通算221回 定例会記録  平成4年1月28日
「呼吸器核医学の現状と展望−AIDS症例を含めて−」
      東京都立駒込病院放射線診療科  小須田 茂 先生
1.AIDS患者の呼吸器核医学について
  ・AIDSにおける日和見合併症の早期発見に67Gaシンチが有効である。
  ・AIDSウィルスの説明:HIVウィルスがリンパ球と結合することにより、リンパ球が減少していく。
  ・感染から発症までの説明
   ハイリスク集団:同性愛者から異性間感染へ移行しつつある。
   HIVウィルス感染-->抗体陽性まで3〜8週-->無症候キャリア
    -->AIDS前駆症状(全身リンパ節腫大、体重減少、発熱)-->AIDS潜伏期平均10年
  ・AIDSにおいては日和見感染症、腫瘍(カポジ肉腫など)の早期診断が重要である。
  ・カリニ肺炎(日和見感染):以前は、白血病、悪性リンパ腫、臓器移植患者に稀にみられた。
   AIDS患者においては、80%近くにカリニ肺炎を合併する(一般人は罹患せず、他の疾患でも稀である)。
   AIDS症状出現の先行ないし同時に合併する-->早期発見が非常に重要である。
   67Gaシンチにて強いびまん性の集積がみられる。
   胸部X-P正常例でも67Ga集積例がある(30〜40%)-->カリニ肺炎と断定しても良い。
   CDC(AIDSの診断基準)の中に、胸部X-P正常でも両側肺への67Gaのびまん性集積がカリニ肺炎の診断基準となっている。
  ・AIDS患者の肺野への67Ga集積パターンによる分類
   (1)リンパ節集積 :非定型好酸菌症
   (2)肺内限局性集積:細菌性肺炎
   (3)びまん性集積 :カリニ肺炎
  ・日和見悪性腫瘍(カポジ肉腫、悪性リンパ腫など)
   カポジ肉腫:AIDS以前は日本人には極めて稀であった。
    末梢の皮膚に発症-->転移
    胸部X-Pに異常陰影が存在しても67Gaは集積しない…67Ga(−)
    201Tlはカポジ肉腫に集積する…201Tl(+)
  ・AIDS脳症-->痴呆

2.呼吸器核医学の現状と問題点について
  ・肺シンチの種類の説明
    血流:99mTc−MAA、81mKr
    換気:133Xe、81mKr
    吸入:99mTcガス、99mTc−DTPAエアゾールなど
   保険未適用であるが、普通の画像診断ではわからない肺の機能がわかる。
  ・肺胞上皮透過性
    水溶性…99mTc−DTPAエアゾール
    脂溶性…99mTc−HMPAOエアゾール
  ・気道粘液腺毛移送機構:99mTc−HSAエアゾール
  ・代謝機能:アミン系統の物質やホルモンが肺の毛細血管内皮細胞で活性化されたり、不活性化されたりしている。
   123I-HIPDM、123I-IMP(アミン)…肺の毛細血管内皮細胞に結合してから脳に分布する。
   123I-MIBG…肺内の交感神経分布がみられる。
  ・多発性肺血栓塞栓症
   血栓症:剖件例の10%程度と言われている。
   臨床上、換気と血流バランスの把握が必要。
   RIの肺シンチは換気・血流の状態を簡単に捉えることができる唯一の方法である。
   肺血流シンチで6方向(前面、後面、両側面、後方斜位)以上の撮像が原則。
 下葉に塞栓が多い-->重なりを防ぐ為、斜位を撮像する(最近は8方向も)。
   換気正常であっても換気・血流のミスマッチにより塞栓症の診断を行うため、両方を同時に施行する必要がある。
  ・血流シンチで欠損像を呈する疾患
   (1)肺動脈閉塞
   (2)占拠性疾患(肺内占拠性病変):心陰影拡大、肺癌
   (3)肺動静脈婁:MAA粒子が素通りしてしまう。
   (4)気管支拡張症
   (5)肺胞低酸素症(気管支が詰まった場合):毛細血管がスパスムを起こすといわれている。
   (6)肺高血圧症:悪化すると肺尖部にのみ血流がいく。
   換気、血流検査を同時に施行し、換気、血流ミスマッチを証明しなければならない。
   血流シンチのみで鑑別を行う場合には、撮像条件を通常より濃く撮影し欠損の周囲に淡い陰影(ストライプサイン)がでた場合は肺塞栓症ではない。
  ・99mTcガス(エアゾール)の紹介
   粒子径(99mTcを炭素に吸着させる):5〜20nm
   緊急時に対応性がある(検査の随時性)。
   多方向から像をえられる。
   換気シンチ:一度吸入すると肺胞に吸着され、数時間イメージが変化しない(81mKrガスのように持続吸入しなくて良い)。
  ・深部静脈血栓症
   肺血栓塞栓症の約9割に合併-->RIvenographyが有効である。
   99mTc−MAAにて血流シンチと同時に施行する。
  ・呼吸困難の原因
   PaO2(動脈血酸素分圧)が低下するため。
   低下の原因のうち最重要なのが換気・血流ミスマッチである。
  ・換気・血流ミスマッチ(@/A)
   通常は@/A上昇(血流Aが低下のため):肺血栓塞栓症など
   まれに@/A低下(換気@が低下のため):気管支などが狭窄した場合など-->毛細血管が収縮し、やがて換気とマッチングする(リバースミスマッチという)。
   生理的には換気・血流は一致しない:立位または座位での生活のため
    @/A 上肺野 3.0
   中肺野 1.0 平均 0.8
        下肺野 次第に低下(重力の影響)
  ・肺機能的分画
   換気分布イメージ@:機能的残気量から最大吸気レベルまで133Xeガスを吸い、約15秒呼吸停止。
   肺容量イメージV :5〜6分閉鎖回路にて133Xeガスを吸う。そして、機能的残気量から最大レベルまで133Xeガスを吸い、約15秒呼吸停止。
   洗い出し時間MTT:正常40〜50秒。
             133Xeガスの洗い出し検査は、閉塞性疾患に鋭敏かつ閉塞部位をイメージ化できる。
   吸入相      :133Xeガスを吸ってから平衡に達するまでの数分。
    正常−すぐ平衡になる。
    肺気腫、閉塞性疾患など−平衡相まで長い。
    肺梗塞性疾患、肺繊維腫など−すぐ平衡になる。

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