使用可能なものについて再利用している。回収システムはコスト的に運用が厳しいが資源の再利用を再優先課題として今後も継続致します。

もどる



Indexへ戻る