定例会記録
・PET検査の原理と装置の概要・
            島津製作所 山本 誠一 先生
        平成4年2月25日

 PETの原理と装置の概要について、特にハードウエアを中心に講義する。
 PET装置の構成は、外見はX線CTとほぼ同じである。ガントリ−、ベッド、コンピュータ、データ収集のラック、処理用コンソールという構成である。
 測定の原理を説明すると、患者にポジトロン放出核種、たとえば18F、15O、11Cなどを静注、あるいはガスとして吸わせる。その患者の臓器に核種が集積し、そこから2本の511KeVのγ線が正反対方向に放出される。それをリング状に配列した検出器が全ての方向から検出し、そのデータを収集回路でγ線を同時計数に測定しX線CTと同じ再構成アルゴリズムで再構成してコンソールに断層画像を表示し、それを解析する。
 次に、同時計数の原理について説明する。患者に投与されたポジトロン核種からはポジトロン陽電子が放出される。放出された陽電子は体内でごく僅かな距離でエネルギーを失う。ポジトロンが放出されてからエネルギーを失うまでをポジトロンの飛程と言う。その飛程はポジトロンのエネルギーに比例して、約数mm程になる。例えば18Fだと平均2mm以下の飛程である。患者に投与されたポジトロンは体内で数mmの飛程でエネルギーを失い、極近傍にある電子に結合する。陽電子とその電子はペア−で消滅する。その消滅した2っの電子の質量に相当するエネルギー(E=MC^2)のγ線を正反対(180°)方向に放出する。それぞれのγ線のエネルギーは511KeVである。この正反対に放出されるγ線の角度が僅かにずれる。その僅かなずれが多少のPETの空間分解能の劣化につながる。ポジトロンの飛程も空間分解能を決める一つの要因になっている。

次に、PET撮像の原理について説明する。2本の正反対方向に放出されるγ線をリング状に配列した検出器で検出する。その方法はγカメラとは違ってコリメータは存在しない。むき出しの放射線検出器がリング状に並んでいる。ポジトロンの消滅位置を決めるのは同時計数を用いる。この方法は対向した2本の検出器からの出力を同時計数回路で同時かどうかを判別する。その同時計数回路では12ナノ秒の範囲で同時に入ったγ線の組合せだけを検出する。消滅は同時に行っているので正反対方向に放出されるγ線が検出される時間は同じになる。同時計数回路で同時かどうかを全ての検出器のペアで検出しておくとコリメータ無しで消滅位置を知ることが出来る。同時計数されるデータをすべて積算し、そのデータをX線CTと同じコンボリュージョン・バックプロジェクション法で画像再構成をする。
 検出器の構造はHEADTOME2では、シンチレータ(BGO.ゲルマニュウム酸ビスマス)、ライトガイドを介して光電子増倍管(PMT)に導かれる。シンチレータはγカメラではNaIが用いられるが、消滅γ線は511KeVのエネルギーをもっているので非常に透過力が強いためNaIでは突き抜けてしまって検出感度が落ちてしまう。そこで、最近のPET装置ではBGOが用いられる。発光量はNaIに比べ1/5位しか無いが、密度が高いため厚みを3cm位とるだけで90%以上のγ線を吸収することが出来る。斜めからγ線が入る場合もあるがNaIだと突き抜けてしまって本当の検出位置と違う所で検出される確率が増えてしまうが、BGOでは密度が高い為、斜め方向から入射したγ線も本当の入射位置の近くで検出できる。それは、空間分解能の劣化を防ぐことが出来る。
 HEADTOME2では、薄いBGOを8枚合わせてライトガイドを介して2回路の光電子倍増管での出力比により、γ線を弁別する構成になっている。空間分解能を向上させるためには、このセンサーのBGOを出来るだけ小さくする必要がある。従来は一つのセンサーに一つのPMTを付けてそれをリング状に配列していた。そうすると非常に高い分解能を得られるが問題点として沢山のシンチレータに1個ずつのPMTを付けるというのは非常に厄介だし配列も難しい。何よりもコストが高くなってしまう。分解能をある程度以上向上させるためにはこうした複数のシンチレータをそれよりも少ない数のPMTで位置決めする、いわゆるコーディング方式の検出器あるいはブロック検出器が最近の主流になっている。

 次に、そのコーディング検出器の動作原理を説明する。検出器はシンチレータ、ライトガイド、2回路内臓光電子増倍管、位置決め回路で構成されている。それぞれのシンチレータには発光が、お互い隣同士に行かない様に反射剤が塗ってある。従って薄いシンチレータの中を反射しながら出力面から出てくる。そしてライトガイドにて二つに分割された発光はPMT−AとPMT−Bに導かれる。AとBの比(A/A+B)を計算することで発光したBGOの位置を決定する。A+Bはγ線が入射した発光光子の線量に比例するので、これはエネルギー信号として波高弁別に用いる。具体的に入力部はどういう位置決め回路になっているかと言うと、ホトマルのAチャンネルからの信号とBチャンネルからの信号をそれぞれアンプにて増幅しアナログ信号の加算を加算回路にて行う。Aだけの信号をそれと合わせるように増幅する。その信号をA/Dコンバータに入力する。その時、電圧入力にA、レファレンスにA+Bを入力する。出力がデジタル化され、なおかつ割り算まで行われる。非常に速い時間で行えるのでこういう構成にしている。それと共にPETではタイミング信号が必要になる。同時計数を計るため非常に短い時間精度の高い時間信号が必要になる。コンパレ−タを用いて或る一定のレベルを入力信号が越えるとパルスを出す様なタイミング検出回路でタイミング信号をとってエネルギーの弁別したものを出力するという構成になっている。

 次に、検出器の性能はどう評価するか。エネルギー波高分布は横軸にマルチチャンネルアナライザーのチャンネルナンバー、縦軸にチャンネルのカウントをとる。検出器のA+Bのエネルギー信号を波高弁別器に入力してその分布を描かせると511KeVのエネルギー分解能がピーク値の半値幅の24%程度になる。これは発光光子の数にして100個位の分解能に相当する。γ線1個に対して約100個の光子が検出される。又、別の性能として時間分解能がある。どれだけ正確に時間情報を検出出来るか、と言う性能である。その検出方法は検出器の中央にポジトロン核種を入れ対向する検出器で同時に検出する。同時に入力したγ線に対する出力のタイミング信号を取り出してタイムトゥアンプ リチュ−ドコンバータ(時間波高変換器)にて、一方の信号をスタートに入れて、もう一方の信号をストップに入れる。その間の時間を波高値にして測定すると、スタートからストップまでの時間は理想では0の筈が色々な統計的な揺らぎのせいでガウス分布になって検出される。その半値幅にて時間分解能の性能を決める。島津の装置ではFWHMで6ナノ秒、FWTMで12ナノ秒の精度で時間信号を検出出来る。したがって、同時の時間幅としては12ナノ秒程度をとれば90%以上の同時計数を計測できる。つまり、同時の時間をどの位、狭く出来るかと言う性能になる。 それから重要な性能として、空間分解能がある。その測定は対向した検出器間に22Naのコインソースを垂直な方向に移動させてそれぞれの点において得た同時計数のカウントを縦軸に置き、それぞれの点の位置を横軸に置く。ソースを移動するごとに同時計数の分布が変化していくグラフが得られる。そのグラフの広がりの半値幅にて分解能を定義する。

 次に、内部構造を説明する。検出器ユニットは体軸方向に4リングあって、同時に7スライスを得ることが出来る。なぜ7スライスが得られるか。それは、まずそれぞれの対向した4リングで4スライス得る。それと同時に隣接したリング間も同時に計測する。つまり、1リングと2リング間、2リングと3リング間、3リングと4リング間も同時に計測して、3スライスを得る。合計7スライスが得られる。更に検出器全体がモーターにて体軸方向に動き3ポジションが得られ最大で21スライスの収集が出来る。
 その他、ガントリー内で重要な物には、補正用のライン線源が有る。補正データの測定の時に視野内に入れ、それを回転させてデータを得る。その補正には、まず沢山の検出器の感度が一つ一つ違うので、それを補正する感度補正(ノーマライゼーション)。それから被検者は内部吸収が有るのでその吸収補正。この二つの補正を行う。線源は68Gaで半減期が288日と永いので詰め替えを頻繁におこなわなくて済む利点がある。従来は液体であったため長い期間で気泡が生じることで色々な問題が起こったが、最近は個体の68Gaが購入出来る様になったのでその問題も解消した。それから、ガントリーは患者の任意の位置合わせを行える様にチルトする。ガントリーのトンネル径は520mmでBodyが入る全身用の装置に成っている。
 次に、データ収集回路だか、検出器からの信号は、まずプリアンプに相当する所から送られて位置決め回路に導かれる。その信号を16個で1グループ化する回路(グループエンコーダ)に導く。そこではその信号を2進化して同時計数回路に導く。そのグループ回路が1リング当り6個有る。その6個間の全ての組合せで同時計数する。その同時に得られた物だけその後のメモリーに加算して行く。これがPETのハードウエアの構成に成っている。

 PETの性能評価の項目は
1、空間分解能−−−再構成画像の分解能
2、体軸方向分解能−スライス方向の分解能
3、感度−−−−−−プールファントムに一定の濃度のRIを入れ均一にし、          その時、何Kcpsのカウントが得られるか?
4、計数率特性−−−強い放射能で何Kcpsまで正しい測定が出来るか?
          もし補正すると何%位に納まるか?
5、散乱線割合−−−真の同時計数以外に散乱の同時計数もある。その割合が          どの位有るか?
と言う様な性能評価がある。
 空間分解能の測定はPETのリング内にラインソースをスライス方向に平行に、まず中心に置いて測定し、画像を作りそのプロファイルの半値幅を計測する。次に5、10、15、20cmと中心から離れた所でも測定する。なぜそうするかと言うとPETの分解能は中心で最も良く、辺縁部に行く程悪くなる。それは中心に有るRIを検出する検出器はちょうど正対しているが、中心からずれた所のRIを検出する検出器は斜めを向いているため本当の位置よりも内測に検出されてしまう。その理由により辺縁に行く程、分解能の劣化がある。中心の分解能は4.5mmが辺縁部では7mm位になってしまう。
 計数率特性の測定はプールファントムに15Oを370KBq/ml程入れて測定する。15Oは半減期が123秒と短いので非常に短時間の測定が出来る。そのファントムをPET装置の視野の中心に設置し測定すると約2分の半減期で減衰して行きその計数率を求め対数グラフにプロットする。縦軸に計数率、横軸に濃度を置くと測定値は理想的には直線と成る。ところが、濃度の高いところでは飽和状態になってしまう。これは数え落しによる現象である。ある程度、減衰すると数え落しが少なくなるため直線に乗ってくる。本当の同時計数はこの様になるのだが、PETでは、それ以外に偶発の同時計数が有る。これはたまたま偶然に同時に検出器に入ってしまうγ線である。RIの強度の二乗で増えていくので高い所では真の同時計数を越えてしまう。したがって、あまり沢山のRIを患者に投与しても良い画像は得られない。
 HEADTOME2では1リング当り、96本の検出器が使われている為、前記の性能を保つためには、次の3っの項目を定期的に調整する必要がある。
 1.ゲイン  −−−96本×4リングのホトマルの調整
 2.タイミング−−−同時計数回路に入る同時信号の遅れ量の調整
 3.バランス −−−2本のPMTの出力比でこの中のシンチレータの位置を
           決めている関係でこの2本の出力の調整
これらの自動調整回路がコンピュータに内蔵されている。
 その他、この装置の機能としては、γカメラと同じようにWHOLE BODY SCANも行うことが出来る(リニアスキャン)。18Fで腫瘍シンチ等もおこなえる。
又、吸収補正用データを撮るがそのデータを画像再構成するとX線CTと同じ密度分布が得られる。これは主に心筋の位置合わせ等に使われる。
 最後に、最近NEMAのスタンダードが作られ、それが発表された。これは四種類のファントムを用いて性能評価をしている。その一つは直径20cm、高さ17.5cmの円筒プールファントムである。これは、感度、計数率特性、画像の均一性の測定に使用される。二つ目は円筒プールファントムの中にライン線源を封入出来るようにしたもので、散乱線の割合を測定する。三つ目は円筒プールファントムの中心からずれた所にアクリルの円柱を設け、そこの部分にRIが入らないようにしたもので、散乱同時計数の補正の精度を測定する。四つ目は3種類の円筒を設けて、空気、水、アクリルを詰めたファントムである。これは、吸収補正の精度の測定に用いる。
以上でPET検査の原理と装置の概要を終わる。
              文責:飯田 恭人 (東京大学病院)
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