> 先生の、「こだわり度の変遷」表を見たとき、
> 実はとても感動していました。
> 時間がたつとどんどん変化する主観的な意見よりも、
> そのときに大事にしていたこと、考えたことなど、もっと事
実に近いことを教えてもらうのは、意外に難しいのです。
”対照”を何に求めて比較検討するかという問題なんだよ.自 分と言う個人を比較検討する時に,自分以外の人を対照にする ことはよくやるのだけれど,それがいつも適切な結論を引き出 せるかというと,そうではないよね.たいていの場合は嫉妬と か,劣等感とか,ろくでもない産物しか出てこない.
ところが,過去の自分自身を対照にすると,これが結構面白い
.それが,「こだわり度の変遷」表なんだ.なあんだ,自分はあんな
馬鹿なこと考えていたんだって気づくわけ.そこで得るのは,自分自身の客観化と,自分の進歩だよね.年をとるのは悪いこ
とばかりじゃないと思えるし,”今の若い人は”なんていう傲
慢な考えも出てこなくなる.だって,自分の若い頃を意識した
ら,今の若い人たちの方がずっと優秀だってすぐわかるから.
これはお世辞じゃなくて厳然たる事実だ.だって,少なくとも
,私のHPを読んだり,私の話を聞いたり,私とメールをやりと
りする若い人は,スタートラインが若い頃の私と同じなのに,
それ以後の私の進歩を知っているわけだからね.若い頃の私よ
り優秀に決まっているじゃないか.
そういう優秀な若い人と議論して,話を聞かせてもらって,自 分が更に進歩する.その面白さを味わうのが教育なんよ.このメールだって,あなたとの,双方向の通信教育だよね.
> 実は、自分でも「医療崩壊」を購入してしまいました。
> 現場で働いていると、ついつい木を見て森が見えないです。
> こういう本を読むことで自分が働いている職場がどういうも
のか理解が深まりますね。
そうなんだよ.”対照”を他人にすると,産物が好ましくない ことが多いと言ったけれど,思考の座標軸を自分の生活や自分 の職場以外に取ることは,しばしば有益だ.
旅行や学会出張に行くのは,思考の座標軸を外に移す利点があ
る.時々,学会出張に言っても,自分の職場をそのまま持ち込む人もい
るけどね.
「医療崩壊」みたいな本を読むこともそうだよ.自分の職場の 中にずっといて,気づかなかったり,袋小路になってしまって いたりする時に,座標軸を移して,新たなことに気づかせてくれる.
私が,PMDA以外に,診療現場,地方巡業,薬学部学生の授業,BSE問題評論,医学教育教材の作成と,いろいろなところに顔を出すのも,やはり座 標軸を移して,自分を豊かにするためなんだ.
総合診療や家庭医を目指す人たちとの議論は,神経内科医とし
て行き詰まりを感じて,神経内科に愛想をつかしかけていた私
に,実は,神経内科は,素晴らしいコミュニケーションの手段
(医者と医者の間,医者と患者の間,医者とコメディカルの間
すべて)だってことを気づかせてくれたし,面白いDVDもでき
たし,地方巡業であちこち呼んでもらえるようにもなった.
マルチフリーターっていうと派手に聞こえるけど,座標軸を変えて,自分の仕事と自分自身を眺めた地道な活動の結果だよ.