通算第262回 定例会記録
基礎講座 Part.I
1.シンチレーションカメラの構造特性と保守点検について
島津製作所医用機器事業部マーケティング部
        核医学担当 専門課長   熊澤 良彦 氏

検出器については、従来から使用されている単検出器型装置の他に多検出器型装置が普及してきているが、内部構造は基本的に同じである。
シンチレーションカメラ (カメラ)の多くはアンガー型であり、ヨウ化ナトリウム(NaI)の平板状結晶を用いている。以前は直径40cm程度の丸型であったが、現在では55×40cm程度の大きな角型結晶を用いている。厚さは通常9.5@である。その上にパイレックスグラス等を用いた光学的透過性を持つ平板型のオプティカルウィンドウやライトガイドがあり、さらにその上に50から100本程度の光電子増倍管(PMT)が六角形に配置される。
検出器の前面にはコリメータが装着される。Anger博士による開発当初はピンホール型が用いられたが、現在ではパラレルホール型が多用され、ひとつひとつのホールは六角形のものが多い。
(1)アンガー型カメラの原理
NaIクリスタルに99mTc-γ線が入射すると、その多くはクリスタルの表面から1〜2@付近までに吸収される。201Tl水銀X線では表面より1@以内でほとんどが吸収され、67Gaの様な300keV程度のエネルギーを持つγ線になるとクリスタルの奥深くまで到達する確率が高くなる。
線源からのγ線は四方八方に放射され、コリメータホールと平行に入射したγ線だけが検出器に到達する。140keV のγ線が入射したときにクリスタル内で発生する光子数は1イベントあたり4,500個程度である。この光も四方八方に分散する。
あるPMTの直下にγ線が入射した時には立体角の関係により、発生した光子の半数近くがPMTに入射することになる。すなはち直上にあるPMTではその内の40数%程度の光子が検出され、隣接した6本のPMTには約9%、そのさらに外周上のPMTでは約1〜2%が検出される。PMTの最初の陰極面に光子が入射すると、約20%の効率で電子を放出し、残りの80%は陰極面において熱的に吸収されて電子放出には寄与しない。このとき放出された電子が、バイアスがかかったダイノードに入射すると各段で加速,増幅され、アノードに到達するときには105〜106倍程度にまで増幅される。これによって回路雑音については無視できる程度の信号電流を得ることができる。この電流をプリアンプで変換し、抵抗マトリクス方式回路を用いた位置計算回路によって各PMT毎に位置に応じて異なる重みにして重み付け加算を行いX-Yの位置信号を作ると同時に、均等加算を行ってエネルギ信号を作成する。特に位置信号については、エネルギ信号で割り算を行う方法でノーマライズを行なうことによって核種による差異や統計誤差の影響をキャンセルしている。また、エネルギー信号は、目的核種からの信号だけを検出する波高分析の目的でも使用される。
アナログカメラではX-Y回路の後、マイクロドットイメージャやCRT上に画像を表示する。高分解能,高画質の撮像が可能であるが、アナログカメラとデータ処理装置(後述)のスタート/ストップ制御操作等を独立して行う必要がある。また、マイクロドットイメージャでは画像出力がワンタイムに限られるので再出力は不可能であり、収集中のパラメータ設定ミス等についてもリカバーできない。
現在ではデータ処理装置の発達により、X-Y信号をA-D変換してインターフェイスを介した後、イメージメモリ上に収集し、表示回路を通して画像をマルチイメージャ等に出力する方法が普及した。例えば、XY各12bitにA-D変換後、カメラインターフェイスでは特定の上位bit数のみを取り出してメモリのアドレス上へ割り振る。特にデジタルカメラではデータ処理装置からカメラの制御も同時に行えるようになっているが、その他の動作内容についてはアナログカメラデータ処理装置の組み合わせと殆ど同じである。また、マルチイメージャやレーザイメージャを使用すると何回でも画像出力が可能であり、表示条件を変えて再出力できる。
シンチレーションカメラの特徴のまとめ
a.広いエネルギー範囲
50から400keV程度のγ線全てについて位置演算を行う。
b.散乱線除去のためにエネルギー波高分析を利用
c.パルスカウント方式を利用
γ線1個毎にカウント処理を行う。X線写真やX線CT等ではX線管からパルスを放出し、それを検出する積分濃度処理であるが、核医学ではランダムに放出されるγ線の各イベント毎にリアルタイムで処理を行う。
d.コリメータは目的に応じて多様な種類(エネルギ,感度,分解能)がある。
e.データ収集モードが多種類(スタティック,ダイナミック,ゲート,全身スキャン,ECT)である

(2)空間分解能,均一性の向上、そのための機器改良点
カメラの傾向としては、丸型から角型大視野へと向かい、空間分解能,エネルギ分解能および計数率特性等も大幅に向上している。均一性や直線性についても同様である。これらの性能向上にはコリメータ,クリスタル,ライトガイド,PMTおよび位置計算回路の改良が大きく寄与している。
まず、クリスタルについては従来から使用されているNaI;TlではあってもTlのdope量を変えることによって発光量を増やす改良が加えられている。
オプティカルウィンドウについてはパイレックスグラスより光透過性の高いKグラスと呼ばれる素材に変え、1イベントあたり約4,500個に及ぶ光子の利用率を高め、ロスを最小限に抑え込む努力がなされている。従来は、オプティカルウィンドウ上にさらにライトガイドと呼ばれる20@厚程度のアクリル板を用いることにより光学的均一性を高めてきた。現在では空間分解能を向上する目的でライトガイドそのものを薄くしたり省略している。その結果生じる空間的歪が激しくなり、均一性が低下する。ライトガイドを薄くした場合の補正方法としては、ライトガイドとオプティカルウィンドウの間に光学的なマスクを設けて立体角を修正する方法がある。ライトガイドを省略した場合の補正方法としては、各PMTの出力に非線形回路を設ける方法がある。この方法では、歪の元となる一定レベル以上の信号強度を抑える「抑圧回路」を用いて電気的修正を加え、光学的マスクの代用にしている。一方、各プリアンプにスレッショルド回路を設けてノイズをカットする方法もとられている。これにより、発光した点の直上のPMTと隣接の6本のPMTだけが位置演算に寄与するようにすることができる。こうして統計誤差が低減され、空間分解能が向上する。PMTについても、よりエネルギー分解能の高いものを使用することによって、同時に空間分解能も向上している。
直線性補正を行う場合にはスリットパターンを用いた収集を行い、X軸方向の補正には縦のパターン,Y軸方向の補正には横のパターンのデータを用いて、各位置での歪量から逆方向のベクトル(ΔX,ΔY)を求めて補正を行う。実際例としては、128×128のマトリクスでデータ収集を行って、各基本的歪量を求めた後で、補正段階では二次元的に補間をすることにより4096×4096マトリクスレベルでの補正を行う方法がとられている。
実際の補正例を見ると直線性補正の結果が最もよく反映され、エネルギ補正による効果は相対的に小さいが、メーカによってはさらに均一性補正をかけて完璧を期するところもある。
均一性補正は高感度なPMTの部分と低感度なPMTの部分との計数値のバランスをとることによって行われる。
A-D変換後に画像歪補正回路をいれる場合、大きく分けて2つの方法がある。まず最初にエネルギ補正をして次に直線性補正を行い、それでも補正しきれない場合に均一性補正回路を入れる方法である。直線性は各核種によって歪み方が若干異なる場合があり、エネルギ補正回路を前段として、その後から直線性補正を行うと核種毎に最適な補正が得られないことがあり、これを均一性補正回路で修正する。
もう一つは、先に直線性補正回路を設けて次にエネルギ補正を行う方法である。先に直線性補正を行っておくと核種に関わらず同等の補正が可能となる。その後でエネルギ補正を行えば均一性補正回路は殆ど不要である。ただし、この場合は直線性補正回路の前段にプリアナライザ回路の追加が必要であり、入射γ線毎に、使用する直線性補正係数の核種の決定をする必要がある。
最近はファンビームコリメータの改良もあげられる。もともとパラレルコリメータの場合では感度と空間分解能は相反する関係である。ファンビームコリメータは断層方向には焦点を持ちECT回転軸方向にはパラレルな構造のため像拡大の機能をもち、空間分解能を上げながら高感度を維持することが可能である。

(3)画像劣化の要因
シンチレータの黄変や、PMTのゲイン,電気回路のオフセット値やゲインが経時的あるいは温度によって変化することが主な要因である。
PMTについて、1年間で1000本のPMTに対して連続試験を行った場合に、不良になる確率は1〜0.5本程度のレベルである。ただし、これはPMTが完全に潰れた場合の話であり、実際には±10〜20%のゲイン変動が生じる場合がある。この点はPMT各個の確率的問題である。変動を補正するためには一定期間経過毎にチューニングを実施する必要がある。チューニングは従来ではサービスマンがマニュアルで行ったが、最近はオートチューニングを行う装置が増えている。各々のPMTからの信号について位置演算を行い、その際のゲインをコンピュータ内で所定のレベルと比較し、PMTへの印加電圧を変化させることによってゲインを補正する、またはプリアンプのゲインを補正する。

オートチューニングの方法には次の2通りがある。
a.線源を利用する方法
本法では、核種のエネルギには経時的な変化が無いので基準信号が安定しているという利点があり、最近の 装置では±1〜2%程度の補正が可能である。3〜4ヶ月に1回程度の間隔でユーザによって実施可能であり、シンチレータに若干の変性が生じた場合でも同時に補正が可能である。また、この方法は温度に対して安定である。すなはちNaIの発光量の温度変化は1℃あたり-0.17%程度であり、PMTの増幅率の温度変化も-0.1〜-0.2%程度である。但し、本方法は磁場変化に対しては補正効果が無いため、別途ミューメタルで磁気シールドを行っている。
b.内蔵LEDを利用する方法
この方法はチューニング実施時以外でも常に自動補正を行うので手間がかからないが、緑色LEDの温度変化は1℃あたり約-0.7%でPMT温度変化の数倍にもおよぶことから、1%の精度での補正は原理的に困難である。但し、本方法は磁場変化に対しても補正効果を持っている。

(4)性能評価と品質管理
NaI;Tl単結晶カメラについて、日本放射線機器工業会とユーザーにより検討,制定されたJESRA X-67「ガンマカメラ検出部性能の保守点検基準」において検出器関係の保守点検項目と基準を規定している。実際の評価方法,測定方法については米国NEMA規格を参考に制定されたJESRA X-51「ガンマカメラの性能測定法と表示法」(1985年制定、現在改訂作業中)において規定されている。
ほかにも、IEC,日本アイソトープ協会や各関連学会において制定された勧告等が関連規格として存在している。JESRA X67では、積分均一性,微分均一性やスリットパターンを用いた空間分解能および直線性評価等について、検出器単体における固有性能とコリメータ等を含めた総合性能に分けて、
均一性については装置の持つスペックの1.5倍以内
空間分解能,直線性およびエネルギ分解能についてはスペックの1.2倍以内
を目安に定められている。メーカとしても均一性,直線性については、診断精度に直結する特に重要なものとして認識している。
JESRA X-51等のごとく定量的に評価するものの他に、分解能バーパターンや格子状直線性パターンを用いた画像の目視による評価はユーザによって簡便に行い得る実用的で非常に有用なものであり、設置当初のデータと比較することによって日常的な装置の状態のチェックが可能である。
シンチレーションカメラは、これらとメーカのサービスマンによる定期保守点検と組み合わせることによって、常に安心して使用できる状態を保つことが可能となる。
(文責:平瀬 清)
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