通算第224回
東京核医学技術研究会定例会記録       開催日平成4年4月7日
新人のための教育セミナ−Part(1)
                  司会 野村 悦司君(癌研究会病院) 

講演3:ICRP1990年勧告の概要と汚染除去について
   講師:中里 一久氏(慶応義塾大学病院放射線安全管理室室長)
1.ICRP1990年勧告について
(1)改訂のきっかけ
  1945年の広島、長崎における原爆被災者の放射線障害のデ−タを再評価した結果より改訂された。
<再評価のきっかけ。一例>
  従来、原爆は地面に対して垂直に爆発したという仮定のもとに線量分布を計算し、被曝者の放射線障害に対する疫学的調査の結果にもとずいて人体に対する放射線の影響の研究がなされ、その結果をふまえて勧告が出されていた。しかし、原爆投下時の広島地方のガイシに含まれているイオウの放射化を分析して作成した線量分布と上記の線量分布が一致しないことから、原爆は垂直に爆発したのではなく斜めに爆発したのではないかという研究報告より、放射線障害のデ−タの再評価が行なわれた。

(2)90年勧告の特長
 放射線防護体系の組立
 Pbulication26では線量制限体系(線源を管理して線量を制限)
 放射線計測学の発展・・・自然界における被曝状況の解明
 科学技術の進歩・・・・・線源の制御による機器、器材および放射線従事者の被曝の管理
 上記の点をふまえて放射線防護体系を作成し被曝の制御を行なう。

(3)Pbulication26と60の違い
 (1)放射線防護体系の組立
    被曝の制御
  (a)事故被曝
  (b)自然放射線被曝
  (c)潜在被曝
 (2)線量拘束値の導入
  (a)防護の最適化の為の制限条件
     行為の正当化、放射線防護の最適化、個人の線量制限
  (b)医療被曝に対しても制限の必要性を提言
     医療界内部からの医療被曝低減の努力を行なわねばならない。
     (数値は提示されていない。各国独自の制限)
 (3)組織荷重係数の変更
   放射線発癌(疫学的調査)
   非致死性ガンの損害(デトリメント)・・障害と安全の中間が損害と考える
 (4)線量限度の設定
   放射線損害の容認の程度に基づく
 (5)放射線防護実務のための数値(提示されていない)

 
 (6)用語(呼称・概念)の変更
    Publ.60      Publ.26
    等価線量      線量当量

    実効線量      実効線量当量
    放射線荷重係数   線質係数
    放射線防護体系   線量制限体系
    決定論的影響    非確率的影響
    名目確率係数    リスク係数
    潜在被曝       (−)
    線量拘束値      (−)

 (7)線量限度の変更
   職業人について        
              (法定)      (90年勧告)
  線量当量限度     50mSv/年  20mSv/年(5年間の平均)                      (実効線量)
  女子の腹部      13mSv/年  廃止
  水晶体の線量当量限度 150mSv/年 150mSv/年
                      (等価線量)
  皮膚の線量当量限度  500mSv/年 500mSv/年
                      (等価線量)
  手足の線量当量     同上        同上
  妊婦の腹部の限度    10mSv/期間  2mSv/期間
  妊婦の放射性物質の
  摂取量限度       ・・・・・・・・  1/20ALT

 女子の腹部の限度を廃止し、妊娠期間中の被曝限度を低くしたことが特長である。
 胎児を一般大衆と考えてこの限度に決定したのではないかと考えます。

 放射線管理を行なう側からすると、線量当量限度が20mSv/年となると、警戒レベル(20mSv×1/10=2mSv)を、自然放射線被曝2.4mSv/年とどのようにして区別して考えるかが今後の課題である。

 2.汚染除去について
 非密封放射性同位元素の汚染は、測定器具、ガンマカメラ類であれば、その使用が一時不能となり業務の支障にもつながり、人体への汚染は利益のない不必要な被曝を受けることになるため、非密封放射性同位元素の取り扱いにおいては、汚染を引き起こさないように十分な注意をはらわねばならない。
しかし、不幸にも汚染が起こってしまった場合には、汚染の拡大を防止し適切な除染を行なわねばならない。そのために汚染防止、検出法、除染法を十分理解しておく必要がある。

((1))除染レベル
   管理区域内  40Bq/cm^2(アルファ線を含まない)
   管理区域外   4Bq/cm^2(    同上    ) 

(2)汚染の対処法
 (1)物(床、器具等)の汚染
   マ−キング、ふきとり(汚染した本人が行なう)
   除染剤を使用するよりまず水でふきとる(汚染を拡大しないこと)
   続いて材質に合った除染剤を使用する。
   床等・・・石けん洗剤、EDTA等可溶性錯塩形成剤など)

   金属類・・洗剤、クエン酸、硝酸など
 (2)身体への汚染
    a,あわてるな。考えろ。人を呼べ
    b,とにかく流水で洗う(冷静になってから次になすべき事を考える)
    c,中性石けん使用
     サ−ベイメ−タ−で測定、除染が不完全であればCへ
    d,酸化チタンペ−スト、クエン酸水溶液等の除染剤使用(希釈して使用)    
   核医学用RIの除染剤しては錯塩形成剤が適当である。

 (3)身体汚染が除染出来ない場合
   a.髪の毛、つめ・・・・切る
   b.指その他・・・・・・本人であればあきらめる(放射線従事者の運命)害を他に及ぼさないようにする

(3)汚染の検出
 (1)物、体表面
   サ−ベイメ−タ(GM.シンチレ−ション)の使用方法を確実にマスタ−し汚染部分の検出を確実に行なう。

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