東京核医学技術研究会定例会記録 
                 開催日平成3年11月30日                        
         平成3年納会講演記録

講演1「核医学診療における放射線防護」
       東京大学医学部放射線健康管理学教室助教授 草間 朋子先生               司会  日本大学板橋病院 佐藤 幸光 君
 講演の冒頭に、昨今患者本人あるいは家族からの医療被曝についての相談が多くあり、患者の放射線被曝に対る不安がうかがえられることから、医療現場の放射線技師や医師が、各検査における被曝線量とその影響を正しく認識した上で患者に正確な説明を行い、被曝に対する無用な不安を解消する必要があると述べられた。
本講演では、核医学検査における被曝線量などの一例を示しながら放射線防護の基礎についての話が行なわれた。
また、医療被曝は限度が規定されていないために被曝量が多く成りがちであり、社会的影響が大きいため医療内部(放射線技師、放射線科医)より医療被曝軽減の働きかけを行なう必要性を訴えられた。

講演内容
1.患者の放射線防護
 (1)被曝軽減の努力として(医療被曝を極力減らす方向で検討する)
  必要な患者に必要な検査の選択(適用の判断を慎重に行なう) 
  適量なRIの投与量の規格化
 (2)患者の被曝量の評価
   預託実効線量での評価
   特定臓器には関係なく確率的影響の発生率を考える場合に使用   
   標的臓器の預託実効線量での評価
   個々の患者の被曝について考える場合に使用
 (3)ICRP勧告 Publication52(核医学検査における被曝量デ−タ)の把握。
   例:骨シンチTc20mCi投与6mGy(自然放射線の3倍年分)  
 (4)RIの告知について(半数程度の施設では告知していない)  
  必要性の是非についての討論が必要である。

2.患者家族の放射線防護
 (1)骨シンチ(Tc20mCi)を受けた患者が、3時間後に子供を1時間抱いた場合、子供の被曝量は5μSv/hr程度。半日位は子供を抱かないように患者に説明する。
 (2)授乳中の核医学検査
  131I等長半減期核種:授乳中止3週間
  Tc等短半減期核種:授乳中止4時間
  検査にあたっては慎重な検討が必要である。

3.医療従事者の放射線防護
  ミルキング、ラベリング等の担当者の手の被曝が重要であり、個人管理を厳重に行なうことが必要である。

4.核医学検査従事者が知っておくべき放射線防護の基礎知識
 (1)放射線(能)量の概念
(2)患者の防護について
 (3)放射線の人体への影響
 (4)非密封放射性物質の安全取り扱い(汚染拡大防止、個人被曝管理)
 
5.放射線の人体に対する影響
   放射線の人体に対する影響には
 (1)確定的影響(しきい値あり)
 (2)確率的影響(しきい値なし)がある。
  核医学検査については確定的影響(皮膚の赤発、白血球の減少)の発生は絶対にありえない。
  確定的影響の中でしきい値が最小である一時不妊ですら精巣への被曝のしきい値は150mSvであり、核医学検査で精巣へ150mSv被爆することはありえない。
  確率的影響(ガン、遺伝的影響)について
   ガン(白血病ふくむ)
   人で200mSv以下の被曝ではガンの発生はない 。       
   骨シンチTc30mCi投与でも10mSvであるからガンの心配はない。核医学検査ではガン(白血病含む)にならない。
   遺伝的影響(胎児の被曝)Publiction56
   胎児の被曝による遺伝的影響は妊娠時期によりその影響が異なる。  
 (1)重度精神発達遅延(知恵遅れ)
   受精後8〜15週(最終月経より10〜17週)での被曝により発生する可能性があるが、この時期には妊娠が判明しており核医学検査を行なうことはない。
 (2)奇形                             
   受精後2〜8週(最終月経より4〜10週)での被曝により発生する可能性がある。この時期は妊娠にきずかない時期であるが、奇形のしきい線量は胎児の被曝量が100mSvであり、核医学検査で胎児が100mSv被爆する事はないので妊娠初期に核医学検査を行なったとしても奇形の発生する可能性はない。
   (骨シンチ20mCi投与で胎児4mSv)

6.環境安全について
  医療では非密封放射性物質を多量に使用しているが,その管理は原子力の現場にくらべるとずさんである.
  管理についてもっと厳しくおこない汚染拡大防止に努力してほしい。
  また廃棄物の量を極力少なくする努力を行なう。

会場からの質問
Q1:パブリケ−ション60(1990年勧告)の導入時期は?
A1:5年先位でしょう   
Q2:患者の家族(介助者)の被曝を医療被曝の範疇にするICRPの考え方は? 
A2:介助者を一般大衆被曝限度(1mSv/年)に抑えることが場合によっては出来ないため。
   安全管理の点からは好ましくないと考える(線量拘束値を学会等で決定し、介助者に適用するという案もある)
Q3:非確率的影響を確定的影響と呼ぶようになったわけ?
A3:確率的影響;1つの細胞におこった突然変異
   確定的影響;組織の細胞の細胞死(臨床的に因果関係がわかる)
   細胞レベルでは、確率的影響も確定的影響もどちらも確率的である。非確率的影響と云う名称は、細胞レベルでの確率的影響を否定することになる。
Q4:低線量での影響放射線ホルニ−シス(低線量被曝における+の影響)については? 
A4:まだ研究段階で管理に取り入れる時期ではない        
Q5:短半減期核種の低レベル廃棄物の取り扱いについて
A5:低レベルの短半減期核種は放射性廃棄物に含めなくてもよいのではないかと考えるが、医療従事者はモラルが悪いため、分別がきちんとされないのではないかという懸念から現段階では規制されているが、モラルの向上があれば除外対象になる可能性がある。

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